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翔が書いた物語
第59話:同行者
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「リオ様、貴方は死の大陸に向かうおつもりでしょう?」
やがて顔を上げたエレアヌは、比較的落ち着いた声で問う。
「えっ……な、何で分った……?」
図星であった。
「分りますよ。貴方はそういう人です。自分の身が危険でも、誰かが助けを求めていると駆け付けずにはいられない。たとえそれが、人間以外でも。だからこそ、人々は勿論、妖精たちにも愛されるのです」
穏やかに微笑むエレアヌの瞳は、まだ涙に濡れている。
「貴方を導くのは、貴方に宿る魂ですから。私には、それを止める事など出来はしません。ですから……」
そこまで言うと、優美な青年は袖で涙を拭い去り、隣に座っている少年の黒い瞳をひたと見据えてこう続けた。
「死の大陸へは、私達四人が同行いたします」
「四人?」
怪訝そうにリオが問いかけた時、遠くから足音が近付いてくる。
「リオ!」
真っ先に走って来たのは、前世の養い子。
「俺を置いてったら承知しないからなっ!」
息を弾ませて駆け寄った彼の額には、汗が滲んでいて、柔らかな銀髪が貼り付いていた。
「シアル?」
「結界の外へは一緒に行くって約束だろ?」
呆然とするリオの両腕をガッチリと掴み、気性の激しい少年は大きな蒼い瞳で睨む。
「見つかりましたよ、エレアヌ様」
続いて来るのは、青い髪と紫色の瞳をもつ長身の青年。
服装はいつもと変わりないが、腰のベルトには長剣を差していた。
肩から下げた布袋、そこから少しはみ出している物が見える。
(……竪琴……?)
リオは首を傾げた。
「遅くなってごめんなさい。弦が切れていたので、張り替えていたんです」
歩幅の違いでやや遅れて歩いてきたのは、白金色の髪と勿忘草色の瞳をもつ少女。
「ミーナ? 四人って……まさか、君も?」
「はい」
さすがに面食らい、裏返った声で問うリオに、おとなしい雰囲気のミーナははにかんだ笑みで答える。
「……えっ、だって君は魔物が怖いよね……?」
意外な展開に、本来は子供っぽい性格であるリオは狼狽した。
「平気です。リオ様と一緒なら」
そんな彼に、少女はきっぱりと言う。
普段は裾の長いワンピースを着ている彼女だが、今は淡いピンクのシャツとクリーム色のズボンという、動きやすい服装をしていた。
「駄目だ、危険すぎるよ。向こうでは、何が起こるか分らないんだから……」
「その危険な場所に、一人で行こうとしてたのは、どこの誰だよ?」
焦るリオに、ツッコミを入れるのはシアル。
腕を掴んでいた手はもう離しているけれど、少々きついその瞳は常に守護すると誓った相手へと向けられていた。
「この数日間、私はずっとあの岩の怪物について調べておりました。そして見つけたのです、あれを倒す方法を。それには、彼等が必要なのです。どうか共に行く事を許してやって下さい」
横から、穏やかな口調でエレアヌも言う。
エレアヌ、シアル、オルジェ、ミーナ。
四人の視線が、黒髪の少年に集中した。
しばし沈黙した後、深い溜息をついてリオは呟く。
「……分ったよ」
柔らかな風が、彼の髪を揺らして吹き抜けた。
やがて顔を上げたエレアヌは、比較的落ち着いた声で問う。
「えっ……な、何で分った……?」
図星であった。
「分りますよ。貴方はそういう人です。自分の身が危険でも、誰かが助けを求めていると駆け付けずにはいられない。たとえそれが、人間以外でも。だからこそ、人々は勿論、妖精たちにも愛されるのです」
穏やかに微笑むエレアヌの瞳は、まだ涙に濡れている。
「貴方を導くのは、貴方に宿る魂ですから。私には、それを止める事など出来はしません。ですから……」
そこまで言うと、優美な青年は袖で涙を拭い去り、隣に座っている少年の黒い瞳をひたと見据えてこう続けた。
「死の大陸へは、私達四人が同行いたします」
「四人?」
怪訝そうにリオが問いかけた時、遠くから足音が近付いてくる。
「リオ!」
真っ先に走って来たのは、前世の養い子。
「俺を置いてったら承知しないからなっ!」
息を弾ませて駆け寄った彼の額には、汗が滲んでいて、柔らかな銀髪が貼り付いていた。
「シアル?」
「結界の外へは一緒に行くって約束だろ?」
呆然とするリオの両腕をガッチリと掴み、気性の激しい少年は大きな蒼い瞳で睨む。
「見つかりましたよ、エレアヌ様」
続いて来るのは、青い髪と紫色の瞳をもつ長身の青年。
服装はいつもと変わりないが、腰のベルトには長剣を差していた。
肩から下げた布袋、そこから少しはみ出している物が見える。
(……竪琴……?)
リオは首を傾げた。
「遅くなってごめんなさい。弦が切れていたので、張り替えていたんです」
歩幅の違いでやや遅れて歩いてきたのは、白金色の髪と勿忘草色の瞳をもつ少女。
「ミーナ? 四人って……まさか、君も?」
「はい」
さすがに面食らい、裏返った声で問うリオに、おとなしい雰囲気のミーナははにかんだ笑みで答える。
「……えっ、だって君は魔物が怖いよね……?」
意外な展開に、本来は子供っぽい性格であるリオは狼狽した。
「平気です。リオ様と一緒なら」
そんな彼に、少女はきっぱりと言う。
普段は裾の長いワンピースを着ている彼女だが、今は淡いピンクのシャツとクリーム色のズボンという、動きやすい服装をしていた。
「駄目だ、危険すぎるよ。向こうでは、何が起こるか分らないんだから……」
「その危険な場所に、一人で行こうとしてたのは、どこの誰だよ?」
焦るリオに、ツッコミを入れるのはシアル。
腕を掴んでいた手はもう離しているけれど、少々きついその瞳は常に守護すると誓った相手へと向けられていた。
「この数日間、私はずっとあの岩の怪物について調べておりました。そして見つけたのです、あれを倒す方法を。それには、彼等が必要なのです。どうか共に行く事を許してやって下さい」
横から、穏やかな口調でエレアヌも言う。
エレアヌ、シアル、オルジェ、ミーナ。
四人の視線が、黒髪の少年に集中した。
しばし沈黙した後、深い溜息をついてリオは呟く。
「……分ったよ」
柔らかな風が、彼の髪を揺らして吹き抜けた。
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