【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
405 / 428
翔が書いた物語

第56話:遠い昔の恋人

しおりを挟む
 「…どうか今だけ…お許し下さい…」
 涙の粒がいくつも落ちて、リオの黒髪を濡らす。
 どこかで聞いた乙女の声が、脳裏に蘇った。

  ―――「たとえどのような姿、どのような関係に生まれても、私はあなたの魂を愛しています」―――

 「……エリエーヌ……」
  知らず漏れた呟きに、青年の肩がピクリと動く。
  エレアヌの腕の力が少し緩み、大人しく抱き締められていたリオは顔を上げた。

 「エレアヌは、彼女の転生者なんだよね?」
  真っ直ぐに見つめる瞳に、嫌悪の翳は無い。
 「いいよ。しばらくこうしていても」
  人なつっこい笑みを浮かべ、リオは穏やかな口調で言う。
  ただそっと抱擁されたまま、しばし沈黙の時が流れた。

「何だか不思議だな。エレアヌと僕が恋人だった頃もあるなんて」
  随分長く感じられる数分が過ぎた後、童顔の少年は女顔の青年に笑みかける。
 「……遠い昔、この世界が誕生するより以前の事ですよ……」
  気持ちが静まったのか青年も笑みを返し、抱き締めていた腕をそっと離した。

 「魂が輪廻し始めてから、途方もない時代が過ぎています。前世は、もはや一つではありません」
  生命の木に歩み寄り、足首まである金髪を揺らして立ち止まった青年は、細い指先を枝へと近付け、豊かな緑の葉の一つに触れる。

  千年近くの時を経た大樹。

  「魂」は、それよりも遥かな時を越え存在し続けている事を、エレアヌは勿論、リオも今では理解出来る。

 「けれど人は、よほどの事が無ければその記憶を残してはいないでしょう」
  木洩れ日が煌めく梢に若葉色の瞳を向け、穏やかな物腰の青年は、口元に僅かな笑みを浮かべる。
 「【リュシオン】と【エリエーヌ】の記憶は、私も殆ど覚えてはいません。ただ、貴方の魂に惹かれる心だけは、強く残っているのです」
  あと数センチ伸びたら地面に届きそうな金髪を、風が柔らかく持ち上げ、なびかせた。

 「じゃあ、さっきの涙はエリエーヌの心が流したもの?」
  大木の根元に座り込み、リオは優美な青年を見上げる。
  異世界へ来て間もなく二ヶ月、切る機会が無くて伸ばしっぱなしになっている黒髪を、風は撫でる様に揺らしていった。

 「そうです。すみません、女々しくて」
 「涙を流すのは、悪い事じゃないよ」
  伏し目がちに言うエレアヌに対し、リオは真っ直ぐな視線を向けて応えた。
  目を丸くする青年に、素直な心をもつ少年は、柔らかく笑いかける。

  ―――…泣きたければ泣けばいい…―――

 ふいに、エレアヌの脳裏に、ずっと以前に聞いた言葉が蘇った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。 ※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...