【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
400 / 428
翔が書いた物語

第51話:アムルの花

しおりを挟む
「リオ!」
  外に出ると、畑の真ん中に座っていたシアルが立ち上がり、すぐに駆け寄って来る。

「アムルの花、見にきたんだろ?」
「どうしてそれを?」
「今朝エレ兄が言ってたんだ。そろそろ歩き回ってもいい頃だし、畑の方まで散歩出来るだろうって」
  彼の問いに、シアルは笑顔のまま答える。

「アムルの木に花が咲いたって聞けば、お前なら絶対見にくると思ったんだ」
  シアルはリオの片手を掴み、畑の方へと引っ張ってゆく。
「もう少し歩調を緩めなさい、リオ様を疲れさせないように」
  走り出しそうな勢いのシアルを、医者代りのエレアヌが慌てて窘めた。

「そっか、悪い」
  シアルは素直に従い、リオに合わせる様にして歩き始める。
  その行く手にはもう、白っぽい花を付けた若木が見えてきていた。
「……これがアムルの花?」
  近くまで来ると、リオは地面に膝をつき、高さ五〇センチほどの小さな木に咲く満開の花々を見つめる。
  五枚の花びらをもつそれは、よく眺めると白ではなく、淡いピンク色をしていた。

 (桜に似てるな……)
  かわいらしい花びらの一つにそっと触れ、リオは故郷の花を思い出す。
  ここに来るきっかけとなった図書館には、菩提樹以外にもたくさんの木々が植えられていて、桜の木も何本かあった。
  毎年春になれば満開の花をつけるその木々を好んでいたのは、彼だけではない。
  本を借りに来た人々は年齢性別関係なく、一度はその花に目を奪われた。
  時には飲み会帰りの酔っ払いが、その木の下で二次会だか三次会だかを始めたりもする。

 (……あと半月で、ここに来てから二ヶ月か。向こうでは正月も終わった頃かなぁ……。あと三ヶ月も経てば桜の季節がくる。それまでに、僕は日本に帰れるだろうか……?)
  エルティシアに来て以来、次々に色々な事が起きたため考える機会がなかった元の世界、桜に似たアムルの花は、日本人である彼の心に淡い郷愁を生み出した。

 「大丈夫ですか? もしや、お疲れになられたのでは……」
  微かに溜め息をつくリオの顔を、エレアヌが心配そうに覗き込む。

 「え? ち、違うよ」
  リオはハッと我に返り、慌てて片手をヒラヒラと振ってみせた。
  もう一度アムルの花に視線を向けた後、彼は立ち上がり片膝についた土を払う。

(……きっと帰ってみせる。……この世界で成すべき事を済ませたら……)
  その胸の内には、灯にも似た思いが宿っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。 ※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

処理中です...