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翔が書いた物語
第42話:出発の準備
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翌日、リオは昼近くになって目を覚ました。
激しい運動後の様に、身体の節々が痛む。
軋む身体に顔をしかめつつ起き上がると、隣の寝台は既に整えられ、同室で暮らすシアルの姿は無い。
昼食の支度をする人々のざわめきを遠くに聞きながら寝台から床へと滑り降りた時、木戸を軽く叩く音がした。
「そろそろ目を覚まされる頃だと思いましたので、着替えを持ってきました」
返事を待って、入ってきたのはエレアヌ。
そっと差し出されたのは、一揃いの衣服。
「リオ様……」
それを受け取る少年の黒い瞳を真っ直ぐに見つめ、淡緑色の瞳をもつ優美な青年は微かな笑みを浮かべて言う。
「……死の大陸へは、私も同行いたします」
その言葉に、リオは目を丸くした。
「本当に行かれるおつもりですか?」
声を低くして囁きかけるのは、ラーナ神殿の長老格である【地】の神官。
「死の大陸は化け物しか住まぬ、呪われた地と言われています」
地肌が僅かに見える薄い毛髪も、山羊に似た顎髭も白く、絹糸のように柔らかい。
「いくら聖なる力をお持ちのリオ様でも、危険すぎるのでは」
面長で深い皺が刻まれた顔の、細く白い眉を寄せ、老神官は嗄れた声で懸念の意を示す。
傷が癒えた途端に旅支度を始める少年の元へ、その身を案ずる人々が集まる。
窓から差し込む陽光が、様々な色合いの髪を艶やかに照らしていた。
「私達もそう思います」
「せめて同行する者を増やしてください」
先のファルスの里行きでは黙って見送った者も、二度も結界の外で負傷した彼を見てはそうもいかない。
「私を同行させて下さい」
深青色の髪をもつオルジェは、紫水晶色の瞳でリオを見据えて言う。
「これでも、護身用にと武術の修行を積んでおります」
リュシアの性格をよく知る幼馴染みは、その生まれ変わりが危険な旅に出ようとするのを止められぬなら、護衛の役を買って出ようと考えていた。
骨太で肩幅の広い彼は、似たような身長のエレアヌよりも筋肉質な体格をしている。
「私も行かせて下さい」
何人かの若者が、続いて名乗り出る。
背の高い人々に囲まれ、中心にいるリオは随分小さく見えた。
「ありがとう」
その声は、十五歳の少年にしては少し高い。
人なつっこい笑みは、年齢より幼く見えた。
けれど深奥に強い意思を宿す彼は、若者達の申し出に対し、きっぱりと答える。
「でも、そんなに沢山ついて来てもらっても困るな」
「何故ですか?」
真っ先に問うのはオルジェ。
「聖なる力や聖剣が無くとも、我々も魔物と戦うつもりです」
紫色の瞳は、リオの背後で布袋の紐を縛ろうと引っ張っている、銀色の髪をもつ少年にチラリと向けられた。
シアルは気付かず、手際良く荷造りを進めてゆく。
「お願いです、御共させて下さい」
「足手纏いになったりはしませんから」
オルジェほどではないが、ガッチリとした体躯をもつ者等も、口々に懇願する。
「違うんだ」
意気込む若者たちを、リオはよく通る声で制した。
「死の大陸へは、戦いに行く訳じゃない。大地の妖精を解放しに行くだけだよ」
言いながら彼は、人々の間にゆっくりと視線を巡らせる。
澄んだ瞳が、民の一人一人を見つめた。
「黒き民が何をしようとしているのか、僕には分からない。でも、僕の中で『南へ、死の大陸に向かえ』という声がする」
その口調に、迷いの気配は無い。
「あの地には、救いを求める者がいる。大地の妖精だけじゃなく、他にも……」
そこまで言うと、リオは自分が発した言葉の意味を考えるかのように、しばし沈黙した。
誰が救いを求めているのか、それは彼にも分からない。
「……大丈夫、危なくなったらすぐ逃げる」
そして思い付いたように言い、悪戯っぽい笑みを浮かべると、周囲を囲む人々の表情は僅かに緩んだ。
激しい運動後の様に、身体の節々が痛む。
軋む身体に顔をしかめつつ起き上がると、隣の寝台は既に整えられ、同室で暮らすシアルの姿は無い。
昼食の支度をする人々のざわめきを遠くに聞きながら寝台から床へと滑り降りた時、木戸を軽く叩く音がした。
「そろそろ目を覚まされる頃だと思いましたので、着替えを持ってきました」
返事を待って、入ってきたのはエレアヌ。
そっと差し出されたのは、一揃いの衣服。
「リオ様……」
それを受け取る少年の黒い瞳を真っ直ぐに見つめ、淡緑色の瞳をもつ優美な青年は微かな笑みを浮かべて言う。
「……死の大陸へは、私も同行いたします」
その言葉に、リオは目を丸くした。
「本当に行かれるおつもりですか?」
声を低くして囁きかけるのは、ラーナ神殿の長老格である【地】の神官。
「死の大陸は化け物しか住まぬ、呪われた地と言われています」
地肌が僅かに見える薄い毛髪も、山羊に似た顎髭も白く、絹糸のように柔らかい。
「いくら聖なる力をお持ちのリオ様でも、危険すぎるのでは」
面長で深い皺が刻まれた顔の、細く白い眉を寄せ、老神官は嗄れた声で懸念の意を示す。
傷が癒えた途端に旅支度を始める少年の元へ、その身を案ずる人々が集まる。
窓から差し込む陽光が、様々な色合いの髪を艶やかに照らしていた。
「私達もそう思います」
「せめて同行する者を増やしてください」
先のファルスの里行きでは黙って見送った者も、二度も結界の外で負傷した彼を見てはそうもいかない。
「私を同行させて下さい」
深青色の髪をもつオルジェは、紫水晶色の瞳でリオを見据えて言う。
「これでも、護身用にと武術の修行を積んでおります」
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骨太で肩幅の広い彼は、似たような身長のエレアヌよりも筋肉質な体格をしている。
「私も行かせて下さい」
何人かの若者が、続いて名乗り出る。
背の高い人々に囲まれ、中心にいるリオは随分小さく見えた。
「ありがとう」
その声は、十五歳の少年にしては少し高い。
人なつっこい笑みは、年齢より幼く見えた。
けれど深奥に強い意思を宿す彼は、若者達の申し出に対し、きっぱりと答える。
「でも、そんなに沢山ついて来てもらっても困るな」
「何故ですか?」
真っ先に問うのはオルジェ。
「聖なる力や聖剣が無くとも、我々も魔物と戦うつもりです」
紫色の瞳は、リオの背後で布袋の紐を縛ろうと引っ張っている、銀色の髪をもつ少年にチラリと向けられた。
シアルは気付かず、手際良く荷造りを進めてゆく。
「お願いです、御共させて下さい」
「足手纏いになったりはしませんから」
オルジェほどではないが、ガッチリとした体躯をもつ者等も、口々に懇願する。
「違うんだ」
意気込む若者たちを、リオはよく通る声で制した。
「死の大陸へは、戦いに行く訳じゃない。大地の妖精を解放しに行くだけだよ」
言いながら彼は、人々の間にゆっくりと視線を巡らせる。
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「黒き民が何をしようとしているのか、僕には分からない。でも、僕の中で『南へ、死の大陸に向かえ』という声がする」
その口調に、迷いの気配は無い。
「あの地には、救いを求める者がいる。大地の妖精だけじゃなく、他にも……」
そこまで言うと、リオは自分が発した言葉の意味を考えるかのように、しばし沈黙した。
誰が救いを求めているのか、それは彼にも分からない。
「……大丈夫、危なくなったらすぐ逃げる」
そして思い付いたように言い、悪戯っぽい笑みを浮かべると、周囲を囲む人々の表情は僅かに緩んだ。
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