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翔が書いた物語
第40話:黒髪の青年
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「お前が聖者か?」
地割れのすぐ向こう側に出現したリオに、そこに佇んでいた一人の青年が問う。
「白き民も遂に狂ったか、闇の色をもつ者を聖者と呼ぶとは……」
肩の辺りまで伸びた漆黒の髪、黒い瞳。
肌だけが、白人のように色素が薄い。
その身に纏うのは、黒いビロードに似た生地に、紫色の糸で刺繍を施した長衣。
傍らには、細身の身体に若葉色の長衣を纏った青年が横たわっていた。
サラサラした栗色の長い髪が、その背や地面に広がっている。
「大地の妖精!」
駆け寄ろうとしたリオ(リュシア)の行く手を、黒髪の青年が一歩進み出て遮る。
「風と水と火はお前に取られてしまったが、こいつは渡さぬ」
言いながら、彼は傍らに倒れている青年の手首を無造作に掴んで引き上げた。
そして、玲瓏とした声で呪文を詠唱する。
「精封球よ、獲物を捕らえよ。封縛!」
直後、空間に染み出すように現れた漆黒の球体が、若葉色の長衣を纏った青年を覆う。
「リュシア……!」
刹那、意識を取り戻した青年が顔を上げ、掴まれていない方の手をリオへと伸ばした。
「こいつは渡さんと言った筈だ」
前世の名で呼ばれ、思わず一歩踏み出した少年を、黒髪の青年が再び遮る。
精封球に捕らえられた大地の妖精は、その背後に隠され見えなくなった。
闇色の瞳をもつ青年は、自分とよく似た色彩をもつ少年に冷ややかな眼差しを向ける。
「お前にはこれをくれてやる」
ニヤリと笑う青年の背後の岩がパンッと音をたてて砕け、無数の鋭い破片となってリオへと飛んだ。
「うぁっ!」
直撃は免れたものの、両横を掠めていった破片に裂傷を負わされ、リオは声を上げる。
「私は黒き民の長・ディオン=オブシ=アス。こいつを取り返したければ、我が城まで来るがいい」
衝撃で地面に転がる少年をチラリと眺め、ディオンと名乗る青年は空間に溶け込む様に姿を消した。
同時に、背後の精封球も大地の妖精を捕らえたまま、その場から消え失せる。
後には、鮮血を流しながら起き上がるリオだけが残された。
シアルがリオを見つけた頃には、ディオンと大地の妖精の姿は無かった。
「そこにいるの、リオか?!」
地割れの向こう側に小さな人影を見て、シアルは声を張り上げる。
こちらと向こうはかなり離れていて、それがリオであるかどうかは確認出来ない。
けれど彼は、構わず叫んだ。
「俺も連れてけって言ったろっ!」
(シアル?)
その声に、リオは背後を振り返る。
かつて彼が裂いた大地の向こうに、やっと人間だと判るほど小さな人影が見えた。
何か叫んでいるのだが、遠すぎて聞き取れない。
そこで彼は、先刻使った空間移動の力を試みた。
「どうしたんだよ、その怪我!」
いきなり目の前に現れた黒髪の少年を見て、銀髪の少年は目を剥く。
「……岩が割れて……飛んできた……」
ボーッとした表情で立つリオは、頬や肩、腕や脇腹、足に至るまで何かに切り裂かれたような傷を負っていた。
衣服は当然ボロボロで、流れ続ける鮮血に染まっている。
地面にもポタポタと血が滴った。
「だから一人で行くなって……」
怒鳴りかけたとき、リオの身体がグラリと傾ぎ、シアルは慌ててそれを抱き留めた。
身長差が無い為、両脇に腕を回して支える。
「……変だな……身体に力が入らない……」
「馬鹿やろ、怪我してんのに空間移動なんかするから!」
相手の肩に顎を乗せた格好で、だるそうな呟きを漏らすリオに、シアルが怒鳴る。
そして彼はリオを背負い、ラーナ神殿へと駆け出した。
地割れのすぐ向こう側に出現したリオに、そこに佇んでいた一人の青年が問う。
「白き民も遂に狂ったか、闇の色をもつ者を聖者と呼ぶとは……」
肩の辺りまで伸びた漆黒の髪、黒い瞳。
肌だけが、白人のように色素が薄い。
その身に纏うのは、黒いビロードに似た生地に、紫色の糸で刺繍を施した長衣。
傍らには、細身の身体に若葉色の長衣を纏った青年が横たわっていた。
サラサラした栗色の長い髪が、その背や地面に広がっている。
「大地の妖精!」
駆け寄ろうとしたリオ(リュシア)の行く手を、黒髪の青年が一歩進み出て遮る。
「風と水と火はお前に取られてしまったが、こいつは渡さぬ」
言いながら、彼は傍らに倒れている青年の手首を無造作に掴んで引き上げた。
そして、玲瓏とした声で呪文を詠唱する。
「精封球よ、獲物を捕らえよ。封縛!」
直後、空間に染み出すように現れた漆黒の球体が、若葉色の長衣を纏った青年を覆う。
「リュシア……!」
刹那、意識を取り戻した青年が顔を上げ、掴まれていない方の手をリオへと伸ばした。
「こいつは渡さんと言った筈だ」
前世の名で呼ばれ、思わず一歩踏み出した少年を、黒髪の青年が再び遮る。
精封球に捕らえられた大地の妖精は、その背後に隠され見えなくなった。
闇色の瞳をもつ青年は、自分とよく似た色彩をもつ少年に冷ややかな眼差しを向ける。
「お前にはこれをくれてやる」
ニヤリと笑う青年の背後の岩がパンッと音をたてて砕け、無数の鋭い破片となってリオへと飛んだ。
「うぁっ!」
直撃は免れたものの、両横を掠めていった破片に裂傷を負わされ、リオは声を上げる。
「私は黒き民の長・ディオン=オブシ=アス。こいつを取り返したければ、我が城まで来るがいい」
衝撃で地面に転がる少年をチラリと眺め、ディオンと名乗る青年は空間に溶け込む様に姿を消した。
同時に、背後の精封球も大地の妖精を捕らえたまま、その場から消え失せる。
後には、鮮血を流しながら起き上がるリオだけが残された。
シアルがリオを見つけた頃には、ディオンと大地の妖精の姿は無かった。
「そこにいるの、リオか?!」
地割れの向こう側に小さな人影を見て、シアルは声を張り上げる。
こちらと向こうはかなり離れていて、それがリオであるかどうかは確認出来ない。
けれど彼は、構わず叫んだ。
「俺も連れてけって言ったろっ!」
(シアル?)
その声に、リオは背後を振り返る。
かつて彼が裂いた大地の向こうに、やっと人間だと判るほど小さな人影が見えた。
何か叫んでいるのだが、遠すぎて聞き取れない。
そこで彼は、先刻使った空間移動の力を試みた。
「どうしたんだよ、その怪我!」
いきなり目の前に現れた黒髪の少年を見て、銀髪の少年は目を剥く。
「……岩が割れて……飛んできた……」
ボーッとした表情で立つリオは、頬や肩、腕や脇腹、足に至るまで何かに切り裂かれたような傷を負っていた。
衣服は当然ボロボロで、流れ続ける鮮血に染まっている。
地面にもポタポタと血が滴った。
「だから一人で行くなって……」
怒鳴りかけたとき、リオの身体がグラリと傾ぎ、シアルは慌ててそれを抱き留めた。
身長差が無い為、両脇に腕を回して支える。
「……変だな……身体に力が入らない……」
「馬鹿やろ、怪我してんのに空間移動なんかするから!」
相手の肩に顎を乗せた格好で、だるそうな呟きを漏らすリオに、シアルが怒鳴る。
そして彼はリオを背負い、ラーナ神殿へと駆け出した。
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