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翔が書いた物語
第38話:エレアヌの涙
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肩や背を包む、人のぬくもり。
リオは背後からエレアヌに抱き締められていた。
「……貴方が命を落としたら、どれだけの人間や妖精が悲しむと思っているのですか?」
声を震わせ、エレアヌは言う。
「それに……貴方には、やらねばならない事があるのですよ。今この世を去ったりしたら、私はまた転生者を探しに行かねばならない」
感情を押し殺した呟きと同時に、抱擁する力が僅かに強まる。
「……貴方は知らないでしょう……私がどんな思いでリュシアの死を見届けたかを……」
「エレアヌ?」
背中がジワリと湿るのを感じ、リオは顔を上げた。
「……すいません」
ハッと我に返り、エレアヌは自分より狭い背から顔を離す。
そして、足首まで伸びた黄金の髪を翻し、慌てた足取りで歩き去ってゆく。
(……涙……?)
残されたリオは、シャツの背が僅かに湿っている事に気付いた。
「リオ」
その時、頭上から声が降ってきた。
見上げると、風に揺れる緑の葉陰に、一人の少年がいる。
銀糸のような銀髪が、柔らかく揺れた。
「いつからそこに?」
「お前が来るより前から」
問いに答えて、枝から身軽に飛び下りてきたのはシアル。
「俺、よくここで昼寝するんだ。この木の上って何か落ち着くから」
(……そういえば、あの時もいたな)
リオはふと、エルティシアに来たばかりの頃を思い出した。
剣を投げ付けてきた時も、この銀髪の少年は豊かに茂る葉の間から姿を現した。
おそらくその直前まで、シアルは木の上で昼寝をしていたのだろう。
「悪いけど、今の話……聞いちまった……」
真っ直ぐに視線を合わせ、紺碧の瞳をもつ少年は、黒い瞳をもつ少年を見つめる。
穏やかに吹く風が、銀髪と黒髪をふわりと揺らした。
「二度と言うなよ、あんな事」
「え?」
シアルの瞳が微かに震えているのに気付き、リオは僅かに首を傾げる。
「『殺されていれば』なんて、二度と口に出すなよっ!」
喉の奥から声を絞り出す様に、激しやすい少年は叫んだ。
「……シアル……」
リオは呆然と、蒼い瞳を見つめる。
「これを見ろ」
そんな彼に、シアルは片手を突き出した。
開いた掌に金色の光明が発現し、棒状の光となった後、一本の剣に変わる。
翼ある西洋竜の姿を象った燻し銀の柄。
先端にあたる丸まった尾に嵌め込まれた、金紅色の宝石。
それは、曇り一つ無い鏡の様な刀身の、美しい剣だった。
「この『夜明けの光の剣』は、聖なる者を護る為に、神が作ったといわれている」
横向きに持ち変えた剣を突き出したまま、シアルはリオの目を真っ直ぐに見つめる。
「俺はリュシアが死んだ後、これを手に入れた」
激しさを抑えて語る少年の脳裏に、さほど遠くはない過去の記憶が蘇った。
リオは背後からエレアヌに抱き締められていた。
「……貴方が命を落としたら、どれだけの人間や妖精が悲しむと思っているのですか?」
声を震わせ、エレアヌは言う。
「それに……貴方には、やらねばならない事があるのですよ。今この世を去ったりしたら、私はまた転生者を探しに行かねばならない」
感情を押し殺した呟きと同時に、抱擁する力が僅かに強まる。
「……貴方は知らないでしょう……私がどんな思いでリュシアの死を見届けたかを……」
「エレアヌ?」
背中がジワリと湿るのを感じ、リオは顔を上げた。
「……すいません」
ハッと我に返り、エレアヌは自分より狭い背から顔を離す。
そして、足首まで伸びた黄金の髪を翻し、慌てた足取りで歩き去ってゆく。
(……涙……?)
残されたリオは、シャツの背が僅かに湿っている事に気付いた。
「リオ」
その時、頭上から声が降ってきた。
見上げると、風に揺れる緑の葉陰に、一人の少年がいる。
銀糸のような銀髪が、柔らかく揺れた。
「いつからそこに?」
「お前が来るより前から」
問いに答えて、枝から身軽に飛び下りてきたのはシアル。
「俺、よくここで昼寝するんだ。この木の上って何か落ち着くから」
(……そういえば、あの時もいたな)
リオはふと、エルティシアに来たばかりの頃を思い出した。
剣を投げ付けてきた時も、この銀髪の少年は豊かに茂る葉の間から姿を現した。
おそらくその直前まで、シアルは木の上で昼寝をしていたのだろう。
「悪いけど、今の話……聞いちまった……」
真っ直ぐに視線を合わせ、紺碧の瞳をもつ少年は、黒い瞳をもつ少年を見つめる。
穏やかに吹く風が、銀髪と黒髪をふわりと揺らした。
「二度と言うなよ、あんな事」
「え?」
シアルの瞳が微かに震えているのに気付き、リオは僅かに首を傾げる。
「『殺されていれば』なんて、二度と口に出すなよっ!」
喉の奥から声を絞り出す様に、激しやすい少年は叫んだ。
「……シアル……」
リオは呆然と、蒼い瞳を見つめる。
「これを見ろ」
そんな彼に、シアルは片手を突き出した。
開いた掌に金色の光明が発現し、棒状の光となった後、一本の剣に変わる。
翼ある西洋竜の姿を象った燻し銀の柄。
先端にあたる丸まった尾に嵌め込まれた、金紅色の宝石。
それは、曇り一つ無い鏡の様な刀身の、美しい剣だった。
「この『夜明けの光の剣』は、聖なる者を護る為に、神が作ったといわれている」
横向きに持ち変えた剣を突き出したまま、シアルはリオの目を真っ直ぐに見つめる。
「俺はリュシアが死んだ後、これを手に入れた」
激しさを抑えて語る少年の脳裏に、さほど遠くはない過去の記憶が蘇った。
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