【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

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翔が書いた物語

第37話:迷い

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  それから数日の間、リオはほとんど笑みを浮かべず、人々から離れて考え事をすることが多かった。

 (……僕は一体、ここへ何をしに来たんだ……?)
  生命の木の傍らに立ち、リオは遠い地平を眺める。
  水の恵みのおかげで、大地には緑が芽吹き始めていた。
  優しい風がその頬を撫で、日本を離れた時より少し伸びた黒髪を揺らす。

「リオ様」
  背後の呼び声に、彼は振り返った。
 「何を悩んでおられるのですか?」
  絹糸よりも柔らかな長い金髪を揺らしつつ、歩み寄ってきたのは賢者と呼ばれる青年。
  女性かと思うほど柔和な顔に浮かぶのは、春の日溜りの様な温かさを感じさせる笑み。

 「皆が心配しています。話してもらえませんか? ファルスの里で何があったかを……」
  淡緑色の瞳に見つめられ、リオはポツリポツリと話し始めた。
 「……ファルスの里は……エレアヌが言っていた通り、廃墟だった……」
  菩提樹に似た巨木の根元に腰を下ろして、年齢よりも幼く見える少年は静かに語る。

 「彼等は何百年も前に亡くなり、不死の霊薬フィアルスによって蘇らされていたんだ……」
 「不死の霊薬フィアルス?」
  エレアヌは形の良い眉を寄せる。
  けれどそのまま、彼は続きを促した。

 「彼等は、生きているとも死んでいるともいえる状態だった。……僕は……創始の炎イフリィトの封印を解き、ファルスの民を完全な死へと追いやってしまった……」
  ふっと逸らされた黒い瞳から、透明な滴が零れ落ち、乾いた地面に染みを作る。

 「……あの人達にとって……救いとは何だったんだろう……?」
  喉の奥が熱くなるのを感じながら、リオは呟いた。
 「……せっかく拾った命を手放して、それで満足なんだろうか……?」
 「不死の霊薬フィアルスで蘇生された者は、まともな生命活動を営む事は出来ません」
  膝を抱えた少年の肩にそっと手を触れ、温厚な青年は穏やかに諭す。
 「食べる事も眠る事も無く、ただ在り続けるだけの虚しい生活から解放されたファルスの民は、きっと満足だったでしょう」
 「消滅を拒否する者もいたんだ!」
  泣き顔を見られるのも構わず、リオは顔を上げた。

  首を絞めようとしたニクスの歪んだ顔が、脳裏に浮かぶ。
  実体のない手は虚しく空を切ったけれど、リオは本当に絞められたような錯覚に陥った。
 
「……僕があの獣に殺されていれば……彼等は滅びずに済んだかもしれない」
  再び視線を逸らし、心を翳らせた少年は膝の間に顔をうずめる。
 「馬鹿な事を言わないで下さい!」
  途端に、彼は背後から抱き締められた。
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