【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
386 / 428
翔が書いた物語

第37話:迷い

しおりを挟む
  それから数日の間、リオはほとんど笑みを浮かべず、人々から離れて考え事をすることが多かった。

 (……僕は一体、ここへ何をしに来たんだ……?)
  生命の木の傍らに立ち、リオは遠い地平を眺める。
  水の恵みのおかげで、大地には緑が芽吹き始めていた。
  優しい風がその頬を撫で、日本を離れた時より少し伸びた黒髪を揺らす。

「リオ様」
  背後の呼び声に、彼は振り返った。
 「何を悩んでおられるのですか?」
  絹糸よりも柔らかな長い金髪を揺らしつつ、歩み寄ってきたのは賢者と呼ばれる青年。
  女性かと思うほど柔和な顔に浮かぶのは、春の日溜りの様な温かさを感じさせる笑み。

 「皆が心配しています。話してもらえませんか? ファルスの里で何があったかを……」
  淡緑色の瞳に見つめられ、リオはポツリポツリと話し始めた。
 「……ファルスの里は……エレアヌが言っていた通り、廃墟だった……」
  菩提樹に似た巨木の根元に腰を下ろして、年齢よりも幼く見える少年は静かに語る。

 「彼等は何百年も前に亡くなり、不死の霊薬フィアルスによって蘇らされていたんだ……」
 「不死の霊薬フィアルス?」
  エレアヌは形の良い眉を寄せる。
  けれどそのまま、彼は続きを促した。

 「彼等は、生きているとも死んでいるともいえる状態だった。……僕は……創始の炎イフリィトの封印を解き、ファルスの民を完全な死へと追いやってしまった……」
  ふっと逸らされた黒い瞳から、透明な滴が零れ落ち、乾いた地面に染みを作る。

 「……あの人達にとって……救いとは何だったんだろう……?」
  喉の奥が熱くなるのを感じながら、リオは呟いた。
 「……せっかく拾った命を手放して、それで満足なんだろうか……?」
 「不死の霊薬フィアルスで蘇生された者は、まともな生命活動を営む事は出来ません」
  膝を抱えた少年の肩にそっと手を触れ、温厚な青年は穏やかに諭す。
 「食べる事も眠る事も無く、ただ在り続けるだけの虚しい生活から解放されたファルスの民は、きっと満足だったでしょう」
 「消滅を拒否する者もいたんだ!」
  泣き顔を見られるのも構わず、リオは顔を上げた。

  首を絞めようとしたニクスの歪んだ顔が、脳裏に浮かぶ。
  実体のない手は虚しく空を切ったけれど、リオは本当に絞められたような錯覚に陥った。
 
「……僕があの獣に殺されていれば……彼等は滅びずに済んだかもしれない」
  再び視線を逸らし、心を翳らせた少年は膝の間に顔をうずめる。
 「馬鹿な事を言わないで下さい!」
  途端に、彼は背後から抱き締められた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

俺だけが持つユニークスキル《完全記憶能力》で無双する

シア07
ファンタジー
主人公、レン・クロニクスと幼馴染である、サクヤが一緒に買い物へ行っている時だった。 『ユニークスキル《完全記憶能力》の封印が解除されました』 という機械のような声が聞こえ、突如頭が痛みだす。 その後すぐ周りが急に暗くなり、頭の中に数々の映像が見せられた。 男女の怪しげな会話。 サクヤとの子供時代の会話。 つい最近出来事など様々だった。 そしてレンはそれをみて気づく。 ――これがレン自身の記憶であることを。 さらにその記憶は。 「なんで、全部覚えてるんだ……」 忘れることがなかった。 ずっと覚えている。 行動も時間もなにもかもすべて。 これがレンだけが持つ、最強のユニークスキル《完全記憶能力》の能力だった。 ※他サイトでも連載しています

処理中です...