383 / 428
翔が書いた物語
第34話:告げられた真実
しおりを挟む
ファルスの森全体に異変が起こった。
大地が激しく震動し、枯れて脆くなった木々の幹や枝が、たやすく砕け散る。
半ば崩れかけ、廃屋の様な状態だった家々が、積み木の如く崩れ落ちた。
「早く逃げろっ、出来るだけ遠くへ!」
ニクスは怒鳴り、森の外へ指先を向けた。
しかし、人々は誰もその場を動こうとはしない。
「何をぐずぐずしてる、急げ!」
「無駄だよ、もう我々の心は決まっている」
尚も怒鳴る彼に、灰色の髪と瞳の老人スエッグが、嗄れた声で言う。
「それに、今さら走り出しても間に合わんさ。ニクス、諦めろ。我々は随分長い間、自然に逆らい続けてきた……」
その瞬間、森の中心部に位置する里の地下から、膨大な量の炎が吹き上がる。
「……もうそろそろ、戻ろう……」
スエッグの言葉を最後に、ファルスの森は炎に包まれた。
人と獣、二つの姿をもつ人々は、全員がまるで紙の様に燃え上がる。
彼等は一瞬の内に灰と化し、風と炎の中に消えていった。
「あぁっ!」
痩せた少年が、絶叫して身体を硬直させる。
「アーヴ?!」
リオの意識が【リュシア】を押し退け、真紅に染まった異空間を進んでアーヴに近付いた。
苦しそうに仰け反って悲鳴を上げ続けるアーヴを抱き寄せて、彼は息を呑む。
華奢な少年の身体が、腕の中で消し炭の様に崩れてゆく。
焦点の合わぬ金茶色の瞳も引き吊った頬も、まるで乾いた土団子の様に脆く崩れる。
目の前で、少年の身体は分解・四散し消え去った。
空っぽになった腕の中を見つめて、リオはしばし呆然とする。
―――…一体、何が起きたのか…―――?
「心配ない。その子は還っただけだ。本来の輪に……」
背後の声に、リオは振り返った。
そこには、冷静な表情で腕組みした創始の炎が立っている。
「どういう事なんだっ!」
珍しく語気を荒らげるリオを、創始の炎と呼ばれる妖精は怪訝そうに見つめる。
「ファルスの民は、とうに滅びた一族なのだ」
永く生きる妖精は、真実を告げる。
「既に死んだ人間が、闇の薬によって魂を肉体に繋ぎ止めていたに過ぎない」
告げられた真実に、リオは言葉が出てこなかった。
「その子の仲間も今、炎の浄化を受けた。見てくるがいい、この地の本当の姿を……」
温かいと感じるだけで熱くはない炎に包まれた途端、リオは上へ押し上げられた。
『……貴様……よくも里を滅ぼしてくれたな……』
地上へと送り出されたリオの前に、蜃気楼の様に実体の無い、赤い瞳と黒い肌や髪をした男が現れる。
『せっかくあの方が永遠の命をくれたのに……貴様はそれをブチ壊した……』
血のような色をした瞳でリオを睨み、男はその両手を伸ばしてきた。
首でも締めようとするかのような仕草……
……けれど実体の無い手は虚しくすり抜け、男は悔し気に顔を歪めた。
大地が激しく震動し、枯れて脆くなった木々の幹や枝が、たやすく砕け散る。
半ば崩れかけ、廃屋の様な状態だった家々が、積み木の如く崩れ落ちた。
「早く逃げろっ、出来るだけ遠くへ!」
ニクスは怒鳴り、森の外へ指先を向けた。
しかし、人々は誰もその場を動こうとはしない。
「何をぐずぐずしてる、急げ!」
「無駄だよ、もう我々の心は決まっている」
尚も怒鳴る彼に、灰色の髪と瞳の老人スエッグが、嗄れた声で言う。
「それに、今さら走り出しても間に合わんさ。ニクス、諦めろ。我々は随分長い間、自然に逆らい続けてきた……」
その瞬間、森の中心部に位置する里の地下から、膨大な量の炎が吹き上がる。
「……もうそろそろ、戻ろう……」
スエッグの言葉を最後に、ファルスの森は炎に包まれた。
人と獣、二つの姿をもつ人々は、全員がまるで紙の様に燃え上がる。
彼等は一瞬の内に灰と化し、風と炎の中に消えていった。
「あぁっ!」
痩せた少年が、絶叫して身体を硬直させる。
「アーヴ?!」
リオの意識が【リュシア】を押し退け、真紅に染まった異空間を進んでアーヴに近付いた。
苦しそうに仰け反って悲鳴を上げ続けるアーヴを抱き寄せて、彼は息を呑む。
華奢な少年の身体が、腕の中で消し炭の様に崩れてゆく。
焦点の合わぬ金茶色の瞳も引き吊った頬も、まるで乾いた土団子の様に脆く崩れる。
目の前で、少年の身体は分解・四散し消え去った。
空っぽになった腕の中を見つめて、リオはしばし呆然とする。
―――…一体、何が起きたのか…―――?
「心配ない。その子は還っただけだ。本来の輪に……」
背後の声に、リオは振り返った。
そこには、冷静な表情で腕組みした創始の炎が立っている。
「どういう事なんだっ!」
珍しく語気を荒らげるリオを、創始の炎と呼ばれる妖精は怪訝そうに見つめる。
「ファルスの民は、とうに滅びた一族なのだ」
永く生きる妖精は、真実を告げる。
「既に死んだ人間が、闇の薬によって魂を肉体に繋ぎ止めていたに過ぎない」
告げられた真実に、リオは言葉が出てこなかった。
「その子の仲間も今、炎の浄化を受けた。見てくるがいい、この地の本当の姿を……」
温かいと感じるだけで熱くはない炎に包まれた途端、リオは上へ押し上げられた。
『……貴様……よくも里を滅ぼしてくれたな……』
地上へと送り出されたリオの前に、蜃気楼の様に実体の無い、赤い瞳と黒い肌や髪をした男が現れる。
『せっかくあの方が永遠の命をくれたのに……貴様はそれをブチ壊した……』
血のような色をした瞳でリオを睨み、男はその両手を伸ばしてきた。
首でも締めようとするかのような仕草……
……けれど実体の無い手は虚しくすり抜け、男は悔し気に顔を歪めた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる