【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
381 / 428
翔が書いた物語

第32話:獣の民の心

しおりを挟む
 一方、半ば廃屋と化した家々に囲まれた広場で、獣の姿をした民はぼんやりと時間を過ごしていた。

 (……これでいい……)
  灰色の狼となったスエッグは、硬い地面に伏せて、軽い溜め息を漏らす。

 (これで、私達は還れる。本来の自分に……)
  雪が降る前の空を思わせる灰色の瞳は、人である時と同じ穏やかさを保っていた。

 「ホントウニ、ソレデイイノカ?」
  枯れた木立ちの影から問いが投げ掛けられ、人間の顔と獣の身体をもつ者が姿を現した。

 「ニクス!」
  途端に、スエッグは声を上げた。
  といっても、普通の人間には狼の唸り声にしか聞こえないのだが。
 ムクッと立ち上がった彼に、スフィンクスに似た漆黒の怪物が歩み寄る。
  真紅の炎を思わせる双眸に、もはや狂気の翳りは無かった。
  それでも、やはり不気味に見える容姿。

「正気に戻ったのか?」
  灰色の狼から人間へ戻り、スエッグは問う。
 「ついさっきな。あの小僧が着けていた、守護石の光のおかげで……」
  ニクスと呼ばれた半人半獣も、ヒョイッと後足で立つ格好をしたかと思うと人間の姿に変わった。

 「それよりも……皆、本気であれを解放するつもりなのか?」
  赤い瞳以外、すべてが炭のように真っ黒な体格の良い男…。
  年齢は、スエッグとさほど変わらないけれど、筋肉質な体躯や黒い髪のせいで、ニクスの方が若く見える。
 「それがどうなる事か、分ってるのか?」
  やや吊り目気味の、全体に赤い色をした瞳が、激しさを秘めて灰色の瞳を睨んだ。


 「封印を解くには、この下に降りなければなりません」
  洞穴の一番奥にある深い縦穴を覗き込み、アーヴは少し震える声で言った。
  狭い肩や縦穴の縁についた両手は、見た目にも分かるほど震えている。

 「寒いのか?」
  訳が分からず、リオは問うた。
  けれど、穴の中からは汗ばむほどの熱気が溢れ出ていて、寒いとは思えない。

 「それとも、また具合が……?」
  口に出しつつも、そうではない事を願わずにはいられない。
  癒しの力が全く効かない少年の命を繋ぐ薬は、今ここには無いのだ。

 「いえ、何でもありません」
  隣で膝をつくリオに目元だけの微かな笑みを向けると、アーヴはついと立ち上がる。
  その両足は、ガクガクと震え続けていた。

 「行きましょう」
  両足の膝頭を掴んでその震えを押さえると、華奢な少年は思い切ったように穴の中へ飛び込んだ。

 「アーヴ!」
  慌てて立ち上がり、リオもそれに続いた。

  縦穴は深く、底は暗くて見えない。
  けれどしばらく下へ進むと、急に落下速度が遅くなり、二人の少年は並んで空中を浮遊し始めた。
  更に下降するに従って、足元の闇に仄かな紅い光が見え始める。

 「……もっと……下……へ……」
  掠れた声で言うと、アーヴは自分の両肩を掴んで顔をしかめた。
 「やっぱり具合悪いんだろ? 上へ戻って少し休んだ方がいいんじゃないかな」
  虚弱な少年をいたわる様に、リオはそっとその肩に触れた。
 (熱い?!)
  途端に、彼はギョッとした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。 彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。 だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない! 強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します! ※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。 ※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

処理中です...