379 / 428
翔が書いた物語
第30話:獣の爪
しおりを挟む
「……遂に来てくれた……聖なる者が……」
暗闇の中に漏れる、掠れた呟き。
「……やっと……私も彼等も戻れる……」
姿は見えない。声だけが虚無の空間に響いている。
「……さあ……早く救い出してくれ……輪の中へ……!」
黒い闇の中で、仄かな紅い光が揺れた。
「……?」
リオは、ふと背後を振り返った。
「どうかしましたか?」
突然立ち止まり、何かを探すようにキョロキョロする彼を見て、アーヴも歩みを止め、首を傾げる。
「……今……誰かの声が……」
そう言ったものの、二人以外に人影は見当たらず、少年たちは再び歩き出した。
密集する立ち枯れの木々はその枝を絡ませ、視界を随分遮っている。
しばらく進むと、茶色い蔓草の向こうに、小さな洞穴が見え始めた。
「この中に、ファルスの人々が本来の姿に戻れる鍵があります」
枯れた草が簾の様に覆う入り口の、数メートル前まで来ると、今までよりも声のトーンを落とし、ファルスの幼き里長は説明する。
「けれど、村人たちや僕は、それに触れる事が出来ないのです」
目を伏せると、彼は一層病弱に見えた。
「お願いします。ここに封じられた大いなる力を解き放ってください」
すがるような瞳がリオへと向けられた時、二人の背後で枯れ枝の折れる音がした。
「?!」
振り返った先には、三頭の獣たちがいる。
頭だけが人間の若い男で、首から下は豹に似た獣の姿という、怪物じみた彼等の全身は、黒炭の如き色。
エルティシアに来てから、リオは一度しかその色を見た事がない。
一ヶ月前、水の妖精の空間を食い荒らしていた、アメーバ状の怪物。
のっそりと歩み寄ってくる獣達は、それと同じに黒かった。
(確か、この世界に黒い色をした生き物はいないって……)
リオはアーヴを背後に庇った。
ラーナ神殿で得た知識が、彼に危険を感じさせる。
三頭のうち一頭が跳躍した。
「逃げろ!」
鋭く言い放つと、リオは華奢な少年を押し退けた。
直後、漆黒の猛獣が飛びかかる。
小刀の様な爪が、リオの両肩にズブリと突き刺さった。
「うぁっ!」
両肩に激痛を感じた時には、リオは地面に押し倒されていた。
すぐ間近に、血色の目をカッと剥いた男の不気味な顔がある。
(……魔物って……こいつらの事か……?)
リオは反撃しようとするが、【力】が発動しない。
燠火を思わせる口腔から饐えた臭いがする息を吐きかけられ、背中に冷たい汗が流れた。
以前倒したアメーバ状の魔物はリオを傷つけられなかったが、今目の前にいる怪物の爪は容赦なく肩の肉に食い込んでくる。
不気味な男の顔から視線を外せず、リオは頬が引き吊るのを感じた。
暗闇の中に漏れる、掠れた呟き。
「……やっと……私も彼等も戻れる……」
姿は見えない。声だけが虚無の空間に響いている。
「……さあ……早く救い出してくれ……輪の中へ……!」
黒い闇の中で、仄かな紅い光が揺れた。
「……?」
リオは、ふと背後を振り返った。
「どうかしましたか?」
突然立ち止まり、何かを探すようにキョロキョロする彼を見て、アーヴも歩みを止め、首を傾げる。
「……今……誰かの声が……」
そう言ったものの、二人以外に人影は見当たらず、少年たちは再び歩き出した。
密集する立ち枯れの木々はその枝を絡ませ、視界を随分遮っている。
しばらく進むと、茶色い蔓草の向こうに、小さな洞穴が見え始めた。
「この中に、ファルスの人々が本来の姿に戻れる鍵があります」
枯れた草が簾の様に覆う入り口の、数メートル前まで来ると、今までよりも声のトーンを落とし、ファルスの幼き里長は説明する。
「けれど、村人たちや僕は、それに触れる事が出来ないのです」
目を伏せると、彼は一層病弱に見えた。
「お願いします。ここに封じられた大いなる力を解き放ってください」
すがるような瞳がリオへと向けられた時、二人の背後で枯れ枝の折れる音がした。
「?!」
振り返った先には、三頭の獣たちがいる。
頭だけが人間の若い男で、首から下は豹に似た獣の姿という、怪物じみた彼等の全身は、黒炭の如き色。
エルティシアに来てから、リオは一度しかその色を見た事がない。
一ヶ月前、水の妖精の空間を食い荒らしていた、アメーバ状の怪物。
のっそりと歩み寄ってくる獣達は、それと同じに黒かった。
(確か、この世界に黒い色をした生き物はいないって……)
リオはアーヴを背後に庇った。
ラーナ神殿で得た知識が、彼に危険を感じさせる。
三頭のうち一頭が跳躍した。
「逃げろ!」
鋭く言い放つと、リオは華奢な少年を押し退けた。
直後、漆黒の猛獣が飛びかかる。
小刀の様な爪が、リオの両肩にズブリと突き刺さった。
「うぁっ!」
両肩に激痛を感じた時には、リオは地面に押し倒されていた。
すぐ間近に、血色の目をカッと剥いた男の不気味な顔がある。
(……魔物って……こいつらの事か……?)
リオは反撃しようとするが、【力】が発動しない。
燠火を思わせる口腔から饐えた臭いがする息を吐きかけられ、背中に冷たい汗が流れた。
以前倒したアメーバ状の魔物はリオを傷つけられなかったが、今目の前にいる怪物の爪は容赦なく肩の肉に食い込んでくる。
不気味な男の顔から視線を外せず、リオは頬が引き吊るのを感じた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる