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翔が書いた物語
第28話:廃墟と森
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(エレアヌが言ってた廃墟って、ここか……?)
少年を横抱きにして地面に降り立つと、リオは周囲を見回す。
半ば崩れかけた、民家らしき建物。
木戸が腐って崩れ落ちた入口から中を覗いても、人影は無い。
埃だらけの鍋や食器が転がる床には、無数の足跡が残っているが、それは殆どが人間のものではなかった。
「リオ! 見て!」
妖精の一人が叫んだので背後を振り返ると、木々の間から様々な動物達が姿を現した。
茶色の角をもつ鹿に似たもの、灰色のたてがみをもつ狼に似たもの……
リオにとって、今まで見た事の無い獣たち。
彼等は一様に身体が大きく、栗鼠やウサギに似た白い生き物でさえ、リオよりも一回り背丈が上である。
ふいにその姿が霞み、鷹が分解した時の如く細かな粒子となり、集結した時には二十名ほどの人々に変わっていた。
「?!」
リオは息を飲んだ。
……半人半獣……
エレアヌの言葉が、脳裏に蘇る。
人化した者たちの髪や瞳の色は獣であった時と同じで、纏う衣服は少年と似たデザインの長衣だった。
「アーヴ様」
人々の中から灰色の髪をした男が進み出て、嗄れた声で呼び掛ける。
「スエッグ……」
抱えられたまま、金茶色の髪をもつ少年がやっと聞き取れる声で応えた。
「……お連れしたよ……聖なる人……を……」
そこまで言うと、華奢な少年は微かな笑みを浮かべ、使命を遂げた安堵ゆえかフッと意識を手放した。
細い身体が、脱力して仰け反る。
ギョッとしたリオの腕の中で、少年はまるで死体のように何の反応も示さなくなった。
向かいに立つ人々がハッとした様子を見せ、一人が手近な家へと駆け込んでゆく。
そして、小瓶を手に戻って来ると、リオに抱かれた少年の口に小瓶の液体を少し含ませた。
リオは困惑しながら、弛緩した細い身体を抱いて様子を見ている事しか出来ない。
口を湿らせる程度の少量で薬は効果を表し、少年はゆっくりと目を開けた。
「……ありがとう。もう、歩けますから……」
言われて、リオはアーヴをそっと地面に降ろす。
アーヴの茶色の長衣の裾から出ている細い二本の足は、ふらつく事なく立つことが出来た。
「……今の薬は……?」
小瓶を家の中に戻しに行く若い男を見送り、自分より頭一つ背が低い少年に視線を戻すと、リオは問う。
「命を繋ぐ薬です。僕の身体は、これでしか回復しません」
今までとは違い、はっきりとした口調で、か細い少年は答えた。
「気になさらないで下さい。それよりも、ファルスの民の事、お願いします」
顔色は青白いままだが、具合は悪くはないらしい。
「貴方が、我等を救って下さるのですね」
その様子を見ていた、スエッグと呼ばれた初老の男が言う。
灰色の瞳を少年より高い位置にある、リオの顔へと向ける。
漆黒の髪と瞳を目にしても、ファルスの民たちは怯える様子がない。
茶色や金色の双眸は、穏やかに二人の少年を見詰めていた。
年若い者が多いにも関わらず、彼等の瞳は皆、永い時を生きる老人の様に静かな雰囲気を漂わせている。
「事情を、話してもらえるかな?」
「はい」
リオの言葉に応じて、人々の代表格であるらしいスエッグは、昔語りを聞かせるような口調で話し始めた。
少年を横抱きにして地面に降り立つと、リオは周囲を見回す。
半ば崩れかけた、民家らしき建物。
木戸が腐って崩れ落ちた入口から中を覗いても、人影は無い。
埃だらけの鍋や食器が転がる床には、無数の足跡が残っているが、それは殆どが人間のものではなかった。
「リオ! 見て!」
妖精の一人が叫んだので背後を振り返ると、木々の間から様々な動物達が姿を現した。
茶色の角をもつ鹿に似たもの、灰色のたてがみをもつ狼に似たもの……
リオにとって、今まで見た事の無い獣たち。
彼等は一様に身体が大きく、栗鼠やウサギに似た白い生き物でさえ、リオよりも一回り背丈が上である。
ふいにその姿が霞み、鷹が分解した時の如く細かな粒子となり、集結した時には二十名ほどの人々に変わっていた。
「?!」
リオは息を飲んだ。
……半人半獣……
エレアヌの言葉が、脳裏に蘇る。
人化した者たちの髪や瞳の色は獣であった時と同じで、纏う衣服は少年と似たデザインの長衣だった。
「アーヴ様」
人々の中から灰色の髪をした男が進み出て、嗄れた声で呼び掛ける。
「スエッグ……」
抱えられたまま、金茶色の髪をもつ少年がやっと聞き取れる声で応えた。
「……お連れしたよ……聖なる人……を……」
そこまで言うと、華奢な少年は微かな笑みを浮かべ、使命を遂げた安堵ゆえかフッと意識を手放した。
細い身体が、脱力して仰け反る。
ギョッとしたリオの腕の中で、少年はまるで死体のように何の反応も示さなくなった。
向かいに立つ人々がハッとした様子を見せ、一人が手近な家へと駆け込んでゆく。
そして、小瓶を手に戻って来ると、リオに抱かれた少年の口に小瓶の液体を少し含ませた。
リオは困惑しながら、弛緩した細い身体を抱いて様子を見ている事しか出来ない。
口を湿らせる程度の少量で薬は効果を表し、少年はゆっくりと目を開けた。
「……ありがとう。もう、歩けますから……」
言われて、リオはアーヴをそっと地面に降ろす。
アーヴの茶色の長衣の裾から出ている細い二本の足は、ふらつく事なく立つことが出来た。
「……今の薬は……?」
小瓶を家の中に戻しに行く若い男を見送り、自分より頭一つ背が低い少年に視線を戻すと、リオは問う。
「命を繋ぐ薬です。僕の身体は、これでしか回復しません」
今までとは違い、はっきりとした口調で、か細い少年は答えた。
「気になさらないで下さい。それよりも、ファルスの民の事、お願いします」
顔色は青白いままだが、具合は悪くはないらしい。
「貴方が、我等を救って下さるのですね」
その様子を見ていた、スエッグと呼ばれた初老の男が言う。
灰色の瞳を少年より高い位置にある、リオの顔へと向ける。
漆黒の髪と瞳を目にしても、ファルスの民たちは怯える様子がない。
茶色や金色の双眸は、穏やかに二人の少年を見詰めていた。
年若い者が多いにも関わらず、彼等の瞳は皆、永い時を生きる老人の様に静かな雰囲気を漂わせている。
「事情を、話してもらえるかな?」
「はい」
リオの言葉に応じて、人々の代表格であるらしいスエッグは、昔語りを聞かせるような口調で話し始めた。
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