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翔が書いた物語
第27話:ファルスの里
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白夜の太陽光と巨大な地割れに守られる聖域の外。
青空だけが唯一の救いに過ぎない、広大な砂漠が広がっている。
「見て」
リオの肩に触れている妖精の少女が、眼下を指差した。
「水の妖精が清められたから、大地が潤い始めているわ」
言われて目をこらすと、砂色の地表にポツポツと小さな染みの様な若緑色をした部分が見える。
更に南へ進むと、彼方に枯れ草の茂みに似た茶色の塊が見えてきた。
「あれが……ファルスの森……です……」
骨張った手でそれを指し示し、金茶色の髪をした少年が途切れ途切れに言う。
茶色の長衣を纏った身体は、未だ死人のように冷たい。
(……治癒の力が効かない……何故?)
落ちないように抱き締めている少年に視線を向け、リオは眉を寄せた。
青ざめた顔や関節の浮き出た手足が痛々しくて、先刻から何度も癒しの力を使っている。
けれど、衰弱した身体は一向に回復しない。
「大丈夫? どこか痛かったり苦しかったりしてない?」
「大丈夫です。こうして抱いてもらっていると温かくて気持ちいいです」
リオが心配して問いかけると、少年は微笑んで答えた。
さりげなく手首の脈を調べると、不規則で弱々しく、時折フッと途切れたりしてヒヤリとした。
呼吸は、眠っている者よりずっと遅い。
息を吸ってから吐くまでが遅すぎて、本当に息をしているのかと心配になる。
体温に関してはよく判らない。
鷹の状態で飛翔してきた直後からずっと冷たいままなので、健康な時は温かいのかどうかは不明。
エルティシアに来てから日数が経ち、自分の中にある【力】を自由に使えるようになったリオだが、鷹から変化したこの少年を全く癒す事が出来なかった。
頼みの綱であるリュシアの意識も、何やら思案しているらしく、表面に出てこない。
(この子を回復させられないのに、僕が何の助けになるっていうんだ?)
伏し目がちな黒い瞳が、微かに揺れる。
オルジェ達の前では強気なふりをしたが、実際のところ自信は無かった。
育った環境の違いか、リオは前世ほど強い意思をもっていない。
ただ、助けを求められれば精一杯の事をしようという気持ちは共通だ。
だから今、彼はファルスの里を目指している。
「……あそこへ……降りて……」
前方に見えてきた茶色の塊が、荒野に在る立ち枯れの森だと分かる所まで近付くと、リオに抱かれた少年が、また途切れがちに言って、その中央部を指差した。
「分かった」
妖精の友である少年が頷くと、風は向きを変え、地上へと下降し始める。
密集した枯れ木が次第に近付き、乾いた枝先が僅かな風にパラパラと砕け散る。
やがて、森の中央に在る石造りの家々が、少年たちの視界に姿を現した。
青空だけが唯一の救いに過ぎない、広大な砂漠が広がっている。
「見て」
リオの肩に触れている妖精の少女が、眼下を指差した。
「水の妖精が清められたから、大地が潤い始めているわ」
言われて目をこらすと、砂色の地表にポツポツと小さな染みの様な若緑色をした部分が見える。
更に南へ進むと、彼方に枯れ草の茂みに似た茶色の塊が見えてきた。
「あれが……ファルスの森……です……」
骨張った手でそれを指し示し、金茶色の髪をした少年が途切れ途切れに言う。
茶色の長衣を纏った身体は、未だ死人のように冷たい。
(……治癒の力が効かない……何故?)
落ちないように抱き締めている少年に視線を向け、リオは眉を寄せた。
青ざめた顔や関節の浮き出た手足が痛々しくて、先刻から何度も癒しの力を使っている。
けれど、衰弱した身体は一向に回復しない。
「大丈夫? どこか痛かったり苦しかったりしてない?」
「大丈夫です。こうして抱いてもらっていると温かくて気持ちいいです」
リオが心配して問いかけると、少年は微笑んで答えた。
さりげなく手首の脈を調べると、不規則で弱々しく、時折フッと途切れたりしてヒヤリとした。
呼吸は、眠っている者よりずっと遅い。
息を吸ってから吐くまでが遅すぎて、本当に息をしているのかと心配になる。
体温に関してはよく判らない。
鷹の状態で飛翔してきた直後からずっと冷たいままなので、健康な時は温かいのかどうかは不明。
エルティシアに来てから日数が経ち、自分の中にある【力】を自由に使えるようになったリオだが、鷹から変化したこの少年を全く癒す事が出来なかった。
頼みの綱であるリュシアの意識も、何やら思案しているらしく、表面に出てこない。
(この子を回復させられないのに、僕が何の助けになるっていうんだ?)
伏し目がちな黒い瞳が、微かに揺れる。
オルジェ達の前では強気なふりをしたが、実際のところ自信は無かった。
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ただ、助けを求められれば精一杯の事をしようという気持ちは共通だ。
だから今、彼はファルスの里を目指している。
「……あそこへ……降りて……」
前方に見えてきた茶色の塊が、荒野に在る立ち枯れの森だと分かる所まで近付くと、リオに抱かれた少年が、また途切れがちに言って、その中央部を指差した。
「分かった」
妖精の友である少年が頷くと、風は向きを変え、地上へと下降し始める。
密集した枯れ木が次第に近付き、乾いた枝先が僅かな風にパラパラと砕け散る。
やがて、森の中央に在る石造りの家々が、少年たちの視界に姿を現した。
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