369 / 428
翔が書いた物語
第20話:2つの世界
しおりを挟む
沐浴を終えると、リオは神殿のすぐ横に建つ塔へ登り、細い線のように見える地割れに目を向けた。
見張りが居る塔とは別の場所なので、そこに常駐する者はいなかった。
(あの向こう側には、誰も住んでいないのかな?)
地割れを眺めつつリオは思う。
妖精たちの呼び名はすぐ思い出せるのに、彼はこの世界がどういう状況なのか、自分は何をすべきか、はっきりとは分からない。
ふわふわと髪を揺らす風は、親し気に寄って来る小妖精たちによるもの。
少し長く湯に浸かって火照った頬に、その風はとても心地よかった。
「ここにいらしたのですか」
低く穏やかな声がして、足首までのびた長髪をもつ青年が、リオに歩み寄ってきた。
湿った金髪が、しなやかに風に揺れる。
「良い風ですね」
空へと向けられた瞳は、木々の若芽と同じ淡い緑。
「エレアヌ」
リオは、日本人には発音しにくいその名を呼んだ。
「はい」
深みのある声が、すぐに応える。
向けられる微笑みは、緑柱石色の空間で会った時から変わらない。
「ここと日本って、どういう関係がある?」
リオは問うた。
違う時空間とか異なる世界とか言われても、ついこの間まで普通の高校生だった彼には、その構造がよく分からない。
「近くに在りながら、通常は行き来できない場所同士……それがエルティシアと日本の関係です……」
穏やかな口調で、エレアヌは語る。
「例えば、この二つの石……こうして転がった状態では触れ合う事はありませんが、これを近付ければ……」
足元に落ちている小石を二つ拾うと、彼はそれを左右の手に持って近付けてみせた。
カチンと音をたて、石の表面が接触する。
「生命の木は、エルティシアと異世界とを、このように繋げる力を秘めています。勿論、貴方が居た世界以外とも接触は可能です」
「じゃあ、僕の前世はどうしてあの世界を、日本を選んだ?」
「それは、私にも知らされていないのです」
新たな疑問を投げかけるリオに、エレアヌは珍しく笑みを翳らせた。
「日本人に生まれてなければ、もっとスムーズにここの人たちに受け入れてもらえた気がするんだけど」
「黒髪・黒い瞳の人種に生まれる必要があったからだとは思われますが、何故かは分かりません」
あえて嫌悪される色を持って生まれた訳を、転生者も賢者も思いつかない。
エレアヌによれば、リュシアは日本という国を把握した上で転生したらしい。
転生者の苦労を分っててあえてそうしたのか?
少々恨めしく思うリオであった。
沈まぬ太陽が、空をオレンジ色に染める。
エルティシアに来てから二日目、間もなくそれも過ぎようとしていた。
見張りが居る塔とは別の場所なので、そこに常駐する者はいなかった。
(あの向こう側には、誰も住んでいないのかな?)
地割れを眺めつつリオは思う。
妖精たちの呼び名はすぐ思い出せるのに、彼はこの世界がどういう状況なのか、自分は何をすべきか、はっきりとは分からない。
ふわふわと髪を揺らす風は、親し気に寄って来る小妖精たちによるもの。
少し長く湯に浸かって火照った頬に、その風はとても心地よかった。
「ここにいらしたのですか」
低く穏やかな声がして、足首までのびた長髪をもつ青年が、リオに歩み寄ってきた。
湿った金髪が、しなやかに風に揺れる。
「良い風ですね」
空へと向けられた瞳は、木々の若芽と同じ淡い緑。
「エレアヌ」
リオは、日本人には発音しにくいその名を呼んだ。
「はい」
深みのある声が、すぐに応える。
向けられる微笑みは、緑柱石色の空間で会った時から変わらない。
「ここと日本って、どういう関係がある?」
リオは問うた。
違う時空間とか異なる世界とか言われても、ついこの間まで普通の高校生だった彼には、その構造がよく分からない。
「近くに在りながら、通常は行き来できない場所同士……それがエルティシアと日本の関係です……」
穏やかな口調で、エレアヌは語る。
「例えば、この二つの石……こうして転がった状態では触れ合う事はありませんが、これを近付ければ……」
足元に落ちている小石を二つ拾うと、彼はそれを左右の手に持って近付けてみせた。
カチンと音をたて、石の表面が接触する。
「生命の木は、エルティシアと異世界とを、このように繋げる力を秘めています。勿論、貴方が居た世界以外とも接触は可能です」
「じゃあ、僕の前世はどうしてあの世界を、日本を選んだ?」
「それは、私にも知らされていないのです」
新たな疑問を投げかけるリオに、エレアヌは珍しく笑みを翳らせた。
「日本人に生まれてなければ、もっとスムーズにここの人たちに受け入れてもらえた気がするんだけど」
「黒髪・黒い瞳の人種に生まれる必要があったからだとは思われますが、何故かは分かりません」
あえて嫌悪される色を持って生まれた訳を、転生者も賢者も思いつかない。
エレアヌによれば、リュシアは日本という国を把握した上で転生したらしい。
転生者の苦労を分っててあえてそうしたのか?
少々恨めしく思うリオであった。
沈まぬ太陽が、空をオレンジ色に染める。
エルティシアに来てから二日目、間もなくそれも過ぎようとしていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる