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翔が書いた物語
第16話:水の領域
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ラーナ神殿付近には、三つの井戸がある。
一つは、調理場にある炊事用のもの。
一つは、神殿前の広場にある手や顔を洗う為のもの。
そして残る一つは、神殿周辺に畑が作られた時に掘られた、比較的新しいもの。
リオとオルジェはその新しい井戸の所へ来ると、釣瓶を投げ込み、傍らに置いてある桶に水を汲んだ。
少量の砂が混じった水は、地下水の少なさを告げている。
昔は湖や豊富な水脈があったエルティシアだが、今では深く掘った井戸から汲み上げる水のみで凌いでいた。
『助けて!』
布を洗おうと水の中に手を突っ込んだ途端、リオの頭に「声」が響いた。
「え?」
「どうしました?」
何やら驚いたような顔をするリオを見て、釣瓶を手にしたオルジェが訝し気に首を傾げた。
(……これは、夢で聞いた声……?)
リオは記憶を手繰り寄せる。
昨夜、眠りの中で聞いた悲痛な声が浮かぶ。
『お願い……助けて……リュシア!』
【声】が前世の名を呼んだ。
「水の妖精?」
前世の意識が、相手の名を呼び返す。
その名は前世の記憶に刻まれていた。
呼び掛けたリオの黒い瞳が、瑠璃色に変化する。
隣で瞳の色の変化に驚くオルジェの前で、リオの黒髪が青銀色に変わった。
直後、リオの姿はその場から消えた。
ゆらゆらと揺れる、淡いブルーの空間。
その一部が大きくうねり、リオが現れた。
しばし周囲を見回した彼は、自分が居る位置より遥か下に、光を放つ何かがあるのを見つける。
泳ぐ様に水色の空間を進み、リオはその光の方へと降りていった。
やがてリオの前方に、こんこんと水が湧き出す泉が見えてくる。
アクアマリン色をした空間の底に在る、小さな泉。
その中心の、水が湧き出ている部分は、墨を流した様に黒く染まりつつあった。
「嫌ぁっ!」
女性らしき甲高い悲鳴が、辺りに響いた。
それは、泉の方から聞こえる。
次第に透明度を失ってゆく水面が、ザワザワと波立ち、黒い飛沫を散らした。
周囲に散るそれを見た途端、リオはギョッとする。
黒い染みが広がり、美しい色をしていた空間が、暗黒色に変わってゆく。
周囲を見回していると、黒い飛沫がリオの手にかかった。
「?!」
一瞬驚くが彼の皮膚に変化は無く、手の甲についた黒い水が透明に変わる。
『貴方は魔物に浸食されない』
ふいに、エレアヌの【声】がリオの頭の中に響いた。
振り返っても、優しい笑みをもつ美青年はいない。
それでも「声」は、低く穏やかに語りかけてくる。
『この世界では、意識するしないに関わらず、貴方は聖なる力を使うことが出来るのです』
エレアヌらしき声が告げる。
どこから話しかけているのか分からないけれど、リオの中にある力について教えてくれた。
一つは、調理場にある炊事用のもの。
一つは、神殿前の広場にある手や顔を洗う為のもの。
そして残る一つは、神殿周辺に畑が作られた時に掘られた、比較的新しいもの。
リオとオルジェはその新しい井戸の所へ来ると、釣瓶を投げ込み、傍らに置いてある桶に水を汲んだ。
少量の砂が混じった水は、地下水の少なさを告げている。
昔は湖や豊富な水脈があったエルティシアだが、今では深く掘った井戸から汲み上げる水のみで凌いでいた。
『助けて!』
布を洗おうと水の中に手を突っ込んだ途端、リオの頭に「声」が響いた。
「え?」
「どうしました?」
何やら驚いたような顔をするリオを見て、釣瓶を手にしたオルジェが訝し気に首を傾げた。
(……これは、夢で聞いた声……?)
リオは記憶を手繰り寄せる。
昨夜、眠りの中で聞いた悲痛な声が浮かぶ。
『お願い……助けて……リュシア!』
【声】が前世の名を呼んだ。
「水の妖精?」
前世の意識が、相手の名を呼び返す。
その名は前世の記憶に刻まれていた。
呼び掛けたリオの黒い瞳が、瑠璃色に変化する。
隣で瞳の色の変化に驚くオルジェの前で、リオの黒髪が青銀色に変わった。
直後、リオの姿はその場から消えた。
ゆらゆらと揺れる、淡いブルーの空間。
その一部が大きくうねり、リオが現れた。
しばし周囲を見回した彼は、自分が居る位置より遥か下に、光を放つ何かがあるのを見つける。
泳ぐ様に水色の空間を進み、リオはその光の方へと降りていった。
やがてリオの前方に、こんこんと水が湧き出す泉が見えてくる。
アクアマリン色をした空間の底に在る、小さな泉。
その中心の、水が湧き出ている部分は、墨を流した様に黒く染まりつつあった。
「嫌ぁっ!」
女性らしき甲高い悲鳴が、辺りに響いた。
それは、泉の方から聞こえる。
次第に透明度を失ってゆく水面が、ザワザワと波立ち、黒い飛沫を散らした。
周囲に散るそれを見た途端、リオはギョッとする。
黒い染みが広がり、美しい色をしていた空間が、暗黒色に変わってゆく。
周囲を見回していると、黒い飛沫がリオの手にかかった。
「?!」
一瞬驚くが彼の皮膚に変化は無く、手の甲についた黒い水が透明に変わる。
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ふいに、エレアヌの【声】がリオの頭の中に響いた。
振り返っても、優しい笑みをもつ美青年はいない。
それでも「声」は、低く穏やかに語りかけてくる。
『この世界では、意識するしないに関わらず、貴方は聖なる力を使うことが出来るのです』
エレアヌらしき声が告げる。
どこから話しかけているのか分からないけれど、リオの中にある力について教えてくれた。
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