【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

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翔が書いた物語

第14話:癒しの力

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 「そんな処から来た者が、本当にリュシア様の生まれ変わりなのですか?!」
 叫ぶようにミーナは言った。
 この世界の残り少ない人類の生き残り、白き民にとって、黒い色彩を持つ生き物は忌むべき存在。
 リオのような黒髪・黒い瞳の人間などありえないものだった。

 「ええ、間違いなく」
  対するエレアヌは、どこまでも穏やかで、その優しい笑みは絶える事がない。
 今の生き残り達の中、彼だけは他の者が知らぬ何かを知っている。
 異世界の日本へ渡り、聖者の転生者を見つけるという役割を与えられた、賢者ゆえの知識かもしれない。

 「ミーナ」
  ふいに、彼は少女の名を呼んだ。
 「貴女はもう判っているのではありませんか? あの少年の本質が……」
  言われて、ミーナはふと自分の左腕に視線を落とす。

  鋭い破片に触れさせぬよう、掴まれた手首。
  そこに触れたリオの手は、温もりと優しさを伝えてきた。
  十三年前、彼女を食い殺そうとした魔物の手は、ぞっとするほど冷たかった。
  少女の腕に残る焼け爛れた様な傷痕は、魔物の身体が発する、酸のような毒にやられたもの……

「?!」
 ミーナは何かに気付き、左の袖をまくり上げた。
 驚きで勿忘草色の瞳が見開かれる。
 滑らかな白い肌が、その下から現れた。

  ……そこにあった筈の、醜いケロイドが無い……

 魔物の手形が残る傷痕を、ミーナはひどく嫌っていた。
 まるで今も腕を掴まれている様で、恐ろしくて目を向ける事が出来なかった。
 どんな薬草でも消す事の出来なかった皮膚の爛れを、彼女はずっと隠し続けていた。

  ……それが、完全に消え去っている……。

 「リュシア様は、貴女の傷の事を気にかけておられました」
 穏やかな声が聞こえ、ミーナは視線を向けた。
 優しいけれど真剣なまなざしで、エレアヌは少女を見つめる。

 「けれど貴女は、誰にもその傷痕を見せず触れさせようとはしなかったので、癒すことをためらわれていたのです……」
 静かに話す声に、ミーナが耳を傾ける。

 エレアヌは気付いていた。
 リオが少女の手首を掴み、魔物に焼かれた皮膚に気付いた瞬間、無意識の内に聖なる力を使った事に。
 それはほんの一瞬で、周囲の人々は勿論、ミーナすらも分からなかった。
 力を使ったリオ本人も全く気付いていない様子だった。
  けれど賢者の目には、リオの手から放たれた微かな光が見えていた。

「それを見てもまだ、貴女は彼を魔物だと思いますか?」
  エレアヌの問いに、ミーナは答えることが出来ない。
  彼女の両眼からきらめく滴が零れ、傷一つ無い白い腕にポトリと落ちた。
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