【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
356 / 428
翔が書いた物語

第7話:心の隔たり

しおりを挟む
 エレアヌにきっぱりと言い切られて返す言葉に困り、オルジェと呼ばれた若者はしばし沈黙する。
  他の人々は相変わらず怯えた目で、リオの方をチラチラと盗み見ていた。
  リオが気付いてそちらを向くと、誰もが慌てて視線を反らす。
 話しかけられたくない、関わりたくないという心の声が聞こえるようだった。

 (……そこまで嫌がらなくてもいいのに……)
  リオは小さく溜息をついた。
 黒髪・黒い瞳は邪悪な者という思い込みに呆れたりもする。
 エレアヌが説明しても、理解した様子は無かった。
  人間は自分で確かめたものしか信用しない。
  それは、どこの世界でも同じであるらしい。

(……そんなに嫌なら、僕を日本に帰してくれないかな?)
 連れて来られた理由がまだよく分からないけれど、嫌われてまでここに滞在しようとは思わない。
 エレアヌに「帰らせて」と言いかけた時、腕の中でシアルが身動ぎした。
 「気が付いたか?」
  小声で問うても、応えは無い。
  どうやら、意識は戻っていないらしい。

  それを悟ると、リオは隣に立つエレアヌの方を向いた。
 「寝かせた方がいいんじゃないかな?」
 「そうですね。行きましょう」
  穏やかな声でエレアヌは答え、建物の中へとリオを促した。

 「賢者様……!」
  人々が慌ててザワつく。
  上品な物腰で振り向いたエレアヌの、足首の辺りまでのびた黄金の髪が、絹糸のように柔らかく揺れた。
 「『生命の木ヴィモール』の上空を御覧なさい。この方がリュシア様である証の一つがあります」
  そう言い残すと、エレアヌはリオを案内し、神殿の奥へ入っていった。


 建物の中央に位置する大広間には、リオの背丈ほどもある、巨大な水晶の塊が置かれた祭壇があった。
 それは、エルティシアの創造神エルランティスを祭るものだ、とエレアヌが説明した。
  その他の部屋は、ほとんどが白き民達の居住箇所となっていて、小学校の給食室並みの規模をもつ調理場からは、食事の支度の途中だったのか、香草や香辛料の匂いがたちこめている。

 「ここが、リュシア様とシアルの部屋です」
  案内されたのは、二十畳ほどの空間に、ベッドが二つと木の机と本棚があるだけの質素な部屋。

 室内に入ると、エレアヌは意外な事を告げた。
 「シアルは小さな頃に両親を魔物に殺され、自分も死にかかっていたところを、リュシア様に救われたのです……」
  淡々と語られる過去を聞きながら、リオはベッドに寝かせた少年の顔を見つめる。

 「……以来、シアルは養い子として育てられました。といってもリュシア様は忙しい方でしたので、世話は私が引き受けておりましたけれど……」
  エレアヌは机に歩み寄り、燻し銀の燭台に灯をともした。

  エルティシアの聖地は白夜で、完全には暗くならない。
 明け方か夕刻のような太陽が、白亜の神殿をオレンジ色に染める。

「……シアルを……皆を……許してやって下さい……。リュシア様が亡くなられてから、こちらの世界では数ヵ月しか経っていません。貴方を迎えに行く役目を仰せ付かった私以外の者は、転生者リーンティアの事を詳しく知らされていないのです」
  蝋燭の火を見つめながら、エレアヌは静かな声で言った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

幽艶の恋心

沖町 ウタ
恋愛
「ねぇ、旧校舎の幽霊の話、知ってる?」 そんな噂が生徒の間に広まり、藤堂橡(とうどうくぬぎ)は友達と共に夜の校舎へと潜入する。苦難を乗り越え幽霊が出ると噂の屋上に辿り着くと、幽霊と最悪な出会いを果たす。 翌日から藤堂橡は幽霊に付きまとわれる日々が始まる。平穏な彼の日常が、一人の幽霊によって脅かされていく。 そんな幽霊と喧騒の日々を過ごすことで、藤堂橡は様々な感情を抱いていく。 決して叶うことのない、小さな恋の物語……。 第一章は毎日19時更新していきます! 小説PV映像はこちら https://youtu.be/PPoTDkRkQwU

処理中です...