352 / 428
翔が書いた物語
第3話:エルティシア
しおりを挟む
……それは、奇妙な感覚だった……
まるで、水の中を進むような……しかし、水圧などの抵抗は殆ど無い。
気温が上がるのが感じられる。
それは例えて言うなら、寒い外から暖房のきいた部屋の中に入るような温度差だった。
『着きましたよ』
エレアヌの「声」に、リオは目を開けた。
「ここは?」
リオが辺りを見回すと、目の前には二抱えもある巨木が立っている。
その根元に、一人の青年が座禅を組むように座っていた。
ゆるやかに波打つ黄金色の髪、白い肌、背は高いが細い身体。
閉じた瞼に隠れて瞳の色は判らないが、青年はエレアヌと全く同じ容姿をしている。
映像の姿のエレアヌは青年に近付くと、その身体に吸い込まれるように消えた。
木の下に座っていた青年エレアヌが目を開けて立ち上がる。
「ここはエルティシア」
黄金の髪を揺らしながら、実体となったエレアヌが歩み寄ってくる。
「貴方の故郷です」
言われて、リオは振り返って自分の肩ごしに背後の風景を見た。
晩秋の日本から来た彼には、厚手の上着を一枚脱いでもよいと思える気温。
荒涼たる大地に、植物は少ない。
ハート形をした緑の葉を茂らせる巨木だけが、唯一のオアシスであるかのような、半ば砂漠化した地面。
空は黒雲に覆われ、太陽の光は僅かに漏れるのみ。
雨が降る直前の、湿った風は吹いてはいない。
遠くに一カ所だけ、太陽の光が帯のように注がれる場所がある。
幾本もの光の柱の下には、白い石造りの建物。ローマの神殿を思わせる、荘厳な建築物が在った。
「そしてあれはラーナ神殿、この地に残された、最後の聖地」
淡々と語るエレアヌの細い指が、白亜の建物を差し示した。
「あそこに強力な守護結界を張ったのは、白き民の長リュシア=ユール=レンティス……、過去の貴方です」
「過去?」
リオは首を傾げた。
「……正確には……」
そこまで言うと、エレアヌはふいに若草色の瞳を伏せた。
「行きましょう、リュシア様…」
緑の刺繍が付いたローブの裾を翻し、彼は太陽光の下に建つ神殿に向かって歩き出した。
(……正確には、何……?)
途切れた言葉の先を考えつつ歩き出そうとした時、リオの足元の地面に1本の剣が突き刺さる。
「?!」
彼はギョッとして立ち竦んだ。
地面に突き刺さった剣は、竜の身体と翼を象った柄の立派な造りをしていた。
柄には金色がかった紅色の大きな丸い宝石が嵌め込まれ、刀身は磨き上げられた鏡の様にものを映す。
それは、闇夜を退ける夜明けの光の様な、神々しい輝きをもつ長剣だった。
「お前がリュシアだと?」
小馬鹿にしたような声に振り返ると、巨木の枝に少年が座っていた。
クリーム色の長袖シャツを茶色の腰帯で締め、同じ茶色のスパッツのような物を穿いている。
顔立ちはエレアヌ同様、ギリシャやローマの民族に近い。
「笑えん冗談だな」
大きな蒼い瞳が、リオをジロリと睨む。
「シアル……」
たしなめるようなエレアヌの声がする。
少年は高い枝から身軽に飛び下りた。
無造作に切った銀髪がフワリと揺れる。
その髪と色素の薄い肌のせいか、彼は微かな光を放っているように見えた。
まるで、水の中を進むような……しかし、水圧などの抵抗は殆ど無い。
気温が上がるのが感じられる。
それは例えて言うなら、寒い外から暖房のきいた部屋の中に入るような温度差だった。
『着きましたよ』
エレアヌの「声」に、リオは目を開けた。
「ここは?」
リオが辺りを見回すと、目の前には二抱えもある巨木が立っている。
その根元に、一人の青年が座禅を組むように座っていた。
ゆるやかに波打つ黄金色の髪、白い肌、背は高いが細い身体。
閉じた瞼に隠れて瞳の色は判らないが、青年はエレアヌと全く同じ容姿をしている。
映像の姿のエレアヌは青年に近付くと、その身体に吸い込まれるように消えた。
木の下に座っていた青年エレアヌが目を開けて立ち上がる。
「ここはエルティシア」
黄金の髪を揺らしながら、実体となったエレアヌが歩み寄ってくる。
「貴方の故郷です」
言われて、リオは振り返って自分の肩ごしに背後の風景を見た。
晩秋の日本から来た彼には、厚手の上着を一枚脱いでもよいと思える気温。
荒涼たる大地に、植物は少ない。
ハート形をした緑の葉を茂らせる巨木だけが、唯一のオアシスであるかのような、半ば砂漠化した地面。
空は黒雲に覆われ、太陽の光は僅かに漏れるのみ。
雨が降る直前の、湿った風は吹いてはいない。
遠くに一カ所だけ、太陽の光が帯のように注がれる場所がある。
幾本もの光の柱の下には、白い石造りの建物。ローマの神殿を思わせる、荘厳な建築物が在った。
「そしてあれはラーナ神殿、この地に残された、最後の聖地」
淡々と語るエレアヌの細い指が、白亜の建物を差し示した。
「あそこに強力な守護結界を張ったのは、白き民の長リュシア=ユール=レンティス……、過去の貴方です」
「過去?」
リオは首を傾げた。
「……正確には……」
そこまで言うと、エレアヌはふいに若草色の瞳を伏せた。
「行きましょう、リュシア様…」
緑の刺繍が付いたローブの裾を翻し、彼は太陽光の下に建つ神殿に向かって歩き出した。
(……正確には、何……?)
途切れた言葉の先を考えつつ歩き出そうとした時、リオの足元の地面に1本の剣が突き刺さる。
「?!」
彼はギョッとして立ち竦んだ。
地面に突き刺さった剣は、竜の身体と翼を象った柄の立派な造りをしていた。
柄には金色がかった紅色の大きな丸い宝石が嵌め込まれ、刀身は磨き上げられた鏡の様にものを映す。
それは、闇夜を退ける夜明けの光の様な、神々しい輝きをもつ長剣だった。
「お前がリュシアだと?」
小馬鹿にしたような声に振り返ると、巨木の枝に少年が座っていた。
クリーム色の長袖シャツを茶色の腰帯で締め、同じ茶色のスパッツのような物を穿いている。
顔立ちはエレアヌ同様、ギリシャやローマの民族に近い。
「笑えん冗談だな」
大きな蒼い瞳が、リオをジロリと睨む。
「シアル……」
たしなめるようなエレアヌの声がする。
少年は高い枝から身軽に飛び下りた。
無造作に切った銀髪がフワリと揺れる。
その髪と色素の薄い肌のせいか、彼は微かな光を放っているように見えた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる