【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

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夢の内容を元に書いたイオ視点の話

第87話:家族

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「エカとアズはお父さんが迎えに来たから、そのまま家へ向かうといいニャン」

 モチと俺を抱き締めて離そうとしない赤毛の男性を見て、国王は微笑んでそう言った。

 国王はこれまで俺たちをファーストネームで呼んでいたのに、ここではセカンドネームからの愛称で呼ばれた。
 後に聞いた話では、世界樹の民はファーストネームは滅多に呼ばず、セカンドネームを必ず付けてその名を呼び名にするらしい。
 それで、モチはセカンドネームのエカルラートからエカの名で、俺はアズールからアズの名で呼ばれる事になった。

「ジャス、子供たちはまだ記憶が戻ってない。家で詳しく話してやってほしいニャ」
「分った」

 国王にジャスと呼ばれた赤毛の男性は、抱き締めていた俺たちをそっと放すとそれぞれと手を繋ぐ。

「行こう。母さんもずっと待っているよ」

 優しく声をかけて、俺たちの手を引いて歩き出す【父】。

 俺は物心ついた時には父は無かったから、「父さん」と呼べる人は今までいなかった。
 モチも確か母子家庭で、父の記憶は無いと言っていた。

 だから今、こうして手を引いてくれるこの人が、とても貴重な存在に思える。

 俺たちが世界樹の民の転生者、というのは既に知ってる。
 でもまさか、前世の親が生きてるとは予想してなかった。


 手を引かれて案内されたその家は、木造の質素な建物だった。
 日本に住んでた頃は鉄筋コンクリート、学園では頑丈な石造りの建物だったので、木造建築が珍しく感じる。

「フィラ! 子供たちが帰って来たぞ!」

 俺たちを連れて来た【父さん】が呼びかけた途端……

 バタバタバタ……!!

 ……めっちゃ急いで駆け付けた、青い髪の女性。
 俺の髪と同じ色だ。

「やっと帰って来たのね!」

 って、また2人まとめて抱き締められた。
 再び湧き上がる、温かくて切ない感覚。

「「ただいま。母さん」」

 自然に出て来る言葉が何かは、今度はもう分ってた。

 しばらく【母】に抱き締められた後、【父】が話しかけてくる。

「フィラ、子供たちはまだ記憶が戻ってないそうだ」
「そうなの? 母さんと呼んでくれたから記憶は戻ってると思ったのに……」

 記憶が無いと聞いて、【母さん】は寂しそうな顔をした。

「ああ。だから教えてあげないといけない。エカとアズが異世界へ転生したワケを」

 そう言うと、【父さん】と【母さん】は俺たちを居間と思われる部屋へ案内して、お茶を出してくれた。
 甘い花の香りがする、上品なお茶だ。
 美味しいと喜んでいたら、世界樹の新芽と花で作ったお茶だと教えてくれた。

「何から話せばいいのかな…。この森に居た記憶は全く無いのかい?」
「懐かしい感じはするんですが、前世の事は分かりません」

 問いかけられて、モチが慎重に答える。

「そうか。でもナムロ様がこの森へ連れて来たという事は、目的は達成したんだね」
「俺たち、何か目的があって転生したんですか?」

 今度は俺が聞いた。
 国王は見せたい場所があると言って連れて来たけど、目的達成かどうかは聞いてない。

 そんな俺たちに、【父】は転生目的も含めて教えてくれた。


 地球へ逃げた蛇将軍の悪事を防ぐ為、創世神かみさまは当初、トゥッティを滅ぼそうと考えた。
 異世界である地球に転生してしまったトゥッティの生死に直接干渉出来ない神は、代わりに世界樹の勇者たちを討伐に向かわせる。
 当代の勇者は、エカルラートとアズール。
 サポート役として聖女たちも送られた。

 世界樹の民の身体では地球の環境で生存出来ない為、神は彼等を転生という形で送り出した。
 転生で記憶を失う代わりに、神が与えた【運命】の力で、勇者たちは人間に憑依した蛇将軍が潜む会社に入社する。
 蛇将軍と出会えば、運命の力に導かれ、敵と認識して戦闘になる筈だった。
 しかしその前に、魔王による集団転移が行われてしまう。

 もともと異世界転生で地球人として組み替えられた身体が、魔王の転移の力で元の世界へ返される事となった勇者たち。
 結果、幸か不幸か元の姿、少し逆行して子供時代の身体での転移となった。
 しかし精神は地球で生活した期間のもので、こちらでの記憶は名前のみという状態だ。


「神はお前たちの記憶は戻らないだろうと言っていたから、今の状態は予想通りなのだけどね」
「だけど私たちを見て懐かしいと感じてくれた、父さん母さんと呼んでくれた。それならいつか、記憶も戻るかもしれないって私たちは思ってるわ」

 そう話す【両親】は再会の喜びと、忘れられている寂しさの間で心が揺れているように見える。
 せっかく会えたんだから、思い出せたらいいのに。
 転生すると全ての記憶がリセットされてしまう事が、今は悔しく思えた。
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