236 / 428
前世編
第114話:新しい命
しおりを挟む
「ほらエカ、鼻の穴広げてないで。ソナちゃんの傍についててあげて」
緊張のあまり変顔になるエカの背中を、白衣を着たエアが押す。
その先には、新たな命を生み出そうとしている妻、ソナがいた。
「ピヨが苦痛を和らげてくれてるけど、エカが手を握ってあげるのが一番元気づけられるからね」
そう言われたエカはベッド脇の椅子に座り、ソナの手を握る。
「ソナ、頑張って。俺がついてるよ」
「うん……エカ、傍にいてね」
エカに励まされて、ソナは苦しそうにしながらも微笑んでみせた。
世界樹の民の妊娠期間は長い。
胎児は10年近くを母の胎内で過ごしてから産まれてくる。
エカとソナは、受胎を知ってからずっと楽しみにしていた我が子に、ようやく会える時を迎えていた。
「これ、アズとルルからだよ」
そう言ってエカが異空間倉庫から取り出すのは、アサギリ島に咲く花で飾られた花かご。
「いい香り……なんだか力が湧いてくるみたい」
「香雪花ね。香りに回復効果がある花よ」
香りを楽しむ余裕が出てきたソナに、エアが教えてくれた。
「で、こっちはジャミ様から」
と言ってエカが取り出すのは、晴れた空のような青色の丸石を繋げたブレスレット。
「綺麗な石……ジャミ様の目と同じ色ね」
「御守りだって言ってたよ。ばぁばが見守ってるから頑張って可愛いひ孫を産んでくれって」
「うん、頑張る」
血の繋がりは無いけれど、祖母として慈しんでくれるジャミ様は、ソナが家族として慕う猫人の1人だ。
「ジャミ様、長生きよね。そろそろシッポが2つに割れたりするかも」
エアが言うように、ジャミ様は長生きだ。
息子のナゴ様が既に他界しているのにまだ元気で、最近はアサケ学園に占い師をしに来ている。
猫人たちには、200歳まで生きるとシッポの先が二つに割れるって言い伝えがあるそうだよ。
「あと、これはクロエたちから。母乳がよく出る木の実らしいよ」
「じゃあ、毎日食べるね」
パーティーメンバーが集めてくれた木の実は、保存が効くナッツ系。
猫人の子は死亡率が高いけど、その実を食べた母親の乳を飲んで育つと生存率が高くなるとも言われていた。
ちなみに、世界樹の民は猫人よりも出生率がかなり低い代わりに生存率は高い。
「ルイからも預かってきたよ。心を落ち着かせる道具って言ってた」
エカが小さな箱のような物を取り出して蓋を開けると、中には水色の丸い石が入っているのが見えた。
蓋の開閉が起動に繋がるらしく、箱は優しい音を奏で始める。
ルイの自作魔道具は、聖歌鳥の囀りを再現させたものだった。
ソナのベッドの枕元で囀っていたピヨが飛んできて、不思議そうに首を傾げる。
「ピヨちゃん、その中にお友達は入ってないよ」
エアが笑って教えると、ピヨは更に首を傾げた。
それからしばらくして命が生まれる波が高くなり、ソナは苦しそうにしながらも波に呼吸を合わせ始める。
「みんな応援してくれてるから、頑張って生まれようね」
ソナの手を強く握って、エカは生まれてくる我が子を励まし続けた。
2人が出会わなければ、今ここにいなかった子。
偶然という奇跡の先に現れた宝物。
どうか無事に生まれてほしい。
エカと共にボクも願う。
ソナの身体に最後の大きな波が押し寄せた直後、産声が聞こえた。
緊張のあまり変顔になるエカの背中を、白衣を着たエアが押す。
その先には、新たな命を生み出そうとしている妻、ソナがいた。
「ピヨが苦痛を和らげてくれてるけど、エカが手を握ってあげるのが一番元気づけられるからね」
そう言われたエカはベッド脇の椅子に座り、ソナの手を握る。
「ソナ、頑張って。俺がついてるよ」
「うん……エカ、傍にいてね」
エカに励まされて、ソナは苦しそうにしながらも微笑んでみせた。
世界樹の民の妊娠期間は長い。
胎児は10年近くを母の胎内で過ごしてから産まれてくる。
エカとソナは、受胎を知ってからずっと楽しみにしていた我が子に、ようやく会える時を迎えていた。
「これ、アズとルルからだよ」
そう言ってエカが異空間倉庫から取り出すのは、アサギリ島に咲く花で飾られた花かご。
「いい香り……なんだか力が湧いてくるみたい」
「香雪花ね。香りに回復効果がある花よ」
香りを楽しむ余裕が出てきたソナに、エアが教えてくれた。
「で、こっちはジャミ様から」
と言ってエカが取り出すのは、晴れた空のような青色の丸石を繋げたブレスレット。
「綺麗な石……ジャミ様の目と同じ色ね」
「御守りだって言ってたよ。ばぁばが見守ってるから頑張って可愛いひ孫を産んでくれって」
「うん、頑張る」
血の繋がりは無いけれど、祖母として慈しんでくれるジャミ様は、ソナが家族として慕う猫人の1人だ。
「ジャミ様、長生きよね。そろそろシッポが2つに割れたりするかも」
エアが言うように、ジャミ様は長生きだ。
息子のナゴ様が既に他界しているのにまだ元気で、最近はアサケ学園に占い師をしに来ている。
猫人たちには、200歳まで生きるとシッポの先が二つに割れるって言い伝えがあるそうだよ。
「あと、これはクロエたちから。母乳がよく出る木の実らしいよ」
「じゃあ、毎日食べるね」
パーティーメンバーが集めてくれた木の実は、保存が効くナッツ系。
猫人の子は死亡率が高いけど、その実を食べた母親の乳を飲んで育つと生存率が高くなるとも言われていた。
ちなみに、世界樹の民は猫人よりも出生率がかなり低い代わりに生存率は高い。
「ルイからも預かってきたよ。心を落ち着かせる道具って言ってた」
エカが小さな箱のような物を取り出して蓋を開けると、中には水色の丸い石が入っているのが見えた。
蓋の開閉が起動に繋がるらしく、箱は優しい音を奏で始める。
ルイの自作魔道具は、聖歌鳥の囀りを再現させたものだった。
ソナのベッドの枕元で囀っていたピヨが飛んできて、不思議そうに首を傾げる。
「ピヨちゃん、その中にお友達は入ってないよ」
エアが笑って教えると、ピヨは更に首を傾げた。
それからしばらくして命が生まれる波が高くなり、ソナは苦しそうにしながらも波に呼吸を合わせ始める。
「みんな応援してくれてるから、頑張って生まれようね」
ソナの手を強く握って、エカは生まれてくる我が子を励まし続けた。
2人が出会わなければ、今ここにいなかった子。
偶然という奇跡の先に現れた宝物。
どうか無事に生まれてほしい。
エカと共にボクも願う。
ソナの身体に最後の大きな波が押し寄せた直後、産声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる