233 / 428
前世編
第111話:詩川琉生
しおりを挟む
アサケ王家が異世界人を保護した際は、創造神に報告するため世界樹の根元を訪れる。
以前ソナを連れて来た時と同じように、ルイは当代の国王ナムロと共に世界樹の森を訪問する事になった。
ルイの発見者であるエカと、ルイを王宮に連れて来たアズも付き添う。
いつもは転移効果を持つ魔道具で行くエカたちだけど、ルイに上空からの風景を見せてあげようという事で、久々に春の街プラン近郊の転送陣を使った。
ナムロ王様が操るドナベに乗るか、エカまたはアズと一緒に召喚獣に乗るか?
どちらがいいかと聞かれたルイは、アズと一緒に召喚獣に乗る事を望んだ。
「アズさんに……お姫様抱っこされてみたい……です」
「いいよ。じゃあ行こうか」
顔を赤らめて言うルイを、アズは全く躊躇なく抱き上げてベノワの背に乗る。
異世界人の一部が喜ぶという、美少年を美青年がお姫様抱っこするという光景。
それを眺めるエカは、鼻の穴広げて真顔になっていた。
「異世界人は個性的な人が多いニャ」
ナムロ王様はニコニコしながら眺めている。
後で聞いた話では、過去に転移して来た女の子が持っていた薄い本に、似たような光景が描かれていたらしい。
王家の書庫には、異世界の文化を知る貴重な資料として、色々な本が保管されているそうだよ。
「凄い、絶景!」
ベノワの背中の上、アズの前に座って後ろから抱えられる体勢で風景を眺めながら、ルイは声を上げる。
久々に飛ぶ世界樹の森の上空からの眺めは、澄み渡る青空の下、広大な緑の森が広がる絶景だ。
森の中心のひときわ大きな木の下に、ボクたちは下降してゆく。
ベノワから降りる際もお姫様抱っこしてもらえて、ルイは大喜びだった。
『おかえり、異世界の神の元に生まれた子よ』
世界樹の根元で、創造神はそう語りかけてくる。
おかえりと言うって事は、もしかしてルイも元は世界樹の民だったのかな?
ソナの例があるから、エカとボクはそんな事を予想したりする。
「ただいま、神様。僕の前世はこの世界の住民だったのですか?」
おかえりって言われたからただいまって答えて、ルイが聞いた。
『そうとも言える。だが違うとも言える。其方の魂は新しい。この世に生を受けるのは現世が初めてなのだよ』
創造神の念話が、穏やかな響きでその場にいる者たちの中に流れ込む。
『イオ・アズール・セレストよ、その子を連れてこちらへ来なさい。母になる筈だった者に会わせてあげよう』
「わかりました」
以前にエカがソナを連れて行った時のように、アズがルイを抱き上げて世界樹の中に入る。
2人が行ったのは、エカとソナの時とは違う場所だった。
緑の葉が茂る枝と枝の間に、大きな透き通った緑の球体が浮かんでいる。
球体の中には、アズがよく知る人がいた。
「……ルル……」
呟くアズは近付くと、何の抵抗もなく球体の中に入ってゆく。
抱えられたルイも一緒に球体の中へ入った。
長い黒髪、黒い立ち耳とフサフサのシッポ。
死装束としてアズが着せてあげた、裾の長い青いワンピースも変わらず。
19年前に亡くなった時そのままの綺麗な姿で、目を閉じて動かないルルがいた。
「……この女性は……?」
球体の中でアズの腕から降ろされて、ルイは不思議そうに見知らぬ女性を見つめる。
『かつて魔王と呼ばれた存在。其方の母となる筈だった者。そこにいるイオは其方の父となる筈だった者だよ』
「「えっ?!」」
ルイが驚く声に、アズの声が被った。
創造神がイオと言うのは、もちろんアズの事。
今までアズも知らなかった事を、創造神は教えてくれた。
19年前に命を終えた時、ルルの胎内には胎児がいた。
それはまだルルが元気だった頃に宿した子で、世界樹の民特有の長い妊娠期間の中にあった。
ルルはその子を産めなかった代わりに、自らの魂の力を使って我が子を転生させる。
魔王の子をこの世界に転生させると新たな魔王になるかもしれないと思い、異世界へ転生させたらしい。
『それで力を使い果たして、ルルはまだここにいるんですね……』
アズは未だ転生出来ずに世界樹の中で眠り続ける妻の頬を、労りを込めて撫でた。
彼にはまだ900年以上の寿命があるし、ルルの心はアサギリ島に在る。
『ゆっくり休んでいていいよ、待ってるから』
優しく口付けて、アズは目覚めぬルルに微笑んだ。
以前ソナを連れて来た時と同じように、ルイは当代の国王ナムロと共に世界樹の森を訪問する事になった。
ルイの発見者であるエカと、ルイを王宮に連れて来たアズも付き添う。
いつもは転移効果を持つ魔道具で行くエカたちだけど、ルイに上空からの風景を見せてあげようという事で、久々に春の街プラン近郊の転送陣を使った。
ナムロ王様が操るドナベに乗るか、エカまたはアズと一緒に召喚獣に乗るか?
どちらがいいかと聞かれたルイは、アズと一緒に召喚獣に乗る事を望んだ。
「アズさんに……お姫様抱っこされてみたい……です」
「いいよ。じゃあ行こうか」
顔を赤らめて言うルイを、アズは全く躊躇なく抱き上げてベノワの背に乗る。
異世界人の一部が喜ぶという、美少年を美青年がお姫様抱っこするという光景。
それを眺めるエカは、鼻の穴広げて真顔になっていた。
「異世界人は個性的な人が多いニャ」
ナムロ王様はニコニコしながら眺めている。
後で聞いた話では、過去に転移して来た女の子が持っていた薄い本に、似たような光景が描かれていたらしい。
王家の書庫には、異世界の文化を知る貴重な資料として、色々な本が保管されているそうだよ。
「凄い、絶景!」
ベノワの背中の上、アズの前に座って後ろから抱えられる体勢で風景を眺めながら、ルイは声を上げる。
久々に飛ぶ世界樹の森の上空からの眺めは、澄み渡る青空の下、広大な緑の森が広がる絶景だ。
森の中心のひときわ大きな木の下に、ボクたちは下降してゆく。
ベノワから降りる際もお姫様抱っこしてもらえて、ルイは大喜びだった。
『おかえり、異世界の神の元に生まれた子よ』
世界樹の根元で、創造神はそう語りかけてくる。
おかえりと言うって事は、もしかしてルイも元は世界樹の民だったのかな?
ソナの例があるから、エカとボクはそんな事を予想したりする。
「ただいま、神様。僕の前世はこの世界の住民だったのですか?」
おかえりって言われたからただいまって答えて、ルイが聞いた。
『そうとも言える。だが違うとも言える。其方の魂は新しい。この世に生を受けるのは現世が初めてなのだよ』
創造神の念話が、穏やかな響きでその場にいる者たちの中に流れ込む。
『イオ・アズール・セレストよ、その子を連れてこちらへ来なさい。母になる筈だった者に会わせてあげよう』
「わかりました」
以前にエカがソナを連れて行った時のように、アズがルイを抱き上げて世界樹の中に入る。
2人が行ったのは、エカとソナの時とは違う場所だった。
緑の葉が茂る枝と枝の間に、大きな透き通った緑の球体が浮かんでいる。
球体の中には、アズがよく知る人がいた。
「……ルル……」
呟くアズは近付くと、何の抵抗もなく球体の中に入ってゆく。
抱えられたルイも一緒に球体の中へ入った。
長い黒髪、黒い立ち耳とフサフサのシッポ。
死装束としてアズが着せてあげた、裾の長い青いワンピースも変わらず。
19年前に亡くなった時そのままの綺麗な姿で、目を閉じて動かないルルがいた。
「……この女性は……?」
球体の中でアズの腕から降ろされて、ルイは不思議そうに見知らぬ女性を見つめる。
『かつて魔王と呼ばれた存在。其方の母となる筈だった者。そこにいるイオは其方の父となる筈だった者だよ』
「「えっ?!」」
ルイが驚く声に、アズの声が被った。
創造神がイオと言うのは、もちろんアズの事。
今までアズも知らなかった事を、創造神は教えてくれた。
19年前に命を終えた時、ルルの胎内には胎児がいた。
それはまだルルが元気だった頃に宿した子で、世界樹の民特有の長い妊娠期間の中にあった。
ルルはその子を産めなかった代わりに、自らの魂の力を使って我が子を転生させる。
魔王の子をこの世界に転生させると新たな魔王になるかもしれないと思い、異世界へ転生させたらしい。
『それで力を使い果たして、ルルはまだここにいるんですね……』
アズは未だ転生出来ずに世界樹の中で眠り続ける妻の頬を、労りを込めて撫でた。
彼にはまだ900年以上の寿命があるし、ルルの心はアサギリ島に在る。
『ゆっくり休んでいていいよ、待ってるから』
優しく口付けて、アズは目覚めぬルルに微笑んだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる