224 / 428
前世編
第102話:魔王の大切なもの
しおりを挟む
ルルであり魔王でもある子供は、しばらく名残り惜しむ様にアズを抱き締めた後、背伸びしてそっと唇を重ねてから軽やかに跳び下がって離れた。
「はい、もういいよ」
「?」
地面に仰向けに寝転がる子供を見て、アズもエカもキョトンとする。
「エカ、ボクを殺して」
「えっ?!」
可愛く微笑みながら頼まれて、エカはギョッとした。
でもすぐに、自分が何をしにアサギリ島まで来たかを思い出した。
上空で待機するのは、魔王討伐隊。
エカはその要、この世界で唯一、魔王を倒す力を持つ者だ。
倒すべき魔王は、目の前にいる。
でも、もう戦う気は無いと言う魔王を、殺す必要があるんだろうか?
防具どころか服も着ていない無防備な子供に、爆裂魔法を撃っていいんだろうか?
「ボクが憎いでしょ? 君を殺しかけて、恋人を攫った魔王なんだから」
と言う子供は、目を伏せてエカから視線を逸らした。
エカは複雑な気持ちになった。
自分が殺されかけたことは、記憶が無いのでどうでもいい。
でもソナを攫ったことは許せないと思う。
一方で、何故魔王がここまでソナに執着したのかが気になった。
「聞きたい事がある。世界樹の枝に実る魂の果実の中から、何故ソナの魂を選んで異世界に落とした?」
問いかけるエカの声は、いつもより低い。
魔王がしたことで、エカ一番許せないのはソナを精神的に追い詰めたことだから。
「それは、あの子の魂が温かくて気持ちいい光を放ってたから。欲しかったんだ……あの温もりが……」
答える子供は、エカの目を見ようとはしない。
多分、今はそれが悪いことだと分かってるみたいだ。
「俺も聞きたい。お城でルルを検査した時の結果は何だったの?」
アズも問いを投げかけた。
ルルは王宮の生物用鑑定器具みたいなもので調べられた事がある。
結果は魔族で、魔王とは表示されなかった。
「完全覚醒前のボクが無意識に情報をいじった結果だよ。実際は、こちらへ転移したソナを追いかけて来た時に、神の力で動物の卵子に転生させられてる」
半目になって溜息混じりに答えたルルは、しくじったと言いたそうな感じだ。
「ボクは動物の輪廻に組み込まれてしまった。でも、今はそれで良かったって思ってる」
そう言うと、ケモミミの子供はアズに笑みを向けた。
「もう1つ答えて。ルルが俺に懐いてくれたのは、演技?」
「ううん、本気。だから今、大人しく殺されるのを待ってるんだよ」
アズがまた問いかけたら、ルルは少し寂しそうに微笑んだ。
ルルの澄んだ黒い瞳から涙が溢れ、顔の横を伝って地面に落ちる。
「ボクが欲しかったもの、全てアズがくれた。だからもう死んでも悔いは無い」
「……ルル……」
「近付いたらダメだよ。完全回避がかかったら殺せないでしょ?」
泣き笑いを浮かべたルルは、思わず近寄ろうとするアズを片手を上げて制した。
「エカ、爆裂魔法を撃って。この身体の心臓の位置はもう知ってるよね」
「昨夜、心臓の位置を把握した後、君に刺されたみたいだけど」
そんな会話を交わしながら、エカは気持ちを整える。
これは魔王、倒すべき者。
爆裂魔法の使い手は、魔王を倒すために生まれてくる者。
だから自分はこの子供に爆裂魔法を使うんだという考えがまとまった。
「ボクが眠ってしまうと防衛本能が出ちゃうから、今回は起きてるよ」
そう言うと、ルルは地面に仰向けになったまま空を見つめる。
エカの方を見ないのは、爆裂魔法が怖いからかもしれない。
『フラム、魔王専用のあれを撃つよ』
『……わかった』
エカとボクは、念話でこっそり話す。
魔王専用の爆裂魔法・存在の完全破壊。
それはエカの肉体が消滅する代わりに、魔王を完全に破壊する魔法。
不死鳥のボクが召喚獣として与えられたのは、その魔法を使った時のため。
魔法を組み上げ始めるエカの周囲に、透明な泡が舞い始める。
空を見つめていたルルが、死を覚悟してそっと目を閉じる。
「待って!」
今まさに魔法が起動しようとした時、アズが動いた。
「?!」
駆け寄ったアズに抱き上げられて、ルルが驚いて目を開ける。
「アズ、抱いてくれるのは嬉しいけど、それじゃ爆裂魔法が効かないよ」
抱き締められたルルは、少し困ったように微笑む。
アズを押しのけたりしないのは、やっぱり嬉しいからなんだろうね。
「ルルを殺さないで。俺の大切な子なんだ」
自分の身体でルルを庇うように抱き締めながら、アズがエカを見つめて言う。
こんなアズを見るのは、二度目かもしれない。
「アズ……ボクは魔王だよ……?」
「俺はルルが何であっても、可愛い小さな宝物だって思ってるよ」
戸惑うルルにアズが言うのは、以前も告げた言葉。
堪えきれなくなったのか、ルルがアズにしがみついて号泣し始めた。
「……」
エカは、起動しかけていた魔法を解除して、穏やかな表情でルルを見つめる。
ソナに関する事で、魔王に対しては色々と思うところはある。
でも今のアズとルルを見ていたら、魔王を殺すのは正解ではない気がした。
『双子の勇者の力で魔王は消滅、ソナとルルの救出完了。みんな、帰還するわよ』
ロコの念話が召喚獣使いたちに告げられる。
討伐隊がアサギリ島を離れてゆく。
「ルル、これ着て」
アズは異空間倉庫にいつも入れている服を取り出して、ルルに着せてあげた。
「じゃ、帰ろうか」
口元に笑みを浮かべるエカを乗せて、ボクは空へ飛び立った。
「はい、もういいよ」
「?」
地面に仰向けに寝転がる子供を見て、アズもエカもキョトンとする。
「エカ、ボクを殺して」
「えっ?!」
可愛く微笑みながら頼まれて、エカはギョッとした。
でもすぐに、自分が何をしにアサギリ島まで来たかを思い出した。
上空で待機するのは、魔王討伐隊。
エカはその要、この世界で唯一、魔王を倒す力を持つ者だ。
倒すべき魔王は、目の前にいる。
でも、もう戦う気は無いと言う魔王を、殺す必要があるんだろうか?
防具どころか服も着ていない無防備な子供に、爆裂魔法を撃っていいんだろうか?
「ボクが憎いでしょ? 君を殺しかけて、恋人を攫った魔王なんだから」
と言う子供は、目を伏せてエカから視線を逸らした。
エカは複雑な気持ちになった。
自分が殺されかけたことは、記憶が無いのでどうでもいい。
でもソナを攫ったことは許せないと思う。
一方で、何故魔王がここまでソナに執着したのかが気になった。
「聞きたい事がある。世界樹の枝に実る魂の果実の中から、何故ソナの魂を選んで異世界に落とした?」
問いかけるエカの声は、いつもより低い。
魔王がしたことで、エカ一番許せないのはソナを精神的に追い詰めたことだから。
「それは、あの子の魂が温かくて気持ちいい光を放ってたから。欲しかったんだ……あの温もりが……」
答える子供は、エカの目を見ようとはしない。
多分、今はそれが悪いことだと分かってるみたいだ。
「俺も聞きたい。お城でルルを検査した時の結果は何だったの?」
アズも問いを投げかけた。
ルルは王宮の生物用鑑定器具みたいなもので調べられた事がある。
結果は魔族で、魔王とは表示されなかった。
「完全覚醒前のボクが無意識に情報をいじった結果だよ。実際は、こちらへ転移したソナを追いかけて来た時に、神の力で動物の卵子に転生させられてる」
半目になって溜息混じりに答えたルルは、しくじったと言いたそうな感じだ。
「ボクは動物の輪廻に組み込まれてしまった。でも、今はそれで良かったって思ってる」
そう言うと、ケモミミの子供はアズに笑みを向けた。
「もう1つ答えて。ルルが俺に懐いてくれたのは、演技?」
「ううん、本気。だから今、大人しく殺されるのを待ってるんだよ」
アズがまた問いかけたら、ルルは少し寂しそうに微笑んだ。
ルルの澄んだ黒い瞳から涙が溢れ、顔の横を伝って地面に落ちる。
「ボクが欲しかったもの、全てアズがくれた。だからもう死んでも悔いは無い」
「……ルル……」
「近付いたらダメだよ。完全回避がかかったら殺せないでしょ?」
泣き笑いを浮かべたルルは、思わず近寄ろうとするアズを片手を上げて制した。
「エカ、爆裂魔法を撃って。この身体の心臓の位置はもう知ってるよね」
「昨夜、心臓の位置を把握した後、君に刺されたみたいだけど」
そんな会話を交わしながら、エカは気持ちを整える。
これは魔王、倒すべき者。
爆裂魔法の使い手は、魔王を倒すために生まれてくる者。
だから自分はこの子供に爆裂魔法を使うんだという考えがまとまった。
「ボクが眠ってしまうと防衛本能が出ちゃうから、今回は起きてるよ」
そう言うと、ルルは地面に仰向けになったまま空を見つめる。
エカの方を見ないのは、爆裂魔法が怖いからかもしれない。
『フラム、魔王専用のあれを撃つよ』
『……わかった』
エカとボクは、念話でこっそり話す。
魔王専用の爆裂魔法・存在の完全破壊。
それはエカの肉体が消滅する代わりに、魔王を完全に破壊する魔法。
不死鳥のボクが召喚獣として与えられたのは、その魔法を使った時のため。
魔法を組み上げ始めるエカの周囲に、透明な泡が舞い始める。
空を見つめていたルルが、死を覚悟してそっと目を閉じる。
「待って!」
今まさに魔法が起動しようとした時、アズが動いた。
「?!」
駆け寄ったアズに抱き上げられて、ルルが驚いて目を開ける。
「アズ、抱いてくれるのは嬉しいけど、それじゃ爆裂魔法が効かないよ」
抱き締められたルルは、少し困ったように微笑む。
アズを押しのけたりしないのは、やっぱり嬉しいからなんだろうね。
「ルルを殺さないで。俺の大切な子なんだ」
自分の身体でルルを庇うように抱き締めながら、アズがエカを見つめて言う。
こんなアズを見るのは、二度目かもしれない。
「アズ……ボクは魔王だよ……?」
「俺はルルが何であっても、可愛い小さな宝物だって思ってるよ」
戸惑うルルにアズが言うのは、以前も告げた言葉。
堪えきれなくなったのか、ルルがアズにしがみついて号泣し始めた。
「……」
エカは、起動しかけていた魔法を解除して、穏やかな表情でルルを見つめる。
ソナに関する事で、魔王に対しては色々と思うところはある。
でも今のアズとルルを見ていたら、魔王を殺すのは正解ではない気がした。
『双子の勇者の力で魔王は消滅、ソナとルルの救出完了。みんな、帰還するわよ』
ロコの念話が召喚獣使いたちに告げられる。
討伐隊がアサギリ島を離れてゆく。
「ルル、これ着て」
アズは異空間倉庫にいつも入れている服を取り出して、ルルに着せてあげた。
「じゃ、帰ろうか」
口元に笑みを浮かべるエカを乗せて、ボクは空へ飛び立った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる