214 / 428
前世編
第92話:ルルに潜むもの
しおりを挟む
アサケ学園・男子寮エリア。
現在はアズとルルの部屋になっている一室で、黒髪に黒い犬耳とシッポがついた人型でベッドに寝ているのはルル。
アズが買ってくれたパジャマを着てるけど、前ボタンははずしてあり、胸元は肌が見える状態になっていた。
これから何をされるか、ルルは知ってる。
仔犬ではなくアズよりやや小柄な人型になっているのは、爆裂魔法の威力調整をしやすくする為だ。
……爆裂魔法で、ルルの心臓の中にある魔王の心臓を破壊する……
後から蘇生してもらえると分かっていても、怖いよね。
でもルルは怯えたり逃げようとしたりはせず、その時を迎えようとしていた。
アズはルルが怖くないように、優しく撫でてあげている。
ルルは全てを委ねるように、穏やかな表情で目を閉じた。
エアが作った睡眠導入剤、手術時に使われる薬が、ルルを深い眠りに落としてゆく。
『入っていいよ』
念話を合図に、廊下で待機していたエカは、音をたてないようにそっと室内に入る。
アズが音を立てずに後退して、ルルから離れた。
出来れば手を握ってあげたり、抱いてあげたりしたかったろうね。
でもそうすると完全回避の効果でルルに爆裂魔法が効かないから、アズは壁際に待機した。
ボクはすぐにルルを蘇生出来るように、不死鳥の姿で実体化して、アズの隣で出番を待った。
エカは心臓の位置を把握するため、露わになったルルの胸に耳を当てて鼓動を調べる。
そうして初めて分った。
ルルの心臓の音に重なるように、もう1つ鼓動が聞こえる。
それが魔王の心臓だと分かったエカは、破壊するためにルルの胸に片手を当てた。
「……っ!」
直後、エカが崩れるように床へ倒れる。
その胸と背中から、鮮血が噴き出して床に広がってゆく。
「え?」
アズもボクも、一瞬何が起きたか分からなかった。
倒れたエカの向こう側、ベッドの上で起き上がったルルの片手が、真紅の血で濡れていた。
その片手には、今まで無かった刃物のように長く鋭い爪がはえている。
ルルはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた後、フッとその場から消えた。
「エカ!!」
大量の血が広がる床に倒れて動かないエカを、駆け寄ったアズが抱き起こした。
エカの胸と背中の傷から溢れ続ける血が、アズの衣服も紅く染めてゆく。
蘇生しようとしたボクは、エカがまだ生きている事に気付いた。
『アズ、エカはまだ生きてる』
ベノワ経由の念話で伝えたら、アズは躊躇なく行動に出た。
そのままにしておけば、体内のほとんどの血が流れ出てエカの心臓は止まる。
そこからボクの力で蘇生してもいいけど、アズがそんなの待つわけが無い。
……必要になったら迷わず飲ませる……
有言実行。
アズは異空間倉庫から取り出した小瓶の液体、完全回復薬を口に含み、エカの唇の端から溢れないように塞ぎつつ口移しで流し込む。
薬が完全に体内に流れ込むまで唇を覆ったまま待ち、効果が現れ始めてから顔を離した。
創造神がアズに与えた役割は、エカを最優先にしつつ仲間を護る事。
姿を消したルルを探したいだろうけど、今のアズが無意識に優先するのはエカの救命だ。
「……?」
大量に流れ出ていた血が止まり、背中まで貫通していた爪の傷が跡形もなく完治すると、エカは意識を取り戻した。
「護れなくてごめん」
アズが、エカを抱き締めて謝る。
「……あれ? なんで俺、倒れた……?」
エカ本人は、刺された事に気付いてなかったみたいだ。
ルルがエカを刺した時、アズは分身が現れた時に備えて自分に加速魔法をかけていた。
それはエカにもかけていたし、強化魔法を主と共有するボクにも効果は及んでいる。
ルルには加速魔法をかけてないのに、何故エカを刺せたのか?
エカの背後にいたボクとアズに見えないとしても、エカ本人は見える筈だけど。
「エカ、ルルに刺されたの覚えてる?」
「えっ?!」
アズに聞かれて、エカは驚いた。
それから、床に広がっている大量の血と、鮮血に染まった自分とアズの服に気付く。
「ルルは?」
ベッドの上を見ると、血飛沫が残っているだけでルルがいない。
「エカを刺した後、消えた。多分、魔王のところへ転移したんだと思う……」
アズは予想出来る可能性を告げる。
姿を消す前に見たルルの表情は、何かに憑依されたように邪悪だった。
魔王の心臓の防衛機能、分身が実体化せずにルルに憑依する形で現れたのかもしれない。
「と、とりあえず、これ片付けてみんなに報せに行こう」
体力が全快したエカは立ち上がり、洗浄の生活魔法で自らが流した血を片付けにかかる。
床、ベッド、自分の服や身体、アズの服……
……と、洗浄していって、気付いた。
アズの顔、口元に血が付いてる。
完全回避のあるアズに怪我はありえないから、それはエカの血だ。
確認するようにエカが自分の口元に触れてみると、吐血していたのか指先に血が付いてくる。
「……アズ、まさか……飲ませた……?」
「致命傷だったからね」
問われたアズは、傍らに転がる空っぽの小瓶を拾い上げて見せる。
その小瓶の中身が何だったか、エカは知ってる。
今更だけど、口の中にほんのり甘苦い味が残ってる事に気付いた。
現在はアズとルルの部屋になっている一室で、黒髪に黒い犬耳とシッポがついた人型でベッドに寝ているのはルル。
アズが買ってくれたパジャマを着てるけど、前ボタンははずしてあり、胸元は肌が見える状態になっていた。
これから何をされるか、ルルは知ってる。
仔犬ではなくアズよりやや小柄な人型になっているのは、爆裂魔法の威力調整をしやすくする為だ。
……爆裂魔法で、ルルの心臓の中にある魔王の心臓を破壊する……
後から蘇生してもらえると分かっていても、怖いよね。
でもルルは怯えたり逃げようとしたりはせず、その時を迎えようとしていた。
アズはルルが怖くないように、優しく撫でてあげている。
ルルは全てを委ねるように、穏やかな表情で目を閉じた。
エアが作った睡眠導入剤、手術時に使われる薬が、ルルを深い眠りに落としてゆく。
『入っていいよ』
念話を合図に、廊下で待機していたエカは、音をたてないようにそっと室内に入る。
アズが音を立てずに後退して、ルルから離れた。
出来れば手を握ってあげたり、抱いてあげたりしたかったろうね。
でもそうすると完全回避の効果でルルに爆裂魔法が効かないから、アズは壁際に待機した。
ボクはすぐにルルを蘇生出来るように、不死鳥の姿で実体化して、アズの隣で出番を待った。
エカは心臓の位置を把握するため、露わになったルルの胸に耳を当てて鼓動を調べる。
そうして初めて分った。
ルルの心臓の音に重なるように、もう1つ鼓動が聞こえる。
それが魔王の心臓だと分かったエカは、破壊するためにルルの胸に片手を当てた。
「……っ!」
直後、エカが崩れるように床へ倒れる。
その胸と背中から、鮮血が噴き出して床に広がってゆく。
「え?」
アズもボクも、一瞬何が起きたか分からなかった。
倒れたエカの向こう側、ベッドの上で起き上がったルルの片手が、真紅の血で濡れていた。
その片手には、今まで無かった刃物のように長く鋭い爪がはえている。
ルルはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた後、フッとその場から消えた。
「エカ!!」
大量の血が広がる床に倒れて動かないエカを、駆け寄ったアズが抱き起こした。
エカの胸と背中の傷から溢れ続ける血が、アズの衣服も紅く染めてゆく。
蘇生しようとしたボクは、エカがまだ生きている事に気付いた。
『アズ、エカはまだ生きてる』
ベノワ経由の念話で伝えたら、アズは躊躇なく行動に出た。
そのままにしておけば、体内のほとんどの血が流れ出てエカの心臓は止まる。
そこからボクの力で蘇生してもいいけど、アズがそんなの待つわけが無い。
……必要になったら迷わず飲ませる……
有言実行。
アズは異空間倉庫から取り出した小瓶の液体、完全回復薬を口に含み、エカの唇の端から溢れないように塞ぎつつ口移しで流し込む。
薬が完全に体内に流れ込むまで唇を覆ったまま待ち、効果が現れ始めてから顔を離した。
創造神がアズに与えた役割は、エカを最優先にしつつ仲間を護る事。
姿を消したルルを探したいだろうけど、今のアズが無意識に優先するのはエカの救命だ。
「……?」
大量に流れ出ていた血が止まり、背中まで貫通していた爪の傷が跡形もなく完治すると、エカは意識を取り戻した。
「護れなくてごめん」
アズが、エカを抱き締めて謝る。
「……あれ? なんで俺、倒れた……?」
エカ本人は、刺された事に気付いてなかったみたいだ。
ルルがエカを刺した時、アズは分身が現れた時に備えて自分に加速魔法をかけていた。
それはエカにもかけていたし、強化魔法を主と共有するボクにも効果は及んでいる。
ルルには加速魔法をかけてないのに、何故エカを刺せたのか?
エカの背後にいたボクとアズに見えないとしても、エカ本人は見える筈だけど。
「エカ、ルルに刺されたの覚えてる?」
「えっ?!」
アズに聞かれて、エカは驚いた。
それから、床に広がっている大量の血と、鮮血に染まった自分とアズの服に気付く。
「ルルは?」
ベッドの上を見ると、血飛沫が残っているだけでルルがいない。
「エカを刺した後、消えた。多分、魔王のところへ転移したんだと思う……」
アズは予想出来る可能性を告げる。
姿を消す前に見たルルの表情は、何かに憑依されたように邪悪だった。
魔王の心臓の防衛機能、分身が実体化せずにルルに憑依する形で現れたのかもしれない。
「と、とりあえず、これ片付けてみんなに報せに行こう」
体力が全快したエカは立ち上がり、洗浄の生活魔法で自らが流した血を片付けにかかる。
床、ベッド、自分の服や身体、アズの服……
……と、洗浄していって、気付いた。
アズの顔、口元に血が付いてる。
完全回避のあるアズに怪我はありえないから、それはエカの血だ。
確認するようにエカが自分の口元に触れてみると、吐血していたのか指先に血が付いてくる。
「……アズ、まさか……飲ませた……?」
「致命傷だったからね」
問われたアズは、傍らに転がる空っぽの小瓶を拾い上げて見せる。
その小瓶の中身が何だったか、エカは知ってる。
今更だけど、口の中にほんのり甘苦い味が残ってる事に気付いた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる