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前世編
第53話:癒しの夢
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辛い経験をした者が、その時の事を繰り返し夢で見て苦しむ事はよくある。
精神魔法【癒しの夢】は、それを治療する為の魔法だ。
この魔法は発動方法が特殊で、術者は念話で起動言語を発して、治療する相手に魔力を送り込むと発動する。
眠りに就いてすぐ悪夢を見始め、微かな呻き声を漏らすソナ。
ソナの額に口付けして念話で起動言語を発して送り込んだエカの魔力は、その悪夢の治療を始める。
ボクはエカが視たものを共有しながら、万が一ソナの心臓が止まったりしてもすぐ蘇生出来るように、不死鳥の姿で二人に寄り添い待機していた。
夢の中。
黒髪の女の子は、机と椅子がたくさん並ぶ部屋の中に居た。
机と椅子は1つが1人分の大きさで、板に金属の棒をくっつけたような簡素な造り、40~50組くらいある。
彼女は部屋の隅にある椅子に座っていて、そこへ似たような大きさの黒い影が4つ近付いてくる。
『アンタノセイダ』
『アンタナンカ、イナケレバヨカッタノニ』
『アンタナンカ、シンデシマエバイイ』
『シネ、イマスグ、シネ』
異世界人の子供のような形をした黒い影は、女の子を囲んで口々に言う。
椅子に座っている女の子は、声も出せずに怯えて震えていた。
黒い人影の1つが腕を振り上げて殴りかかろうとした時、エカはその間に入り込んで阻止した。
『やめろ!』
エカは片手で黒い人影に4つの光球を放ち、空いている片方の腕で女の子を抱き寄せる。
光球が当たった4つの影は、砕けて黒い粒子となって消え去った。
『あなたは、だあれ?』
抱き寄せられたまま、エカの顔を見上げて女の子が聞く。
『俺はエカルラート。エカと呼んでいいよ』
『……エカ……?』
エカに名を告げられて、女の子は不思議そうに首を傾げた。
この夢は過去の記憶が作り出したものだから、この女の子はまだエカを知らない。
でも、人やその手を怖がる筈の女の子は、エカが抱き締めて頭を撫でても怯えなかった。
『……不思議……。あなたの手は怖くない。温かくて、気持ちいい……』
『それは、俺が君を護る者だからだね』
『わたしを、まもる……? どうして?』
『俺は君がこれから出会う、最初の友達だからだよ』
過去の女の子に、エカは未来を伝える。
暗い過去に傷ついた心を癒す為、希望の光を注ぐ。
『わたしの、ともだちになってくれるの?』
『うん。君と手を繋いで歩いてゆく、友達になるよ』
護りたい気持ちが伝わるように願いながら、エカは女の子を抱き締めて、優しく囁きかける。
『君はもう独りぼっちじゃないよ。俺が傍に居るからね』
『わたしの、そばにいてくれるの?』
『うん。一緒に異世界で生きよう、ソナ』
ソナと呼ばれた女の子が、そ~っと腕を伸ばしてエカの背に回す。
それは抱き締め返すというよりは、背中に添えただけに見えるけど。
彼女がエカに信頼を寄せて、一緒にいたいと望む気持ちは感じられた。
精神魔法【癒しの夢】は、それを治療する為の魔法だ。
この魔法は発動方法が特殊で、術者は念話で起動言語を発して、治療する相手に魔力を送り込むと発動する。
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『シネ、イマスグ、シネ』
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椅子に座っている女の子は、声も出せずに怯えて震えていた。
黒い人影の1つが腕を振り上げて殴りかかろうとした時、エカはその間に入り込んで阻止した。
『やめろ!』
エカは片手で黒い人影に4つの光球を放ち、空いている片方の腕で女の子を抱き寄せる。
光球が当たった4つの影は、砕けて黒い粒子となって消え去った。
『あなたは、だあれ?』
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『俺はエカルラート。エカと呼んでいいよ』
『……エカ……?』
エカに名を告げられて、女の子は不思議そうに首を傾げた。
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でも、人やその手を怖がる筈の女の子は、エカが抱き締めて頭を撫でても怯えなかった。
『……不思議……。あなたの手は怖くない。温かくて、気持ちいい……』
『それは、俺が君を護る者だからだね』
『わたしを、まもる……? どうして?』
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暗い過去に傷ついた心を癒す為、希望の光を注ぐ。
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それは抱き締め返すというよりは、背中に添えただけに見えるけど。
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