38 / 428
転生者モチ編
第37話:世界樹の森と民(画像あり)
しおりを挟む
───昔々、創世神は、不毛の地に1粒の種を落とした。
そこは、愚かなニンゲンが戦争を起こし、焼き尽くして全ての生き物が消えた世界。
……再び生命が生まれるように……
創世神は、再生と浄化の力を、その種に与える。
種は芽吹き、根や枝葉をのばし、枝から気根を垂らして新たな木を作ってゆく。
とても長い時代をかけて、1粒の種は森を創った。
神はその木を世界樹と名付けた。
不毛の地には、滅びたニンゲンの悪意と、滅びの兵器の毒が残っていた。
世界樹は悪意と毒を大地から取り除き、1つの黒い果実に変える。
神はそれをもぎ取り、ニンゲンに似せた姿の魔王に変えた。
……この悪意と毒を、打ち消すものを創ろう……
そして神は、魔王を倒す種族を創る。
ニンゲンに似た姿をしつつも、ニンゲンではない存在。
千年の時を生きる、その種族は世界樹の民…───
アサケ学園禁書【はじまりの書】より
イオから借りて読んだ本の内容が、記憶の底から浮上する。
その風景を見た途端に、懐かしさと切なさが込み上げた。
やっと帰ってこれた……
……ここは、ずっと帰りたかった場所だ!
初めて見る風景なのに。
そんなことを思うのは、俺ではなくて中の人の感情なんだろう。
蒼天の下にあるのは、広大な深緑の樹海。
見渡す限り緑の森が広がっていて、その向こうには地平線が見えた。
心地よい風が吹き、枝から離れた木の葉が空へと舞い上がる。
転送陣を通り抜けた先は、世界樹の森と呼ばれる場所だった。
「凄い、四季の森よりも広いですね」
「ここは、転生者たちが前世で生まれ育った場所ニャン」
「不思議……この風景を見てると、心の奥がジワッとするの」
「前世の記憶なんて無いのに、懐かしいって感じるね」
江原がその広さに感動して言う。
ドナベのふちに顎を乗せて眼下の風景を眺めながら、三毛猫国王が言う。
女の子たちもドナベの中から顔を出して、下を眺めながら話している。
心の中に泉のように湧き出る感情が抑えきれないものになり、涙で視界がぼやける。
頬を次々に伝う涙を、止めることができない。
視線を感じて振り向いたら、並んで飛翔する青い鳥の背に乗るイオがこちらを見て、苦笑しながら涙を流していた。
イオにも、中の人がいるのだろうか?
俺と同じで、前世の夢を見たりしたことがあるのか?
双子なら、ありえるよな。
朝まで爆睡の奴でも、夢は見るだろうし。
「そろそろ下へ降りるニャン」
三毛猫国王が乗るドナベと、女子たちが乗るドナベが、揃って下降し始める。
UFOの着陸みたいにスーッと滑らかにゆっくりと下降するドナベに、召喚獣に乗る3人が続いた。
森の中の村は、世界樹の里というそうだ。
畑で作業をしていた人々が、降りて来る一行に気付いて駆け寄って来る。
人々はみんな長身で細身、顔立ちはやや中性的で美しく、北方人種のように色素の薄い肌、髪と瞳の色は様々だ。
禁書には「千年の寿命をもつ種族」みたいなことが書いてあったから、創作界隈でいうところのエルフに似た存在なのかもしれない。
「ナムロ様、お久しぶりです」
「何年振りですかな?」
ナムロというのは、三毛猫国王の名前?
パパとか陛下とか王様とか呼ばれていて、名前呼びを聞いたのは今が初めてだな。
集まって来た人々は、一緒にいる俺たちの存在に気付いて視線を向けた。
「君たちは異世界人か?」
「そっちの黒髪の子は日本人かな?」
江原にも視線が向く。
隣にいる天馬がチラッと主の髪を見て、鼻づらを近付けるとフンッと鼻息をかけた。
途端に、江原の髪が天馬の毛並みと同じ白色に、その瞳も同じ水色に変わる。
そういや、召喚獣をもつと髪や瞳の色が変わるんだっけ。
「……あぁ……無駄に目立つから隠してたのに……」
「さすが転移者」
「神話級の召喚獣とは凄いな」
勝手に色を変えられた江原が困り顔になる。
天馬とお揃いカラーになった江原を見て、人々がどよめいた。
「そっちの2人は不死鳥と福音鳥か」
「ジャシンスとネモフィラみたいだな」
「そういえばあの家の子供たちと顔が似てるな」
「今日はこの子たちと会わせたい人たちがいるから来たニャン」
里の人々と王様の会話を聞きながら、俺の中の人がまた心を揺さぶる。
ジャシンス、ネモフィラ……
会話に出てきた名前に反応したようだ。
「まずは里長に挨拶ニャ」
と言う王様について移動しかけたその時、ドサッと何か荷物を落としたような音がした。
何だろう? と思って一同が振り向いた先には、鮮やかな赤色の髪をした男性がいた。
俺と同じ、炎を思わせる赤毛に真紅の瞳。
「……エカ……、……アズ……」
「ジャス、いいところに……」
その人は、俺とイオを交互に見て、涙を流しながら呼びかける。
ナムロ国王が言いかけたところで、赤毛の男性はダッシュで駆け寄って来た。
「帰って来たのか!」
「「……父さん……」」
ジャスと呼ばれた男性は、涙を流しながら俺とイオを2人まとめて抱き締める。
その腕の中で、俺たちはハモった。
自然に出た言葉は、きっと前世の影響が強かったに違いない。
そこは、愚かなニンゲンが戦争を起こし、焼き尽くして全ての生き物が消えた世界。
……再び生命が生まれるように……
創世神は、再生と浄化の力を、その種に与える。
種は芽吹き、根や枝葉をのばし、枝から気根を垂らして新たな木を作ってゆく。
とても長い時代をかけて、1粒の種は森を創った。
神はその木を世界樹と名付けた。
不毛の地には、滅びたニンゲンの悪意と、滅びの兵器の毒が残っていた。
世界樹は悪意と毒を大地から取り除き、1つの黒い果実に変える。
神はそれをもぎ取り、ニンゲンに似せた姿の魔王に変えた。
……この悪意と毒を、打ち消すものを創ろう……
そして神は、魔王を倒す種族を創る。
ニンゲンに似た姿をしつつも、ニンゲンではない存在。
千年の時を生きる、その種族は世界樹の民…───
アサケ学園禁書【はじまりの書】より
イオから借りて読んだ本の内容が、記憶の底から浮上する。
その風景を見た途端に、懐かしさと切なさが込み上げた。
やっと帰ってこれた……
……ここは、ずっと帰りたかった場所だ!
初めて見る風景なのに。
そんなことを思うのは、俺ではなくて中の人の感情なんだろう。
蒼天の下にあるのは、広大な深緑の樹海。
見渡す限り緑の森が広がっていて、その向こうには地平線が見えた。
心地よい風が吹き、枝から離れた木の葉が空へと舞い上がる。
転送陣を通り抜けた先は、世界樹の森と呼ばれる場所だった。
「凄い、四季の森よりも広いですね」
「ここは、転生者たちが前世で生まれ育った場所ニャン」
「不思議……この風景を見てると、心の奥がジワッとするの」
「前世の記憶なんて無いのに、懐かしいって感じるね」
江原がその広さに感動して言う。
ドナベのふちに顎を乗せて眼下の風景を眺めながら、三毛猫国王が言う。
女の子たちもドナベの中から顔を出して、下を眺めながら話している。
心の中に泉のように湧き出る感情が抑えきれないものになり、涙で視界がぼやける。
頬を次々に伝う涙を、止めることができない。
視線を感じて振り向いたら、並んで飛翔する青い鳥の背に乗るイオがこちらを見て、苦笑しながら涙を流していた。
イオにも、中の人がいるのだろうか?
俺と同じで、前世の夢を見たりしたことがあるのか?
双子なら、ありえるよな。
朝まで爆睡の奴でも、夢は見るだろうし。
「そろそろ下へ降りるニャン」
三毛猫国王が乗るドナベと、女子たちが乗るドナベが、揃って下降し始める。
UFOの着陸みたいにスーッと滑らかにゆっくりと下降するドナベに、召喚獣に乗る3人が続いた。
森の中の村は、世界樹の里というそうだ。
畑で作業をしていた人々が、降りて来る一行に気付いて駆け寄って来る。
人々はみんな長身で細身、顔立ちはやや中性的で美しく、北方人種のように色素の薄い肌、髪と瞳の色は様々だ。
禁書には「千年の寿命をもつ種族」みたいなことが書いてあったから、創作界隈でいうところのエルフに似た存在なのかもしれない。
「ナムロ様、お久しぶりです」
「何年振りですかな?」
ナムロというのは、三毛猫国王の名前?
パパとか陛下とか王様とか呼ばれていて、名前呼びを聞いたのは今が初めてだな。
集まって来た人々は、一緒にいる俺たちの存在に気付いて視線を向けた。
「君たちは異世界人か?」
「そっちの黒髪の子は日本人かな?」
江原にも視線が向く。
隣にいる天馬がチラッと主の髪を見て、鼻づらを近付けるとフンッと鼻息をかけた。
途端に、江原の髪が天馬の毛並みと同じ白色に、その瞳も同じ水色に変わる。
そういや、召喚獣をもつと髪や瞳の色が変わるんだっけ。
「……あぁ……無駄に目立つから隠してたのに……」
「さすが転移者」
「神話級の召喚獣とは凄いな」
勝手に色を変えられた江原が困り顔になる。
天馬とお揃いカラーになった江原を見て、人々がどよめいた。
「そっちの2人は不死鳥と福音鳥か」
「ジャシンスとネモフィラみたいだな」
「そういえばあの家の子供たちと顔が似てるな」
「今日はこの子たちと会わせたい人たちがいるから来たニャン」
里の人々と王様の会話を聞きながら、俺の中の人がまた心を揺さぶる。
ジャシンス、ネモフィラ……
会話に出てきた名前に反応したようだ。
「まずは里長に挨拶ニャ」
と言う王様について移動しかけたその時、ドサッと何か荷物を落としたような音がした。
何だろう? と思って一同が振り向いた先には、鮮やかな赤色の髪をした男性がいた。
俺と同じ、炎を思わせる赤毛に真紅の瞳。
「……エカ……、……アズ……」
「ジャス、いいところに……」
その人は、俺とイオを交互に見て、涙を流しながら呼びかける。
ナムロ国王が言いかけたところで、赤毛の男性はダッシュで駆け寄って来た。
「帰って来たのか!」
「「……父さん……」」
ジャスと呼ばれた男性は、涙を流しながら俺とイオを2人まとめて抱き締める。
その腕の中で、俺たちはハモった。
自然に出た言葉は、きっと前世の影響が強かったに違いない。
1
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる