114 / 428
転移者イオ編
第53話:選択(画像あり)
しおりを挟むセレスト家は、家族愛の強い一家だ。
ジャスさんフィラさん夫婦は仲が良く、双子の息子たちに愛情を注いでいる。
今でも近くに住む息子夫婦と孫を自宅に呼び、夕食を御馳走することがよくある。
胎児のうちに死んだ孫の生まれ変わりだった詩川琉生のことも、とても可愛がっていたという。
エカとソナ夫婦も仲良しで、息子リヤンも愛されている。
エカたちも、詩川琉生とは仲が良かったそうだ。
そんな彼等に、詩川琉生の転生者を殺すという選択肢は、あまりにも残酷だった。
「陛下、ゴミに構う必要はございません。大陸破壊を済ませましょう」
「わかった」
トゥッティは、エカが魔王を殺せないことを知っている。
まるでこちらを敵として見ていないかのように、落ち着いた口調で言っている。
魔王は、自我がほとんど感じられない。
少女は男に言われるままに力を使い、大陸破壊兵器を起動しようとした。
「やめろルイ!」
エカは、再び魔法陣ごと6つの心臓を粉砕して、それを止める。
爆裂魔法で、蛇将軍もまとめて爆破された。
「復活」
少女が、起動言語を呟く。
すると、何事もなかったかのように、魔法陣も6つの心臓も、白髪の男さえも元通り復元された。
『魔族の復活までできるのか』
『トゥッティがいなければ、説得できるかもしれないのに……』
ジャスさんとエカは、復元されたトゥッティを睨んで念話を交わす。
2人の睨みに対し、白髪の男はニヤリと笑うだけだった。
『エカ、これ食っとけ』
俺はエカの口の中に、世界樹の花の砂糖漬けを放り込んだ。
使った爆裂魔法の威力と規模と回数から判断して、そろそろエカの生命力を回復させた方がいい。
世界樹の花には、完全回復薬と同じ効果があった。
『エカの生命力を本人より把握してるところ、イオは前世から変わってないね』
と言うのはフラム。
多分、アズも過去に似たようなことをしたんだろう。
エカたちが、アズの名残を俺の中に見つけることはよくある。
言葉や行動の中に、共通点があるのだという。
エカとフラムは、アズと俺の本質は変わらないと思っているらしい。
双子として生きた記憶が無くても、エカを護る為の行動のほとんどが、アズそのもののように見えるそうだ。
以前は、それが嫌だった。
自分を見てもらえてない気がしたから。
でも、詩川琉生の名残を欠片も残していない少女を、身内として助けようと考える彼等を見ていたら、気にならなくなった。
それに俺も、前世繋がりのあの子を助けたいと思っている。
だから俺たちに、魔王を殺すという選択は無い。
「ルイ! それを使うな!」
再び、エカの爆裂魔法が、魔法陣と6つの心臓を爆破した。
トゥッティには、ジャスさんが短剣を投擲する。
その短剣には、敵に気付かれないようにコッソリと、聖なる力を注いである。
「チッ、聖魔法か!」
短剣が胸に突き刺さり、核に流れ込む聖なる力に、トゥッティが顔をしかめる。
彼はジャスさんに関する情報を持ってないから、ジャスさんが聖魔法の使い手だと思っているだろう。
「道具、壊される。使えない」
少女は、隣にいる男が傷ついても全く気にしない様子で、無表情に呟いた。
この子には感情が無いのだろうか?
何のために兵器を使うんだろう?
『風の妖精、俺たちを下へ降ろして』
俺は風の妖精たちに念話で願い、エカとジャスさんの手を握ったまま下降した。
トゥッティの近くまで降りた途端、ジャスさんが短剣の柄を足蹴にして、更に深く押し込む。
驚きと痛みで、蛇将軍は赤い双眸を見開いた。
「ぐはっ! よくも……」
「俺の子供を虐める奴は、御仕置きだ」
短剣が核に与えるダメージが増加し、トゥッティが苦しそうな声を上げてジャスさんを睨む。
ジャスさんは容赦無くて、膝をつく男に追加で剣を突き刺した。
勿論その剣も、聖なる力の付与済みだ。
爆裂魔法ではないので、将軍クラスの魔族は死なないけど、ダメージは食らう。
痛みで動けなくなったトゥッティを蹴り倒したジャスさんは、更に追加で4本の短剣を突き刺した。
「……父さんが……鬼畜だ……」
「エカが噛まれた回数分だ」
エカが軽く引いている。
ジャスさんは、フッと不敵な笑みを浮かべた。
可愛い我が子が6回噛まれたから、6本の刃で仕返しをした、と。
この人を怒らせるのは、やめとこう。って思ったのは、俺だけではない筈。
蛇将軍は、核がある辺りに剣1本と短剣5本、剣山みたいに突き刺され、気絶したのか白目をむいて動かない。
「静かになって、ちょうどいいだろう?」
「そ、そうだね」
平然として言うジャスさんに苦笑しつつ、俺は同意した。
確かに、ちょっとやり過ぎ感はあるけど、トゥッティを黙らせるにはいい方法かもしれない。
「こいつ確か蛇に変身して脱皮で再生するよな? 見張ってないと不意打ちされるかも」
エカは【モチ】の記憶を思い出して、警戒している。
よく見ると、倒れて動かない白髪の男の皮膚に、鱗が浮き出てきていた。
トゥッティとは俺も一度戦った経験があるので、脱皮で再生することは知っている。
絶対零度で凍らされても、脱皮で解除してたな。
「……そうだ、これを試してみよう。【時の封印】」
俺は核を貫かれて失神している魔族に、生命の時を止める魔法を使用した。
それは今のトゥッティには、爆裂魔法よりも厄介なものだろう。
細胞の活動を停止させられた男は、鱗の生成が途中で止まり、脱皮も再生も不可能となる。
意識を失った状態も維持され、全く動くことは出来なくなった。
「おお、凄い魔法だな」
「敵を殺さず無力化するにはピッタリだな」
時の封印を初めて見たジャスさんと、その効果を知るエカが言う。
俺は更に、魔法陣に配置された6つの心臓にも時の封印をかけた。
岩のように見えるけど、心臓というなら生命の時を止められるかもしれない。
結果は、どうやら正解だったようだ。
黒い岩のような6つの心臓は、黒い霧を出さなくなった。
時の封印は、魔道兵器の封印にも使える。
後で翔に報告しよう。
「道具、動かない。なんで?」
呟く女の子は、倒れたトゥッティを見てもいない。
その顔は、眉すら動かさず無表情だった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる