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転移者イオ編
第44話:爆裂魔法の使い手(画像あり)
しおりを挟む前世エカとアズの時代の話。
魔王討伐の際は、完全回避をもつアズだけが敵の標的となるように、エカは後方に待機させられていた。
爆裂魔法使いは、魔王討伐の切り札。
敵に見つからないように、隠され続けた。
でも今回は、前世とは状況が異なる。
「転生したルイに記憶が無かったとしても、蛇将軍が一緒にいるなら、爆裂魔法使いが俺だとバレていると思う」
アサケ学園の生徒会室。
王太子直属の精鋭部隊・生徒会役員たちと共に円卓を囲む中、エカが状況を説明する。
エカの両隣には、王太子である三毛猫ナジャ学園長と、学園長の曾祖母である白猫ジャミ占い師が座っていた。
以前、蛇将軍トゥッティ捕獲作戦の時は、国王ナムロ様が指示を出していたけれど。
今回は詩川琉生の上司だったことから、ナジャ学園長が担当するそうだ。
「彼等は、囮にはひっかからない。最優先で俺を狙う筈だ」
エカは真剣な表情で語る。
爆裂魔法使いは、魔王や魔将軍たちを殺せる唯一の存在。
魔王の予備の心臓で兵器でもある6つの心臓を破壊できるのは爆裂魔法だけ。
最大の脅威となる爆裂魔法使いが戦場で見つかれば、魔王軍は真っ先に無力化しようとする。
そのため、過去の魔王討伐の際は、爆裂魔法使いの存在は隠され、完全回避のユニークスキルを持つ者が、勇者として各国の王家から発表されて囮役を引き受けていた。
【爆裂魔法】が魔王を殺す魔法の力なのに対し、【完全回避】は囮になるためのスキル、魔王に殺されない力だ。
本来なら当代の完全回避スキル保有者、つまり俺が囮になるところだけど。
しかし、今回は囮作戦に効果が見込めない。
蛇将軍トゥッティ捕獲時に、モチが不完全ながら爆裂魔法を使っていたので、使い手であることはバレている。
転移直後のモチは、詩川琉生が作った魔道具で爆裂魔法を検出されてもいる。
それにセレスト家と親戚付き合いをしていた【ルイ】は、叔父であるエカのことをよく知っている筈だ。
詩川琉生が自ら望んで魔族転生を実行したのなら、天敵となるエカのことは魔族たちに話しているだろう。
「だから今回は、隠れたりしないで堂々と出るよ」
「エカは死んでもすぐ復活するから大丈夫」
エカは、前世でいつもアズを囮にして隠れ続けなければならなかったことが、嫌だったのかもしれない。
鳩サイズで肩にとまっている不死鳥フラムが、蘇生は任せろと胸を張って言う。
「蘇生なら僕も慣れてますから、何回自爆しても大丈夫ですよ」
「……いや、メガンテは使わないから」
OBとなった江原も来ている。
高位の神官服を着た江原がニコニコして言ったら、エカが鼻の穴広げて真顔になりながらツッコミを入れた。
江原は765名一斉転移に巻き込まれた1人で、聖魔法に優れた人物。
現在は神殿で働く最上級聖魔法使い(聖者)として、この世界に残っている。
江原の聖魔法の上達に最も貢献したのが、エカに変わる前のモチだ。
不完全な爆裂魔法(メガンテと名付けていた)で毎日自爆死をしていたモチの蘇生をし続けた結果、江原は蘇生のエキスパートと呼ばれる聖魔法使いに進化している。
「蘇生薬なら売るほどあるから安心していいよ。100回死んでも大丈夫」
「そんな、日本の物置CMみたいなこと言われてもな……」
俺が異空間倉庫から取り出した蘇生薬(エア作)の瓶をチャポチャポ振ってみせたら、エカは変顔のままこっちを見てツッコミを入れた。
どうやら、モチの記憶はちゃんと残っているようだ。
張り詰めた感じになっていたエカを、江原と俺が程よくほぐしたところで、生徒会室に白衣を着た生徒が駆け込んで来た。
「学園長! 詩川先生の遺体と魔法陣が消えました!」
駆け込んで来た生徒の報せに、場の雰囲気が再び引き締まる。
報せを受けた学園長が、俺に視線を向けた。
「聞いてきます」
「頼むニャ」
視線と短い会話で意思疎通すると、俺はアサギリ島へ空間移動した。
元魔王のルルに報せて、次に何が起きるのか教えてもらおう。
◇◆◇◆◇
アサギリ島、ルルの木の根元。
空間移動した俺が、遺体と魔法陣が消失したことを伝えたら、ルルはすぐに何が起きたか理解したらしい。
『それはおそらく、転生したルイに、魔王の力が覚醒したんだと思うわ』
ルルはそう説明して、溜息をついた。
魔王の力は、この世界の生き物を全て滅ぼす力。
ルルは敵だった筈の世界樹の民・アズを愛して、世界を滅ぼすことをやめた魔王。
胎内に子を宿したまま亡くなり、その子が魔王にならないように日本へ転生させた。
結果、日本人として生まれたのが、詩川琉生。
彼女が魔王出現を封じていたのに、我が子が台無しにしたわけだ。
「エカは説得を試みると言っていたよ」
『何かに記憶と心を残していればいいが……。遺品にそれらしいものはあるか?』
アズが聞いてくる。
遺品は魔法学部・医学部・魔工学部で調べているけど、今のところそれらしきものは見つかっていない。
「魔法や医療器具や魔道具で調査しているけど、それらしいものは無かったよ」
『【霊気同調】は使ってみたか?』
「それはまだ」
『試してみてくれ』
「分かった」
アズのアドバイスを受けて、俺は遺品を保管している魔工学部に空間移動した。
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