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転移者イオ編
第23話:緑柱石色の空間(画像あり)
しおりを挟む翔が使う転移魔法で運ばれた先は、薄い本の世界で主人公が世界間移動で通ったあの場所だった。
前も後ろも右も左も上も下も、どちらを見ても緑柱石色の水のような液体が見える。
つまり俺はその液体の中に入っているわけだけど、呼吸は普通に出来ているし、苦しくない。
翔に手を引かれてそこを進んでいくと、前方に人影が見えてきた。
「ただいま、エル。イオを連れてきたよ」
翔がそう言って液体の中を魚のように進み、その先にいる人物の隣へ移動した。
エルと呼ばれた人物が、俺に気付いて微笑みかけてくる。
「イオ、こちらが君を呼んだエルランティスだよ」
「ナーゴの子、来てくれてありがとう」
聖母を思わせる柔和な微笑みを浮かべる美しい人を片手で示して、翔は俺が知っている神様の名前を告げた。
色素が感じられないくらいの白い肌、足首辺りまで伸びた黄金の長い髪、澄んだ瞳は金と濃紺のオッドアイ。
俺は薄い本からの情報で名前だけは知っている、エルティシアの創造神エルランティス様を初めて見た。
中性的な顔立ちの、美しい神様だ。
「はじめましてエルランティス様、ナーゴ式の礼で失礼します」
俺は跪いて右手を胸に当て、頭を下げる。
それは、世界樹の民が創造神に挨拶する際の礼だ。
エルティシアの神様への挨拶は分からないので、ナーゴ式でエルランティス様に挨拶する。
前世の記憶が得られない俺は、エカから教わってこの礼を覚えた。
「俺に御用とは何でしょう?」
「現世の名を忘れた子、貴方が前世の影に縛られずに過ごせる場所を提供しようと思っています」
エルランティス様の言葉に、俺は心を見透かされた気持ちになる。
というか今の俺は、精神体だけの状態だから、心は丸見えなのかもしれない。
ナーゴでは前世が知られ過ぎていて、俺はその転生者としてしか見られていない。
それを窮屈に感じていることを、この神様には読み取られているようだ。
でも、見ず知らずの神様が自分の世界へ呼び込むほどのことだろうか?
「何故、そうして下さるのですか?」
「この世界の物語を、最後まで読んでくれたからです」
訊いてみたら、理由は俺が読んだ薄い本だった。
ふと、大昔の映画を思い出した。
孤独な少年が見つけた本を読み進めていると、最後に異世界へ呼ばれるという話。
確かあの映画も、薄い本と同じ20世紀の作品だったな。
「つまり、【読者サービス】だよ」
「そういう事です」
古い映画の物語を思い出していたら、翔が雰囲気ブッ壊す発言をするのでズッコケそうになった。
エルランティス様まで頷いてるし。
まさか、神様が読者サービスしてくれるとは思わなかったよ。
「場所を提供してもらえるのは嬉しいですが」
俺は苦笑して言う。
異世界転移が出来るならこちらで暮らすのも悪くない。
けど、俺の肉体と魂をこっちに転移すると死亡して、ナーゴに強制転生しちゃうからね。
「俺はこのとおり幽霊みたいな状態なので、あまり意味はないような気がします」
「こちらの世界に肉体を作るから大丈夫だよ」
翔が笑みを浮かべて言う。
肉体を作るって何だ?
「イオはゲーム会社の人だよね?」
「うん」
「イメージしやすく言うと【キャラクターを作成して動かす】のと同じ原理だよ」
「なるほど」
俺には凄く分かりやすい説明だけど、ファンタジー感が台無しだなオイ。
って心の中でツッコミ入れたのが分ったのか、翔の隣でエルランティス様が苦笑した。
つまり、フルダイブ型のオンラインゲームをプレイするような感じか。
それなら、日本にいた頃に趣味や仕事でやってたから慣れてるぞ。
「分ってもらえたところで、イオのキャラクターを作成しよう」
「って、翔が作るの?」
「うん。自由度は高いから期待していいよ」
神様が作るのかと思ったら、違った。
この世界は俺の予想の斜め上をいくようだ。
「翔のスキル【キャラクタークリエイト】なら、貴方の希望通りの肉体を作れると思いますよ」
神様がさらっと言ったスキルが、なんかトンデモスキルのような。
そういや、翔はレア魔法を開発した人物だ。
ユニークスキル性能は神様の保証つきか。
「容姿とかの希望はある?」
「じゃあ、作ってもらおうかな。容姿はナーゴでの姿と同じで」
翔に訊かれて、俺は今と同じ容姿を希望した。
違う体格にしてしまうと、元の身体に戻った時に感覚が鈍ってそうだし。
なんだかんだで6歳児の身体に慣れてしまってるから、それでいい。
「それなら簡単、あっちのデータをこっちにコピーするから、スキルなんかも流用出来るね」
「それって【完全回避】も?」
「勿論。現在イオがナーゴで使える全てのスキルと魔法を持ってこれるよ」
翔のユニークスキル【キャラクタークリエイト】が、神の領域のような。
完全回避をコピーするとか?!
彼は一体何者なんだ?
「ついでに異空間倉庫とその中身もコピーしようか?」
「大サービスだな」
至れり尽くせりとは正にコレ。
こうして、俺はナーゴでの自分と同じステータスと装備で、エルティシア生活をスタートする事になった。
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