72 / 428
転移者イオ編
第11話:竜と対戦(画像あり)
しおりを挟む
禁書閲覧室の薄い本、3分の2くらいまで読み進めた。
危うく死にかける主人公の様子に、先日のエカが被る。
本の主人公にも「命大事に」って、言ってやりたい。
本の世界には死者蘇生の術は無いんだから、エカ以上に気を付けないといけない。
【治癒の力】というのは、回復魔法やポーションよりも効果が低いみたいだ。
傷は治すけど生命力は回復しないんじゃ、戦闘中は使い勝手が悪そう。
そんな事を思いながら、読書タイムを終えた俺は禁書閲覧室を出た。
通常空間とは隔離された、神様の修行空間。
本日のレッスンメニューは、いつもと違った。
「今日はこれと戦ってみなさい」
「え、これですか?」
「剣術だけで、どこまでやれるか試せばよい」
アチャラ様が召喚したのは、どこから見ても西洋竜にしか見えない巨大生物。
以前、松本先生の特別授業で召喚された竜は倒した事があるけど、それは身体強化魔法あればこそだ。
当時はまだ普通の6歳児程度の能力しかなかったから、今とはだいぶ火力が違う。
素の攻撃力はそこそこ上がってるけど、硬い竜の身体に斬撃のダメージが通るかな?
訓練の成果を調べるため、とりあえず試してみよう。
俺は神様が作り出した竜に挑んだ。
溜めからダッシュしての斬撃。
当たったけど、頑丈な鉱石のような鱗に弾かれた。
竜は「ん? なんか当たったか?」みたいな顔してこっちを見る。
ノーダメージかよ。
予想通り、硬いなぁ。
竜が仕掛けてくる爪攻撃は、完全回避が発動して俺には掠りもしない。
獲物を捉えられず宙を泳ぐ前脚、その関節部分の鱗の隙間に剣を刺してみると、皮膚に通ったようで竜の血が吹き出した。
大したダメージにはならなかったようだけど、一応攻撃が通ったぞ。
痛かったのか竜はお怒りで、今度はシッポで攻撃してくる。
それも勿論当たらないから、構わず跳躍して竜の頭に乗り、目を狙って剣を突き出したけど、竜は瞼を閉じてそれを防いだ。
むう、なかなかやるな。
それならこっちだと、俺は竜の頭から鼻先へ跳んで、鼻の穴に剣を突き刺す。
鼻血を吹き出して咆哮する竜から飛び降りると、またシッポ攻撃がきた。
当たらないシッポに構わず、また跳躍して頭に乗ろうとしたら、竜も二度は同じ手を食らわないらしく、カッと口を開けて火炎を吐いてくる。
なら、狙うのはその口だ。
火炎なんか俺には効かないから、そのまま竜の口の中に飛び込む。
俺を食うつもりか、竜がバクンと口を閉じた。
「イオ!」
あれ? なんかエカの声がしたような?
ここにいるわけないから、多分気のせいだな。
そう思いつつ、俺は無防備な竜の舌に剣を突き刺した。
鱗が無いから楽に刺さる。
噴き出す血と共に苦悶の声を上げる竜は、この程度では致命傷には至らない。
竜が俺を吐き出そうと頭を振るので、深々と突き刺した剣に捕まりつつ踏みとどまる。
こいつを殺るなら体内の核を破壊だ。
間近で聞く竜の咆哮がうるさいけど、完全回避の効果で俺の鼓膜や聴力に異常は起きない。
俺は竜の口から喉を通り、胃の中まで進んだ。
普通の生物がこんなところに入ったら、胃酸に溶かされるだろうね。
でも俺の場合は、竜の胃液を浴びる事も踏む事も無い。
竜の胃の中で、胃液は俺を避けるように離れて滴り、足元に溜まっている胃液は俺から退いて、円状の安全な場所が確保された。
俺は胃壁に近付くと、切り裂いてその向こうへ出た。
竜が絶叫した声が聞こえる。
麻酔無しで胃を斬られたら、そりゃあ痛いか。
切った傷から噴き出る竜の血も、俺を避けるように飛び散ったり流れたりする。
おそらくこの血液も有害物質なんだろう。
切り裂いた胃壁の向こう、やや上の辺りに真紅の球体が見える。
それが竜の心臓、核と呼ばれる物だ。
竜は悶絶しているらしく、かなり揺れる。
俺は跳躍で距離を詰めて、竜の核に剣を突き刺した。
剣が刺さった部分からヒビが広がり、紅い球体が砕けて消える。
ひときわ大きな叫び声の後、竜の全身が硝子のように砕けて消え去った。
「イオ!」
また、エカの声がする。
竜が消えて空中に出た俺は、床に着地すると声がした方を見た。
「あれ? なんでエカがいるの?」
見慣れた赤い髪の青年がいる。
と思った直後、エカはダッシュでこちらへ駆け寄ってきた。
「大丈夫か?! どこか怪我してないか?!」
エカ、何故か俺を心配してるぞ。
俺には完全回避があるから、怪我なんてするわけないのに。
「怪我はしてないよ。それよりなんでエカがここに来てるの?」
「心配する側の気持ちを分からせようと思って、こちらへ呼んだのだよ」
俺が訊いたら、エカの後方で悠々と寛いでるアチャラ様が答えた。
なるほど、いい考えだと思う。
「ね? 死なないと分かってても不安でしょ? 命大事にしないエカを心配する人の気持ちが分った?」
「わ、分った。今までごめん」
どこか怪我してないかとあちこち見て確認してるエカに、俺は言ってやった。
エカはすぐ謝るけど、俺がしてほしいのは謝る事じゃない。
「命大事に、これ絶対ね」
「お、おう」
これでエカも、少しは計画的に爆裂魔法を使ってくれるかもしれない。
危うく死にかける主人公の様子に、先日のエカが被る。
本の主人公にも「命大事に」って、言ってやりたい。
本の世界には死者蘇生の術は無いんだから、エカ以上に気を付けないといけない。
【治癒の力】というのは、回復魔法やポーションよりも効果が低いみたいだ。
傷は治すけど生命力は回復しないんじゃ、戦闘中は使い勝手が悪そう。
そんな事を思いながら、読書タイムを終えた俺は禁書閲覧室を出た。
通常空間とは隔離された、神様の修行空間。
本日のレッスンメニューは、いつもと違った。
「今日はこれと戦ってみなさい」
「え、これですか?」
「剣術だけで、どこまでやれるか試せばよい」
アチャラ様が召喚したのは、どこから見ても西洋竜にしか見えない巨大生物。
以前、松本先生の特別授業で召喚された竜は倒した事があるけど、それは身体強化魔法あればこそだ。
当時はまだ普通の6歳児程度の能力しかなかったから、今とはだいぶ火力が違う。
素の攻撃力はそこそこ上がってるけど、硬い竜の身体に斬撃のダメージが通るかな?
訓練の成果を調べるため、とりあえず試してみよう。
俺は神様が作り出した竜に挑んだ。
溜めからダッシュしての斬撃。
当たったけど、頑丈な鉱石のような鱗に弾かれた。
竜は「ん? なんか当たったか?」みたいな顔してこっちを見る。
ノーダメージかよ。
予想通り、硬いなぁ。
竜が仕掛けてくる爪攻撃は、完全回避が発動して俺には掠りもしない。
獲物を捉えられず宙を泳ぐ前脚、その関節部分の鱗の隙間に剣を刺してみると、皮膚に通ったようで竜の血が吹き出した。
大したダメージにはならなかったようだけど、一応攻撃が通ったぞ。
痛かったのか竜はお怒りで、今度はシッポで攻撃してくる。
それも勿論当たらないから、構わず跳躍して竜の頭に乗り、目を狙って剣を突き出したけど、竜は瞼を閉じてそれを防いだ。
むう、なかなかやるな。
それならこっちだと、俺は竜の頭から鼻先へ跳んで、鼻の穴に剣を突き刺す。
鼻血を吹き出して咆哮する竜から飛び降りると、またシッポ攻撃がきた。
当たらないシッポに構わず、また跳躍して頭に乗ろうとしたら、竜も二度は同じ手を食らわないらしく、カッと口を開けて火炎を吐いてくる。
なら、狙うのはその口だ。
火炎なんか俺には効かないから、そのまま竜の口の中に飛び込む。
俺を食うつもりか、竜がバクンと口を閉じた。
「イオ!」
あれ? なんかエカの声がしたような?
ここにいるわけないから、多分気のせいだな。
そう思いつつ、俺は無防備な竜の舌に剣を突き刺した。
鱗が無いから楽に刺さる。
噴き出す血と共に苦悶の声を上げる竜は、この程度では致命傷には至らない。
竜が俺を吐き出そうと頭を振るので、深々と突き刺した剣に捕まりつつ踏みとどまる。
こいつを殺るなら体内の核を破壊だ。
間近で聞く竜の咆哮がうるさいけど、完全回避の効果で俺の鼓膜や聴力に異常は起きない。
俺は竜の口から喉を通り、胃の中まで進んだ。
普通の生物がこんなところに入ったら、胃酸に溶かされるだろうね。
でも俺の場合は、竜の胃液を浴びる事も踏む事も無い。
竜の胃の中で、胃液は俺を避けるように離れて滴り、足元に溜まっている胃液は俺から退いて、円状の安全な場所が確保された。
俺は胃壁に近付くと、切り裂いてその向こうへ出た。
竜が絶叫した声が聞こえる。
麻酔無しで胃を斬られたら、そりゃあ痛いか。
切った傷から噴き出る竜の血も、俺を避けるように飛び散ったり流れたりする。
おそらくこの血液も有害物質なんだろう。
切り裂いた胃壁の向こう、やや上の辺りに真紅の球体が見える。
それが竜の心臓、核と呼ばれる物だ。
竜は悶絶しているらしく、かなり揺れる。
俺は跳躍で距離を詰めて、竜の核に剣を突き刺した。
剣が刺さった部分からヒビが広がり、紅い球体が砕けて消える。
ひときわ大きな叫び声の後、竜の全身が硝子のように砕けて消え去った。
「イオ!」
また、エカの声がする。
竜が消えて空中に出た俺は、床に着地すると声がした方を見た。
「あれ? なんでエカがいるの?」
見慣れた赤い髪の青年がいる。
と思った直後、エカはダッシュでこちらへ駆け寄ってきた。
「大丈夫か?! どこか怪我してないか?!」
エカ、何故か俺を心配してるぞ。
俺には完全回避があるから、怪我なんてするわけないのに。
「怪我はしてないよ。それよりなんでエカがここに来てるの?」
「心配する側の気持ちを分からせようと思って、こちらへ呼んだのだよ」
俺が訊いたら、エカの後方で悠々と寛いでるアチャラ様が答えた。
なるほど、いい考えだと思う。
「ね? 死なないと分かってても不安でしょ? 命大事にしないエカを心配する人の気持ちが分った?」
「わ、分った。今までごめん」
どこか怪我してないかとあちこち見て確認してるエカに、俺は言ってやった。
エカはすぐ謝るけど、俺がしてほしいのは謝る事じゃない。
「命大事に、これ絶対ね」
「お、おう」
これでエカも、少しは計画的に爆裂魔法を使ってくれるかもしれない。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

俺だけが持つユニークスキル《完全記憶能力》で無双する
シア07
ファンタジー
主人公、レン・クロニクスと幼馴染である、サクヤが一緒に買い物へ行っている時だった。
『ユニークスキル《完全記憶能力》の封印が解除されました』
という機械のような声が聞こえ、突如頭が痛みだす。
その後すぐ周りが急に暗くなり、頭の中に数々の映像が見せられた。
男女の怪しげな会話。
サクヤとの子供時代の会話。
つい最近出来事など様々だった。
そしてレンはそれをみて気づく。
――これがレン自身の記憶であることを。
さらにその記憶は。
「なんで、全部覚えてるんだ……」
忘れることがなかった。
ずっと覚えている。
行動も時間もなにもかもすべて。
これがレンだけが持つ、最強のユニークスキル《完全記憶能力》の能力だった。
※他サイトでも連載しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる