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転移者イオ編
第10話:修行空間(画像あり)
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禁書閲覧室の薄い本、ここまでで半分くらい読み進めた。
怨念が物理攻撃してくる世界、ゴーレムもどきが空を飛び、パンチ飛ばしてくるのか。
敵陣に3人で行くのはよろしくないように思うけど、大勢で行ったら犠牲が多くなりそうだな。
俺の前世は、世界各国から集った冒険者たちと共に敵陣へ乗り込んだけど。
禁書で知った情報では、魔王城に突入したのは勇者アズールと隠密2名だけで、他の冒険者たちは屋外で魔族や魔物の相手をしていたらしい。
アズは魔族やゴーレムが行く手を阻もうとする中、正面入口から堂々と城へ突入したそうだ。
それはアズが攻撃もデバフも食らわないからで、完全回避を持たない人にはおすすめしない。
読書タイムが終わり、続く日課の剣術修行。
剣神アチャラ様の修行空間へ行こうと世界樹の森に来たら、エカがいた。
「あれ? エカどうしたの?」
「たまには、俺も修行しようと思って来たんだよ」
と言うエカがここでする修行といえば、爆裂魔法だろう。
最近、魔族が増えてきてるから、鍛え直しに来たのかな?
魔法は使えば使うほど、威力と魔力が上がる。
爆裂魔法の場合は、魔力の代わりに生命力が上がる。
先日、大怪我をしたエカが生存していたのは、生命力が高いからだ。
生命力の低い猫人なら、胸から背中に貫通するような傷と大量出血なんて、すぐ死んじゃうと思う。
「……見るなよ?」
「え? 何を?」
「……いや、なんでもない」
なんかエカが意味深な事を言うけど、俺には分からない。
エカは謎を置いたまま、爆裂魔法使い用の修行空間へ入っていった。
今日の剣術修行は、無機物から神の眷属との対戦に移行した。
普通の剣士と違い、俺の場合は相手の攻撃が一切当たらないので、剣で相手の斬撃を防ぐという事は少ない。
基本は回避してバランスを崩した相手に反撃するという流れなんだけど、様々な場面に対応出来る方がよいとの事で、打ち合いを練習した。
眷属は魔族以上に動きが素早いので、その手が振るう剣の軌道を見切る動体視力も鍛えられる。
剣と剣が打ち合う金属音を聞き分けて、相手の力を上手く受け流せたかを知るという、音感みたいなのも鍛えられた。
「今日はここまで」
「ありがとうございました」
「お前の兄は、相変わらず命を大事にしないな」
「え?」
稽古をつけてくれた眷属に一礼して帰ろうとした時、アチャラ様が呟く。
何の事だろう? と思っていると、アチャラ様は片手の指先で空中に円を描くようにして、丸い鏡のような物を出現させた。
「いくら不死鳥がついているからといって、死に過ぎではないか?」
アチャラ様の言う通り。
向こうの修行空間にいるエカは、全く制限なしに爆裂魔法を撃ちまくり、生命力が尽きて倒れるとフラムに蘇生されている。
変身魔法は心肺停止になると解除されるので、今のエカは俺と同じ6歳児の姿をしていた。
「過去の爆裂魔法の使い手は、自らの生命力の限界を超えてまで力を使う事はしなかったぞ。死ぬのは魔王との決戦用の魔法を使う時だけだ」
生命力は計画的に使いましょう。
鏡に映るエカを見て、俺はそんな事を思っていた。
「イオ、ちょっと懲らしめてやりなさい」
「えっ?」
アチャラ様、なんかどっかで聞いたような台詞を言う。
懲らしめるって、どうやって?
「これを飲ませてやれ」
「あ、それですか」
アチャラ様に渡された物を見て、俺は苦笑する。
小瓶に入っているそれは、蘇生効果を持つ世界樹の花蜜だ。
蘇生薬なら、異空間倉庫に売るほど入ってるけど。
「懲らしめるのだから、快楽は与えるな」
アチャラ様、エカを泣かす気らしい。
ちなみに俺は、エカに完全回復薬を飲ませた時に気付いたけど、そうした行為を全く抵抗なく出来る。
エアに聞いたら、アズも薬を口移しで飲ませる事に全く抵抗が無かったそうなので、完全回避の副効果かもしれない。
そんなわけで、エカが倒れたタイミングで俺は向こう側へ転送された。
「イオ?!」
「フラム、蘇生ちょいと待った」
不死鳥の力を使いかけていたフラムを制して、俺はアチャラ様から渡された小瓶を見せる。
「もしかして、また蘇生薬の実験?」
「いや、これはアチャラ様の指示」
また新薬を試すのかと思ったらしいフラムに、アチャラ様からの指示で来た事を告げる。
心臓が止まって倒れているエカを抱き起こして、世界樹の花蜜を口移しで飲ませてやった。
はい、これで前世分も入れると4回目か。
「……なっ?!」
意識が戻ったエカは、俺に抱かれている事に気付いてギョッとした。
続いて、口の中に残る甘い味に気付いて、何をされたのか把握し、予想通り泣いた。
「フラムが蘇生出来るのに、なんで……?」
「神様が『飲ませてこい』って言うから」
前回エアの試薬を飲ませた時とは違い、ショックを受けているようだ。
俺は近くに転がっていた空っぽの小瓶を拾うと、それをエカに見せて説明した。
「……なんで神様が……?」
「エカが命大事にしないのが悪いんだよ。今度から心臓が止まったら、俺が来て蘇生するからね」
「や、やめろ、俺の唇とフラムの仕事を奪うな」
「神様の指示ならしょうがないね。ボクは昼寝でもしてるよ」
「俺を見捨てるな、フラム」
賢い召喚獣フラムは神様の意図を把握したようだ。
フラムにも味方してもらえないエカは、鼻の穴広げて真顔になる。
動揺した時にするその顔、モチと同じだなぁ。
俺はエカの顔を見つめてそんなことを思っていた。
怨念が物理攻撃してくる世界、ゴーレムもどきが空を飛び、パンチ飛ばしてくるのか。
敵陣に3人で行くのはよろしくないように思うけど、大勢で行ったら犠牲が多くなりそうだな。
俺の前世は、世界各国から集った冒険者たちと共に敵陣へ乗り込んだけど。
禁書で知った情報では、魔王城に突入したのは勇者アズールと隠密2名だけで、他の冒険者たちは屋外で魔族や魔物の相手をしていたらしい。
アズは魔族やゴーレムが行く手を阻もうとする中、正面入口から堂々と城へ突入したそうだ。
それはアズが攻撃もデバフも食らわないからで、完全回避を持たない人にはおすすめしない。
読書タイムが終わり、続く日課の剣術修行。
剣神アチャラ様の修行空間へ行こうと世界樹の森に来たら、エカがいた。
「あれ? エカどうしたの?」
「たまには、俺も修行しようと思って来たんだよ」
と言うエカがここでする修行といえば、爆裂魔法だろう。
最近、魔族が増えてきてるから、鍛え直しに来たのかな?
魔法は使えば使うほど、威力と魔力が上がる。
爆裂魔法の場合は、魔力の代わりに生命力が上がる。
先日、大怪我をしたエカが生存していたのは、生命力が高いからだ。
生命力の低い猫人なら、胸から背中に貫通するような傷と大量出血なんて、すぐ死んじゃうと思う。
「……見るなよ?」
「え? 何を?」
「……いや、なんでもない」
なんかエカが意味深な事を言うけど、俺には分からない。
エカは謎を置いたまま、爆裂魔法使い用の修行空間へ入っていった。
今日の剣術修行は、無機物から神の眷属との対戦に移行した。
普通の剣士と違い、俺の場合は相手の攻撃が一切当たらないので、剣で相手の斬撃を防ぐという事は少ない。
基本は回避してバランスを崩した相手に反撃するという流れなんだけど、様々な場面に対応出来る方がよいとの事で、打ち合いを練習した。
眷属は魔族以上に動きが素早いので、その手が振るう剣の軌道を見切る動体視力も鍛えられる。
剣と剣が打ち合う金属音を聞き分けて、相手の力を上手く受け流せたかを知るという、音感みたいなのも鍛えられた。
「今日はここまで」
「ありがとうございました」
「お前の兄は、相変わらず命を大事にしないな」
「え?」
稽古をつけてくれた眷属に一礼して帰ろうとした時、アチャラ様が呟く。
何の事だろう? と思っていると、アチャラ様は片手の指先で空中に円を描くようにして、丸い鏡のような物を出現させた。
「いくら不死鳥がついているからといって、死に過ぎではないか?」
アチャラ様の言う通り。
向こうの修行空間にいるエカは、全く制限なしに爆裂魔法を撃ちまくり、生命力が尽きて倒れるとフラムに蘇生されている。
変身魔法は心肺停止になると解除されるので、今のエカは俺と同じ6歳児の姿をしていた。
「過去の爆裂魔法の使い手は、自らの生命力の限界を超えてまで力を使う事はしなかったぞ。死ぬのは魔王との決戦用の魔法を使う時だけだ」
生命力は計画的に使いましょう。
鏡に映るエカを見て、俺はそんな事を思っていた。
「イオ、ちょっと懲らしめてやりなさい」
「えっ?」
アチャラ様、なんかどっかで聞いたような台詞を言う。
懲らしめるって、どうやって?
「これを飲ませてやれ」
「あ、それですか」
アチャラ様に渡された物を見て、俺は苦笑する。
小瓶に入っているそれは、蘇生効果を持つ世界樹の花蜜だ。
蘇生薬なら、異空間倉庫に売るほど入ってるけど。
「懲らしめるのだから、快楽は与えるな」
アチャラ様、エカを泣かす気らしい。
ちなみに俺は、エカに完全回復薬を飲ませた時に気付いたけど、そうした行為を全く抵抗なく出来る。
エアに聞いたら、アズも薬を口移しで飲ませる事に全く抵抗が無かったそうなので、完全回避の副効果かもしれない。
そんなわけで、エカが倒れたタイミングで俺は向こう側へ転送された。
「イオ?!」
「フラム、蘇生ちょいと待った」
不死鳥の力を使いかけていたフラムを制して、俺はアチャラ様から渡された小瓶を見せる。
「もしかして、また蘇生薬の実験?」
「いや、これはアチャラ様の指示」
また新薬を試すのかと思ったらしいフラムに、アチャラ様からの指示で来た事を告げる。
心臓が止まって倒れているエカを抱き起こして、世界樹の花蜜を口移しで飲ませてやった。
はい、これで前世分も入れると4回目か。
「……なっ?!」
意識が戻ったエカは、俺に抱かれている事に気付いてギョッとした。
続いて、口の中に残る甘い味に気付いて、何をされたのか把握し、予想通り泣いた。
「フラムが蘇生出来るのに、なんで……?」
「神様が『飲ませてこい』って言うから」
前回エアの試薬を飲ませた時とは違い、ショックを受けているようだ。
俺は近くに転がっていた空っぽの小瓶を拾うと、それをエカに見せて説明した。
「……なんで神様が……?」
「エカが命大事にしないのが悪いんだよ。今度から心臓が止まったら、俺が来て蘇生するからね」
「や、やめろ、俺の唇とフラムの仕事を奪うな」
「神様の指示ならしょうがないね。ボクは昼寝でもしてるよ」
「俺を見捨てるな、フラム」
賢い召喚獣フラムは神様の意図を把握したようだ。
フラムにも味方してもらえないエカは、鼻の穴広げて真顔になる。
動揺した時にするその顔、モチと同じだなぁ。
俺はエカの顔を見つめてそんなことを思っていた。
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