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転移者イオ編
第4話:前世への想いが重い(画像あり)
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俺は薄い本をまた少し読み進めたところで読書タイムを終了した。
薄い本の主人公は容姿への偏見のせいで、かなり厳しい人間関係に置かれている。
日本から異世界へ連れて来た賢者が事前に偏見のことを教えていれば、毛染めしてカラコンつけて黒髪黒目を隠して行けたのにね。
なんで教えてあげなかったんだろう?
隠しててバレた時の方が、もっと扱いが悪くなるからか?
そんなことを思いつつ、今日もタマが淹れてくれた美味しいお茶を飲み干して、俺は図書館の外に出た。
「……ア……じゃなくて、イオ」
廊下に出たら、赤い髪の青年が立っていた。
俺が図書館に通っているのを知って、待っていた様子。
青年は俺と同じで、ナーゴ帰還時に6~7歳児の姿になってしまった人。
今のその姿は、魔法で見た目の年齢を引き上げたものだ。
双子の兄エカは、最愛の妻に合わせるために変身魔法をかけている。
「モ……じゃなかった、エカ、どうしたの?」
向こうが俺を前世の愛称で呼びそうになったように、俺もエカの人格復活前の呼び名を言いそうになる。
エカは前世の人格がメインとなったので、転移間もない頃の呼び名【モチ】を使うのはやめている。
フルネームはモチ・エカルラート・セレスト。
ファーストネーム【モチ】は、神様が付けた名前で、普段の呼び名には使わず、親が付けたエカルラートの名で呼ばれるのが世界樹の民の習わしだ。
一方、この世界での俺のフルネームはイオ・アズール・セレスト。
なので、本来ならアズールの名で呼ばれる。
だけど、俺には前世の記憶が無いし、アサギリ島にアズールの霊がいるので、ファーストネームのイオを名乗っている。
ギルド登録はファミリーネームも使わず、ただの【イオ】で申請しておいた。
現世の名前は忘れたので使えない。
転生者たちが日本人だった頃の名前は、ナーゴ転移時に本人を含めた全ての人々の記憶から消えてしまった。
会社の人事部が保管している俺やモチの社員データは、ナーゴに異世界転移した直後、誰もいじってないのに前世名に書き換えられたそうだ。
戸籍とか住民票とか、どうなったんだろう?
本人が確認しに行けないから、どうなったのか謎のままだ。
元から日本に帰るつもりだった山根さんだけが、日本人としての名前を忘れず、忘れられたりせず、社員データも現世の名前で残っている。
まあそれはおいといて。
エカは俺に何の用だろう?
「母さんが魚の煮つけを作ったから、夕食に誘いに来たよ」
俺が怪訝に思っていたら、エカが口元に笑みを浮かべて言う。
まるで、近所に住んでる身内を夕食に誘うような調子で。
なんでもない日常会話。
魚の煮つけは【エカ】と【アズ】の好物。
俺も大好物なのは、日本にいた頃の記憶を残しているエカは知っている。
でも、行かない。
その誘いに乗るつもりはない。
居心地の悪い家に行きたくない。
俺の前世アズールに対する家族の愛情が、今はとても重苦しい。
俺が夜中に出て行ったきり帰らなくなってから、セレスト家の人々は何か後悔したように、俺を連れ戻そうとするようになった。
その筆頭がエカだ。
アズには戻れないんだから、他人として扱ってもいいのに。
むしろ、いないものとしてくれてもいい。
泣かれるくらいなら、忘れてほしい。
「俺に構わず、エカとソナたちだけで食べに行きなよ」
「そんなこと言うなよ、お前も家族なのに」
俺は感情を出さないように、冷静に答えた。
エカの涙腺が崩壊しかかってるのが感じられる。
俺はエカから目を逸らして、潤んだ赤い目を見ないようにした。
「家族ではないよ。俺は【家族の生まれ変わり】だ。エカやジャスさんやフィラさんが求める【アズール】とは違う」
「それなら俺だって生まれ変わりだ。同じだろう?」
「同じじゃない。エカには前世の記憶があるし、意識は前世のものだから」
「……ごめん……」
エカに謝られるのは何度目だろう?
俺が前世の記憶の話を持ち出すと、エカはいつも謝りながら涙を流す。
彼は本来は滅多に泣かない人らしいけど、俺と話してる時は涙もろい印象だ。
「君は、俺が知っている【モチ】じゃない」
「……っ」
俺の言葉に、エカは何か言おうとしたけど、声の代わりに涙が出た。
廊下に誰もいなくてよかった。
6歳児が20代に見える青年を泣かしてるみたいな構図は、他の生徒に見られたくない。
前世の記憶を取り戻した3人は、俺が知っている人々ではなくなってしまった。
人格でいえば、別人。
日本人だった頃の記憶もあるらしいけど、今の彼らにとってそれは、映画やドラマを見たような感じになっている。
よそよそしくなったりはしなかったけど、一緒にこの世界で生きてゆくと思っていた3人がいなくなったような、独りで取り残されたような感覚だ。
「謝らなくていいよ、エカが悪いわけじゃない」
この言葉も何度言ったか、そろそろ回数を忘れるレベルだ。
「じゃ、夜間訓練に行くから。夕食はやめておくよ」
落ち込んでるエカを置き去りにする事に少々罪悪感はあるけど、俺はブレスレット型の転移魔道具を起動してその場から移動した。
薄い本の主人公は容姿への偏見のせいで、かなり厳しい人間関係に置かれている。
日本から異世界へ連れて来た賢者が事前に偏見のことを教えていれば、毛染めしてカラコンつけて黒髪黒目を隠して行けたのにね。
なんで教えてあげなかったんだろう?
隠しててバレた時の方が、もっと扱いが悪くなるからか?
そんなことを思いつつ、今日もタマが淹れてくれた美味しいお茶を飲み干して、俺は図書館の外に出た。
「……ア……じゃなくて、イオ」
廊下に出たら、赤い髪の青年が立っていた。
俺が図書館に通っているのを知って、待っていた様子。
青年は俺と同じで、ナーゴ帰還時に6~7歳児の姿になってしまった人。
今のその姿は、魔法で見た目の年齢を引き上げたものだ。
双子の兄エカは、最愛の妻に合わせるために変身魔法をかけている。
「モ……じゃなかった、エカ、どうしたの?」
向こうが俺を前世の愛称で呼びそうになったように、俺もエカの人格復活前の呼び名を言いそうになる。
エカは前世の人格がメインとなったので、転移間もない頃の呼び名【モチ】を使うのはやめている。
フルネームはモチ・エカルラート・セレスト。
ファーストネーム【モチ】は、神様が付けた名前で、普段の呼び名には使わず、親が付けたエカルラートの名で呼ばれるのが世界樹の民の習わしだ。
一方、この世界での俺のフルネームはイオ・アズール・セレスト。
なので、本来ならアズールの名で呼ばれる。
だけど、俺には前世の記憶が無いし、アサギリ島にアズールの霊がいるので、ファーストネームのイオを名乗っている。
ギルド登録はファミリーネームも使わず、ただの【イオ】で申請しておいた。
現世の名前は忘れたので使えない。
転生者たちが日本人だった頃の名前は、ナーゴ転移時に本人を含めた全ての人々の記憶から消えてしまった。
会社の人事部が保管している俺やモチの社員データは、ナーゴに異世界転移した直後、誰もいじってないのに前世名に書き換えられたそうだ。
戸籍とか住民票とか、どうなったんだろう?
本人が確認しに行けないから、どうなったのか謎のままだ。
元から日本に帰るつもりだった山根さんだけが、日本人としての名前を忘れず、忘れられたりせず、社員データも現世の名前で残っている。
まあそれはおいといて。
エカは俺に何の用だろう?
「母さんが魚の煮つけを作ったから、夕食に誘いに来たよ」
俺が怪訝に思っていたら、エカが口元に笑みを浮かべて言う。
まるで、近所に住んでる身内を夕食に誘うような調子で。
なんでもない日常会話。
魚の煮つけは【エカ】と【アズ】の好物。
俺も大好物なのは、日本にいた頃の記憶を残しているエカは知っている。
でも、行かない。
その誘いに乗るつもりはない。
居心地の悪い家に行きたくない。
俺の前世アズールに対する家族の愛情が、今はとても重苦しい。
俺が夜中に出て行ったきり帰らなくなってから、セレスト家の人々は何か後悔したように、俺を連れ戻そうとするようになった。
その筆頭がエカだ。
アズには戻れないんだから、他人として扱ってもいいのに。
むしろ、いないものとしてくれてもいい。
泣かれるくらいなら、忘れてほしい。
「俺に構わず、エカとソナたちだけで食べに行きなよ」
「そんなこと言うなよ、お前も家族なのに」
俺は感情を出さないように、冷静に答えた。
エカの涙腺が崩壊しかかってるのが感じられる。
俺はエカから目を逸らして、潤んだ赤い目を見ないようにした。
「家族ではないよ。俺は【家族の生まれ変わり】だ。エカやジャスさんやフィラさんが求める【アズール】とは違う」
「それなら俺だって生まれ変わりだ。同じだろう?」
「同じじゃない。エカには前世の記憶があるし、意識は前世のものだから」
「……ごめん……」
エカに謝られるのは何度目だろう?
俺が前世の記憶の話を持ち出すと、エカはいつも謝りながら涙を流す。
彼は本来は滅多に泣かない人らしいけど、俺と話してる時は涙もろい印象だ。
「君は、俺が知っている【モチ】じゃない」
「……っ」
俺の言葉に、エカは何か言おうとしたけど、声の代わりに涙が出た。
廊下に誰もいなくてよかった。
6歳児が20代に見える青年を泣かしてるみたいな構図は、他の生徒に見られたくない。
前世の記憶を取り戻した3人は、俺が知っている人々ではなくなってしまった。
人格でいえば、別人。
日本人だった頃の記憶もあるらしいけど、今の彼らにとってそれは、映画やドラマを見たような感じになっている。
よそよそしくなったりはしなかったけど、一緒にこの世界で生きてゆくと思っていた3人がいなくなったような、独りで取り残されたような感覚だ。
「謝らなくていいよ、エカが悪いわけじゃない」
この言葉も何度言ったか、そろそろ回数を忘れるレベルだ。
「じゃ、夜間訓練に行くから。夕食はやめておくよ」
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