【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
65 / 428
転移者イオ編

第4話:前世への想いが重い(画像あり)

しおりを挟む
 俺は薄い本をまた少し読み進めたところで読書タイムを終了した。
 薄い本の主人公は容姿への偏見のせいで、かなり厳しい人間関係に置かれている。
 日本から異世界へ連れて来た賢者が事前に偏見のことを教えていれば、毛染めしてカラコンつけて黒髪黒目を隠して行けたのにね。
 なんで教えてあげなかったんだろう?
 隠しててバレた時の方が、もっと扱いが悪くなるからか?

 そんなことを思いつつ、今日もタマが淹れてくれた美味しいお茶を飲み干して、俺は図書館の外に出た。


「……ア……じゃなくて、イオ」

 廊下に出たら、赤い髪の青年が立っていた。
 俺が図書館に通っているのを知って、待っていた様子。
 青年は俺と同じで、ナーゴ帰還時に6~7歳児の姿になってしまった人。
 今のその姿は、魔法で見た目の年齢を引き上げたものだ。
 双子の兄エカは、最愛の妻に合わせるために変身魔法をかけている。

「モ……じゃなかった、エカ、どうしたの?」

 向こうが俺を前世の愛称で呼びそうになったように、俺もエカの人格復活前の呼び名を言いそうになる。
 エカは前世の人格がメインとなったので、転移間もない頃の呼び名【モチ】を使うのはやめている。
 フルネームはモチ・エカルラート・セレスト。
 ファーストネーム【モチ】は、神様が付けた名前で、普段の呼び名には使わず、親が付けたエカルラートの名で呼ばれるのが世界樹の民の習わしだ。

 一方、この世界での俺のフルネームはイオ・アズール・セレスト。
 なので、本来ならアズールの名で呼ばれる。
 だけど、俺には前世の記憶が無いし、アサギリ島にアズールの霊がいるので、ファーストネームのイオを名乗っている。
 ギルド登録はファミリーネームも使わず、ただの【イオ】で申請しておいた。
 現世の名前は忘れたので使えない。

 転生者たちが日本人だった頃の名前は、ナーゴ転移時に本人を含めた全ての人々の記憶から消えてしまった。
 会社の人事部が保管している俺やモチの社員データは、ナーゴに異世界転移した直後、誰もいじってないのに前世名に書き換えられたそうだ。
 戸籍とか住民票とか、どうなったんだろう?
 本人が確認しに行けないから、どうなったのか謎のままだ。
 元から日本に帰るつもりだった山根さんだけが、日本人としての名前を忘れず、忘れられたりせず、社員データも現世の名前で残っている。

 まあそれはおいといて。
 エカは俺に何の用だろう?

「母さんが魚の煮つけを作ったから、夕食に誘いに来たよ」

 俺が怪訝に思っていたら、エカが口元に笑みを浮かべて言う。
 まるで、近所に住んでる身内を夕食に誘うような調子で。

 なんでもない日常会話。
 魚の煮つけは【エカ】と【アズ】の好物。
 俺も大好物なのは、日本にいた頃の記憶を残しているエカは知っている。

 でも、行かない。
 その誘いに乗るつもりはない。
 居心地の悪い家に行きたくない。

 俺の前世アズールに対する家族の愛情が、今はとても重苦しい。
 俺が夜中に出て行ったきり帰らなくなってから、セレスト家の人々は何か後悔したように、俺を連れ戻そうとするようになった。
 その筆頭がエカだ。

 アズには戻れないんだから、他人として扱ってもいいのに。
 むしろ、いないものとしてくれてもいい。
 泣かれるくらいなら、忘れてほしい。

「俺に構わず、エカとソナたちだけで食べに行きなよ」
「そんなこと言うなよ、お前も家族なのに」

 俺は感情を出さないように、冷静に答えた。
 エカの涙腺が崩壊しかかってるのが感じられる。
 俺はエカから目を逸らして、潤んだ赤い目を見ないようにした。

「家族ではないよ。俺は【家族の生まれ変わり】だ。エカやジャスさんやフィラさんが求める【アズール】とは違う」
「それなら俺だって生まれ変わりだ。同じだろう?」
「同じじゃない。エカには前世の記憶があるし、意識は前世のものだから」
「……ごめん……」

 エカに謝られるのは何度目だろう?
 俺が前世の記憶の話を持ち出すと、エカはいつも謝りながら涙を流す。
 彼は本来は滅多に泣かない人らしいけど、俺と話してる時は涙もろい印象だ。

「君は、俺が知っている【モチ】じゃない」
「……っ」

 俺の言葉に、エカは何か言おうとしたけど、声の代わりに涙が出た。
 廊下に誰もいなくてよかった。
 6歳児が20代に見える青年を泣かしてるみたいな構図は、他の生徒に見られたくない。

 前世の記憶を取り戻した3人は、俺が知っている人々ではなくなってしまった。
 人格でいえば、別人。
 日本人だった頃の記憶もあるらしいけど、今の彼らにとってそれは、映画やドラマを見たような感じになっている。
 よそよそしくなったりはしなかったけど、一緒にこの世界で生きてゆくと思っていた3人がいなくなったような、独りで取り残されたような感覚だ。

「謝らなくていいよ、エカが悪いわけじゃない」

 この言葉も何度言ったか、そろそろ回数を忘れるレベルだ。

「じゃ、夜間訓練に行くから。夕食はやめておくよ」

 落ち込んでるエカを置き去りにする事に少々罪悪感はあるけど、俺はブレスレット型の転移魔道具を起動してその場から移動した。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

処理中です...