【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD

文字の大きさ
上 下
64 / 428
転移者イオ編

第3話:前世と現世(画像あり)

しおりを挟む
 放課後の読書タイム、俺は薄い本をまた少し読み進めた。
 薄い本の主人公の前世は、並外れた力を持つ聖者として、人々から慕われていたらしい。
 その転生者が、本の世界では邪悪とされる黒髪黒目だった事で、人々との間に壁が出来てしまったようだ。
 異世界転移ものでたまにある「日本人の容姿が異端視される」という設定だね。
 その設定のルーツはフィンランド辺りにあったという、金髪碧眼の人種の中に突然変異で黒髪黒目が生まれると「妖精の取り替え子」と言われ異端視された事からくるのかな?
 或いは、昔の日本に西洋人が流れ着いた時に、鬼と間違われたという話からだろうか?
 その人種にありえない容姿を持つと、異端視されるのはよくあることだ。
 主人公には前世の心が宿っていて、その人格がたまに出てくる。
 けれど、記憶は今のところほとんど無いらしい。
 今後、主人公の前世の記憶は戻るのだろうか?


「こんなに慕われてたら、記憶がほとんど無い転生者には重いよなぁ」
「イオはアズを慕う人々の気持ちが重いの?」

 読みかけの本をタマに返しながら、俺は呟く。
 本を受け取りながら、タマが問いかけてきた。

「うん。ギルドマスターと、その祖父の圧が重い」
「それは重そうだね」

 答える俺に、タマが苦笑した。
 筋肉多いオッサンと老人は、物理的な意味でも重い気がするよ。
 2人とも茶トラの大柄な猫人で、猫というより二足歩行の虎に見える。
 その2人の要望に応えるため、俺が日課にしているのが剣術修行だ。

 勇者アズールの剣技を、是非復活させてくれと願うギルドマスターの祖父。
 彼は、アサギリ島への魔王討伐隊に加わっていたS級冒険者の1人だった。
 もう90歳を超える高齢になっていて、死ぬ前にアズールの剣技が見たいと言われている。

 俺がギルド登録に行った日に、受付付近に来ていたじいさんは、俺がアズールの転生者だとすぐ気付いた。
 俺の今の姿は、じいさんが記憶している勇者アズールそっくりだからね。
 でも、6歳児の身体で伝説級の剣技って何?

 アズールの霊に聞いたら、その剣技は神が創り出した空間で修行し続けた成果らしい。
 通常空間での年月は半年程度だけど、実際に修行した時間は50~60年近いという。
 修行空間では学んだことは身体に刻まれるけど、細胞の老化などは起きないそうだ。
 もしも肉体年齢が進むとしても、世界樹の民は1000年も生きるそうだから、50年なんて大したことはないかも。
 アズールは5歳までは特に訓練などしておらず、6歳から修行を開始した。
 つまり、今の俺の肉体年齢と同じ歳からだ。
 
 同一の身体能力を持つなら、アズに出来て俺に出来ないなんてことは多分無い。
 今後冒険者として生きていくなら強い方がいい。
 そんなわけで、俺はアズールから修行方法を聞いて、かつての彼のように毎日夜間訓練を続けている。


「そういえば、イオはあまり実家に帰ってないの?」
「うん、アズの記憶が戻らないのに、前世の両親に会いに行く意味は無いと思ってね」

 お茶と菓子をテーブルに置きながら、タマが聞くので俺はそう答える。
 アサギリ島に残るアズールの霊には、現世の記憶と心のまま生きろと言われた。
 つまり俺には前世の記憶や心が宿らないということ。
 それを世界樹の里にいる両親と双子の兄に伝えたら、全員に泣かれてしまった。

「あの人たちにはエカがいれば充分じゃないかな? それ以上を望まれても俺にはどうしようもないし」

 俺は少し溜息混じりに呟く。

 エカは【アズ】の人格が戻らないと聞いたら、俺を抱き締めて謝りながら泣いていた。
 前世の両親ジャスさんとフィラさんの、落胆ぶりは見ていられなかった。
 絶望や哀しみといった感情が見える【前世の家族】たち。
 結局居づらくなった俺は、アサギリ島のアズの住居に引っ越して、現在に至る。
 図書館目当てでアサケ学園には引き続き在学しているけれど、寮ではなく自宅から通う事にした。
 王様が携帯用転移装置をくれたので、通学には困らない。

「もしかして、こっちに残らず日本に帰りたいって思ってる?」
「いや、それはないよ」

 俺の表情が暗くなっていたのか、タマが心配して聞いてくる。
 でも俺は、日本に帰るつもりは無い。
 日本での唯一の家族だった妹は、前世の暮らしを選んだので、俺だけ日本に帰っても独り暮らしになるだけだ。

 同じ独り暮らしなら、断然こっちが良い。
 念願の庭付き戸建て+無人島を手に入れたし。
 俺が日本人だった頃に働いていたSETA社は、異世界に人材を派遣する業者でもあり、この世界にも異世界派遣部を設立した。
 俺はそのナーゴ支部の社員となったので、職にあぶれる心配も無い。
 そんなわけで、日本よりも暮らしやすい異世界ナーゴに住んでいる。
 ナーゴ永住を決めた時は、ジャスさんとフィラさんの家族として暮らす予定だったけど、無人島独り暮らしも悪くない。
 前世の家族が必要としていたのはアズールで、俺ではなかったけど、まあいいや。
 この世界で生きてゆけば、いつか俺を必要としてくれる人に出会えるかもしれない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。 彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。 だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない! 強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します! ※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

処理中です...