そして、彼は壊れた。

スミレ

文字の大きさ
上 下
6 / 12

5

しおりを挟む

ーー彼は、アルバイトを始めた。
別にお金が必要だった訳ではない。
”自分を変えたかったから”なのか、”居場所を求めていたから”なのか、理由は解らない。
ただ、なんとなく、始めたのだ。
この、”なんとなく”は、思考放棄の表れなのか、否、”やりたい事”が見つかったからなのか、その時はまだ解らなかった。

彼は、仕事に打ち込んだ。それこそ、寝る間も惜しんで。
お金に困っているのなら分かるが、何故そこまでするのか。
おそらく、一種の”現実逃避”というやつだろう。
仕事に打ち込んでいる間は、”余計な事を考えずに済む”
労働時間が長ければ長い程、体は疲れるが、心は休まるのだ。
疲労で体を壊す事なんて、ちっとも恐れていなかった。
考えてもいなかった。
それよりも、心が休まる、この”快感”の方が遥かに上回っていたのだから。

そして彼には、別の”快感”もあった。
いやこの場合は、”快楽”というべきか。
ーー”仕事仲間との交流”である。
新鮮だった。そして何よりも、ただ純粋に、楽しかったのだ。
遊びに誘ってもらえる喜び。”自分”がしっかりと、そこにいるという自覚。認識。

ああ、これだったのか。
これが、”なんとなく”の理由だったのか。
この感覚を無意識に求めていたのか。
”自分が必要とされる”、この感覚を。
だからこそ、”なんとなく”、アルバイトを始めようと思ったのか。

彼が、初めて体験、体感する世界。
今まで見た事のない、想像もつかなかった世界。

ーー想像もつかなかった世界。
今はそう思っている。
が、果たして未来はどうなのだろうか。
”想像つかない世界=楽しい世界”とは限らない。
そう、この時はまだ解らなかった。

想像もつかない、”残酷”な世界をーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルファポリスで投稿やってみて、心に移りゆくよしなしことを

未谷呉時
エッセイ・ノンフィクション
日々、書いて投稿してると、いろいろ雑念が浮かんできます……。 心に「移りゆくよしなしこと」が訪れている状態ですね。 それはあの日の兼好法師も、あなたも私も同じこと。 「ここの投稿関連で何かあったら、記事化してみちゃおう。」そういうエッセイです。 初回でも紹介していますが、アルファポリス運営様から 「単発エッセイじゃないのを推奨」 とお言葉いただいたので、実験的に連載スタイルにしてみる、の意味合いが大きいかもです。 (内容) 「1月10日の公式お知らせを受けて」/「章名を直したいとき」/「フリースペースに作品リンクを貼る」/『異世界おじさん』面白すぎ」/「ブラウザ版とアプリ版の違い」など。 (扉絵イラスト:イラストACより(わらじ様))

天空からのメッセージ vol.94 ~魂の旅路~

天空の愛
エッセイ・ノンフィクション
そのために、シナリオを描き そのために、親を選び そのために、命をいただき そのために、助けられて そのために、生かされ そのために、すべてに感謝し そのためを、全うする そのためは、すべて内側にある

異世界に行った話をします。

Hiroko
エッセイ・ノンフィクション
これは小説や作り話ではありません。 面白く聞いてもらおうと思って書いたものでもありません。 私が幼い頃に体験したことを、そのまま書き記しただけのものです。 もし似たような経験のある方がいらっしゃいましたら、聞かせていただけると嬉しいです。 画像はphotoAC 涼風さん「コスモス畑(明石海峡公園)」より加工して使わせていただきました。

カミングアウトすることは勇気がいるが、人間性を見極めるには有効な手段だという話。

星名雪子
エッセイ・ノンフィクション
障害に限らず自分の秘密をカミングアウトするのは勇気がいること。そんなカミングアウトについてのあれこれを詳しく綴りました。 1、カミングアウトをする意味 2、障害者が言われて傷つく言葉 3、障害についての最適なカミングアウトの方法 4、最近よく耳にするアウティングとは? 5、カミングアウトとアウティングにまつわる私の実体験 全部で5話あります。少しでも参考にして頂ければ幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「日常の呟き(雑談)」

黒子猫
エッセイ・ノンフィクション
日常のことを綴ってます✨

6人分の一汁三菜作ってます

山河 枝
エッセイ・ノンフィクション
日常的に、義両親&筆者夫婦&子2人の夕飯(一汁三菜)を用意してます。 以下の条件があります。 ・惣菜はOK。 ・汁物はほぼ必須。 ・でも味噌汁は駄目。 ・二日連続で同じようなおかずを出してはならない。 ・時期によっては、連日、大量に同じ野菜を消費しなくてはならない。 ほぼ自分用献立メモと、あとは家庭内のいざこざや愚痴です。 筆者のしょうもない悩みを鼻で笑っていただければ幸いです。 たまに自作品の進捗状況をさらしてます。 ※子どもが夏休みの時などは、品数を減らしてもOKになりました。 ※途中から諸事情により上記の条件を一部無視しています。 (旧題:「毎日6人分の一汁三菜作ってます」)

処理中です...