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出会いの春(2)
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ゲームに熱中していたスマートフォンから顔をあげて周りを見渡す。タツノブは中央線の車内にいた。次の駅は新宿と表示されている。新宿はタツノブの仕事場だった。通っていた専門学校が新宿だったため、やめたものも含め多くのバイトを経験した。人で溢れるこの街には仕事も多かった。
今では迷宮と名高い新宿の駅構内も慣れっこだ。今日は東口から出て、春の陽気を感じながら大型書店に向かう。待ち合わせ相手は先に着いているようで、「3階にいる」という連絡が入っていた。3階のフロアに着いてうろうろ歩いていると、マサルの姿を発見できた。資格書の棚をじっと眺めているので静かに横に立って声をかけてみる。
「マサルせんせー、おべんきょーですか?」
マサルはびっくりしているようだった。
「おう、きたか。」
「なになに、資格でもとるの?」
「眺めてただけ。就活に有利になるのかなと思って」
「そっか。俺もなんかとってみっかねー、ん、FPってなんだ?ふぃっとぽいんと?ふぁいてぃんぐぽーず?」
「ファイナンシャルプランナー、まあお金の専門家みたいなもんだ」
「かっけえな、それ。俺、お金は好きなんだけどなー。勉強はちょっとなー」
「てか、どうする?移動する?」
「あー、そうだねバイトまでは暇だわ」
「とりあえずどっか入ってお茶するか」
「ふー、モテ男は違うねえ」
とりあえず近くのカフェに入って落ち着く。2人分のコーヒーを注文した。
「先にこれ返す。すげえいいな。iPod入れて毎日聴いてる」
今日の用事はこれだった。タツノブは90年代に流行ったロックバンドのCDをマサルに渡した。
「あ、こういう系統好きなら最近のでおすすめあるんだけど今度持ってこようか?」
マサルはCDケースを手にとりながら質問する。
「マジで!?いやーいつもありがとな」
タツノブとマサルが初めて会ったのはコンサートスタッフのバイトだった。コンサートの終演後、退場の誘導をひと段落させると、タツノブは同じTシャツを着た青年が暇そうに社員の指示を待っているのを見つけた。
「そっちも終わりましたー?」
タツノブは気さくに声をかけた。
「あ、はい。」
少し戸惑っているようだったが、会話を続けようと思った。
「今日のセトリ、熱かったですねー!俺、あんま知らないですけど」
その日コンサートをした男性5人組の話題を出すと、猛烈に食いついてきた。アンコール曲はレアだとかやめたベーシストの方がよかったとか嬉しそうに話してきた。その後、話の流れでCDを貸してくれることになった。そんな出来事が約1年前。それからマサルは自慢の情報とともにCDをたくさん貸してくれた。飽きっぽい性格のタツノブは、語れるものがあることを心底うらやましく思っていた。
「おい、てめえ、タツノブ」
昼下がりのカフェでマサルの低い声が響く。先ほど返したCDケースの中身を見せてきた。そこには長々とタイトルが書かれたアダルトDVDが入っている。
「あれ、気に入らなかった?」
「そういう問題じゃねえだろ」
我ながらナイスなサプライズだと思って仕込んだのに。とびっきりマニアックなやつだ。借りてばかりで世話になるだけは悔しい。たまには自分の好きなものを逆におすすめしたかった。
「俺が日ごろから世話になってる作品だ。特別だからな。」
タツノブはマサルがどう思っているかなど気にせず静かに言い放った。
今では迷宮と名高い新宿の駅構内も慣れっこだ。今日は東口から出て、春の陽気を感じながら大型書店に向かう。待ち合わせ相手は先に着いているようで、「3階にいる」という連絡が入っていた。3階のフロアに着いてうろうろ歩いていると、マサルの姿を発見できた。資格書の棚をじっと眺めているので静かに横に立って声をかけてみる。
「マサルせんせー、おべんきょーですか?」
マサルはびっくりしているようだった。
「おう、きたか。」
「なになに、資格でもとるの?」
「眺めてただけ。就活に有利になるのかなと思って」
「そっか。俺もなんかとってみっかねー、ん、FPってなんだ?ふぃっとぽいんと?ふぁいてぃんぐぽーず?」
「ファイナンシャルプランナー、まあお金の専門家みたいなもんだ」
「かっけえな、それ。俺、お金は好きなんだけどなー。勉強はちょっとなー」
「てか、どうする?移動する?」
「あー、そうだねバイトまでは暇だわ」
「とりあえずどっか入ってお茶するか」
「ふー、モテ男は違うねえ」
とりあえず近くのカフェに入って落ち着く。2人分のコーヒーを注文した。
「先にこれ返す。すげえいいな。iPod入れて毎日聴いてる」
今日の用事はこれだった。タツノブは90年代に流行ったロックバンドのCDをマサルに渡した。
「あ、こういう系統好きなら最近のでおすすめあるんだけど今度持ってこようか?」
マサルはCDケースを手にとりながら質問する。
「マジで!?いやーいつもありがとな」
タツノブとマサルが初めて会ったのはコンサートスタッフのバイトだった。コンサートの終演後、退場の誘導をひと段落させると、タツノブは同じTシャツを着た青年が暇そうに社員の指示を待っているのを見つけた。
「そっちも終わりましたー?」
タツノブは気さくに声をかけた。
「あ、はい。」
少し戸惑っているようだったが、会話を続けようと思った。
「今日のセトリ、熱かったですねー!俺、あんま知らないですけど」
その日コンサートをした男性5人組の話題を出すと、猛烈に食いついてきた。アンコール曲はレアだとかやめたベーシストの方がよかったとか嬉しそうに話してきた。その後、話の流れでCDを貸してくれることになった。そんな出来事が約1年前。それからマサルは自慢の情報とともにCDをたくさん貸してくれた。飽きっぽい性格のタツノブは、語れるものがあることを心底うらやましく思っていた。
「おい、てめえ、タツノブ」
昼下がりのカフェでマサルの低い声が響く。先ほど返したCDケースの中身を見せてきた。そこには長々とタイトルが書かれたアダルトDVDが入っている。
「あれ、気に入らなかった?」
「そういう問題じゃねえだろ」
我ながらナイスなサプライズだと思って仕込んだのに。とびっきりマニアックなやつだ。借りてばかりで世話になるだけは悔しい。たまには自分の好きなものを逆におすすめしたかった。
「俺が日ごろから世話になってる作品だ。特別だからな。」
タツノブはマサルがどう思っているかなど気にせず静かに言い放った。
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