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ユウト

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中華屋の支払いを終え、外に出る。ユウトはラーメン餃子定食ご飯大盛りを頼んだことを後悔した。今日初めての食事だからといって調子に乗った。予想以上にまずかったこともあり、少し残してしまった。まあ安かったし、腹の減りがおさまっただけでもよしとしよう。午後6時からはバイト、それまで2時間程度の時間がある。駅前の古本屋で立ち読みでもしてるか。ユウトはバイトがあることに少し憂鬱になりながらも駅前へと歩いた。3年以上続けている居酒屋バイトはもう慣れたもので、人間関係も良好。しかし大変なことも多く、先週も客同士の喧嘩を止めるのに一苦労した。特に今日は金曜日、忙しくなるだろう。

駅前ビルの2階に上がり、何度も来ているが一度も商品を買ったことのない古本屋に入る。慣れた足取りでマンガコーナーを目指し、少年マンガが多く陳列される本棚の前で立ち止まった。3巻まで読み終えていた野球マンガの4巻を見つけて取り出し、読み始める。この野球マンガは小学生時代に読んでいたもので、人生で最も熱中したマンガ作品だ。先月ぐらいにふと読みたくなってこの古本屋に来るたびに読んでいる。アニメ化もされた人気作品で、当時野球少年だったユウトは日々練習に汗を流す自分と主人公を重ね合わせながら読んでいた。スポ根の王道を行くキャッチーなストーリーと個性溢れるキャラクターたち、野球シーンの細やかな描写など、今なお楽しみながら読める。時を経てから読み返すと客観的に読めて新鮮だと思えるのと同時に、かつてのように入れ込んで読めないのを少し寂しく思う。

ユウトは中学生になると野球を辞めて美術部に入り、マンガを書きはじめた。多くの少年たちが野球選手になりたい、野球をはじめたいと思うマンガ作品を読んで、ユウトはマンガ家になりたい、マンガを書きはじめたいと思った。野球部ではレギュラーになれなかったが、絵の分野では才能があったようで、コンクールで何度も入賞できたし、書いていたマンガもごく少ない友人内ではあるが評判になっていた。地元の高校に入学してからも相変わらずマンガは書き続けた。とはいっても趣味の域は出ておらず、ひたすら妄想を書き綴っていた。気が付けば3年生になっていて、進路選択の時期。マンガ家志望は変わらず、美大なども考えたが、マンガの道を志すきっかけとなった作品の作者が高卒だったこと、ネットにマンガ家に学歴は関係ないと書いてあったことから単身上京してデビューを目指すことにした。生徒のほとんどが大学や専門学校に進む進学校だったため、担任からは反対されたが頑に意志は曲げず、なんとか押し切った。放任主義の両親は何も言わなかった。

そんなこんなで現在、上京4年目。とっくにマンガ家になりたいという気持ちは失せていた。上京1年目には新人賞に応募したり、作品を出版社に持ち込んだりもしたが、何一つとして成果を得られなかった。生活費を稼ぐためにしていた居酒屋バイトのみが残った。現在は、バイトをしながら程々に遊び、それなりに都会暮らしを楽しんでいる。ユウトは読み終えた野球マンガの4巻を棚に戻して古本屋を出る。今日もいつも通りバイトに向かうため、最寄り駅の改札に向かった。
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