30 / 76
動き出した時
新居にて ③ ★
しおりを挟む
まるでそれが合図だったかのように、背中を強く抱いていた手が緩められ、ゆっくりと腰へと降りていく。熱を孕む青の瞳がエリスの視線と交わった。
「エリス……」
どうしたら良いかわからず目を瞑るエリスの額に、瞼に、こめかみに、左耳朶に、左頬に。次々と柔らかな感触が降る。
「可愛い……エリス、大好き」
首筋を熱い吐息に撫でられ、背中に懐かしく甘い痺れが走った。
「っ、ん……」
ノアはエリスを抱き締めたまま、まるで壊れ物を扱うようにゆっくり丁寧にベッドへと誘う。
「ノア……」
「エリス……」
再び目を閉じれば、温かく滑らかな唇がエリスのそれと重なった。軽く啄むように触れて、離れて。次第に口付けは長く執拗になっていく。
「んっ……」
もっと、とばかりにノアの舌がエリスの下唇を舐める。
どちらから決めた訳でもない恋人時代の約束事。不可侵の場所に触れて欲しいと唇を開けば、歓喜の息が上がる音とほぼ同時に熱い舌が差し入れられ、エリスの舌に絡められた。
久しい逢瀬を渇望していたとばかりに執拗に吸われ、触れあいを慈しむように撫でられ、優しくなぶられる。
ちゅぷ、と淫猥な音を立てて徐に離れたかと思えば、角度を変え、引き寄せられるように合わさり。甘く淫らな緩急に全身の肌が粟立った。
「っは、っ……あ……」
お腹の奥の疼きにエリスは自然と太腿を擦り合わせてしまう。当然、腰を抱くノアに隠し通せるはずもなく。結果、エリスの反応にノアは頬を赤らめ濡れた口許を緩ませると、下腹へと手を伸ばした。
「あっ……」
肌触りの良いネグリジェがたくし上げられ、滑らかな指が太ももをなぞる。そのままやわやわと内股を撫でられ、エリスの息は更に上がった。潤うそこには届かず、熱く疼く奥には程遠い。意図してか偶然なのか、柔くもどかしい刺激はひどく焦らされる。
たまらずエリスは甘やかな指を太股で挟むと純白のシャツを掴んだ。
「ノアっ」
「……もっと? 良い?」
強請るなどはしたないとの羞恥心や理性、常識を上回る欲望にエリスはこくこくと肯く。
離れている間もノアを恋しく想う心を抑え、彼の幸せを願ったことは星の数ほどあれど、彼を思い出し火照る体を持て余して眠れなかった事など数えるほどしか無い。
無論、欲望から誰かとまた体を繋げたいなど思ったことなども一切なく、自分にはそのような欲は不必要な存在なのだと信じて疑わなかったのに。
官能はただ眠っていただけなのだと、呼び起こされた事でエリスは気付いてしまった。
またあの頃のように、ノアに触れて欲しくて堪らない。出来ればまた一番奥深くまで入って欲しい。
(私、こんなんじゃ……)
官能と多幸感との狭間に存在する羞恥心にエリスの眦に熱い雫が浮かぶと、ノアの眉が僅かに下がった。
「大丈夫。すごく良い」
「でも……」
多くの矛盾を自覚しつつ、こんな時まで頑固に反論する自分の横暴さに嫌気がさしたが、ノアはエリスの思考順路さえも予測済みだったようだ。
「僕は可愛いと思ってる。それじゃ駄目かな?」
眦から熱い雫が零れ落ちる。涙を押し出したのが羞恥心でもなく、不安や弱音でもない事が堪らなく嬉しかった。
返事の代わりに微笑めば、照れたように瞳を細めノアも同じものを返してくれる。
温かな感情と本能的な熱が混ざる心地好い感覚をノアも感じていると良い。そう願いながら、エリスは精一杯の気持ちを込めてノアの頬に口付けた。
ほんの軽い触れ合いなのに、自分から行ったというだけで頬が熱くなる。
唇を離せば、真っ赤になったノアの顔が映った。
「エリス、……君さ……っ」
ノアの眉間が寄せられ、切羽詰まった声が耳朶を擽る。
幼馴染みだからこそとでも言うべきか。眉間のしわが不機嫌からのものでは無く、寧ろ余りある欲に翻弄されての証だとわかってしまった頃には、首筋に噛み付くように口付けられていた。
「んっ……もう、そんな可愛い事されたら……っん、僕は余裕ないって……」
言葉に倣うようにノアの左手が既に腰まで捲られたネグリジェを潜り、ささやかな膨らみを持ち上げる。未熟な果実を見つけた指先が歓喜したようにそこを撫で、時には強く欲するように押し潰した。
「あっ……っ……ん、」
呼び寄せられた官能にあられもない声がエリスの唇から漏れ、再びお腹の奥が疼く。首筋を這う舌は熱く、思い詰めたような悩ましげな吐息にエリスの息は更に乱れていく。疼く下腹に固いものが触れ、請うように押し上げた。
「我慢っ……出来ない。ごめん、エリス」
「え……っ」
不意に温もりが離れると、ノアは自身のシャツのボタンを外し始めた。その姿にエリスは息を飲む。
以前と変わらぬ細身だがエリスとは全く異なる男性的な体躯に驚いたのでは無い。
エリスが傷付けてしまった左肩以外の、覚えのない無数の傷跡が美しい体についていたからだ。
シャツを脱ぎ、下穿きへと手をかけていたノアは手を止め、気恥しさと気まずさをない混ぜにした表情でエリスを見上げる。薄い唇が嘲笑うかのように歪み、情欲を孕むも寂しげな青の瞳がエリスの胸を締め付けた。
「……びっくりした?」
「うん。でも……」
近付いた温もりが自ら離れぬよう、エリスはぎゅうと抱き締める。白磁機のような滑らかな肌を伝って、速い鼓動が伝わってきた。
「ノアの事知れて良かった……もっと、もっと……今のノアの事も知りたい」
これからも共に居るからこそ、今のノアの良い所も悪い所も沢山知って支えになりたいと思う。
「エリス……ありがとう……」
青の瞳に湖面のような穏やかさを取り戻し、ノアの表情が和らぐ。
やはりこの笑顔がノアには似合うと安堵したのも束の間。再び熱を灯した瞳が近付き、口付けと共に優しくエリスをベッドへと押し倒した。
「嬉しい。僕も知りたい。これからも、ずっと……んっ、エリスの事、……は、全部教えて……夫の僕に」
深く口付けられながら、急くような手にネグリジェを捲られて脱がされ。あっという間にエリスはショーツ一枚にされてしまう。
「ノ、ノアっ……あ、」
「……っ……はぁ……すごく美味しそう……」
ごくりと喉を鳴らすと、ノアはエリスの左胸の先端を口に含んだ。ねっとりとした舌が膨らんだ果実を撫で悪戯に転がしたかと思うと、右側の果実にも再び指の腹が添えられ、間もなくこちらも甘い刺激を与えられてしまう。
「あ、ノアっ……」
緩まぬノアの愛撫にエリスの唇から愉悦が漏れる。更には最後の砦の下着にまで手を差し入れられ、エリスは身を震わせた。
「っ、……可愛い。こっちも……」
とろけるような笑みは昼間の彼の笑みと大きな差などないのだろう。エリスも、サラも、ドニやシンハを始めとした村の皆も。きっとある程度近しい間柄の人ならば知っている。
しかし弧を描く濡れた唇と赤らむ頬はおそらく違う。荒い呼吸も情欲の揺らめく眼差しも。きっとエリスにだけ見せてくれる特別なものなのだと思うと、胸が高鳴りお腹の奥のもどかしさにたまらなくなってしまうのだ。
「あ、あっ……」
淡い茂みを掻き分け、秘められた果実にノアの指が触れる。
瞬間、全身をぞくぞくとした甘い痺れが走り、信じられないような甘ったるい声が漏れた。慌てて敷布を握り必死に耐えるものの、抵抗など大海に浮かぶ笹舟より弱く儚い。
期待に膨らむ花弁を撫でられ、蜜を纏わせた指で存在を確かめさせるように何度も捏ねられれば、抵抗は唇から漏れ出る嬌声にかき消されてしまった。
「あっ、……あ、っやぁっ……」
「良かった。ここもちゃんと濡れてる……」
「っ、ノア、そういう事っ……」
「うん。ごめんね、あんまりエリスが可愛いから」
羞恥心を煽られる言葉に涙目で咎めようとしても、ノアは嬉々として頬を染め笑みを深めるばかり。潤う合わせ目を撫でられ、時折悪戯につぷりと指を入れられる。敏感な花芽を執拗に愛でられる度にあられもない声を漏らし、エリスは背を反らせてしまう。会えなかった日々を埋めるような愛撫は絶え間なく続き、強い快楽は何度も何かを掠めそうになる。
「や、ノアっ……や、ぁ……あっ、あぁっ……」
あまりの慣れない愉悦に、とうとうエリスの眦から涙が溢れた。すぐにノアからうろたえたような気配がし、過ぎる快楽を与え続けていた手が止まる。
「ご、ごめん……エリス、ごめんね……」
弱々しい声と共に優しい感触が瞼に振る。温もりに労るように優しく包まれ、安堵にエリスから力が抜けた。
「本当にごめん、僕は……精一杯努力とか……」
苦しげに眉間に皺を寄せつつも、その眉は下がっている。
未だ荒い呼吸に朱に染まる頬、戸惑うように彷徨う手と下着を押し上げる下腹部。彼の持つ全てのアンバランスさに愛しさがこみ上げる。同時にノアの告げる『可愛い』の意味にエリスは気付いてしまった。
「ノア、大好き」
気付けば彼の腕を引いていた。自分でも驚くほど積極的に、虚を突かれたようなノアを強く抱き締める。
暖かく滑らかな肌が合わさって心地良い。ずっとずっとこうしていたい。すぐ近くに、ノアの隣りに居たい。
「ノア……」
「……エリス」
切羽詰まったように名を呼ばれ、「僕も」と耳元で囁かれた。ノアの柔らかな香りと温もりがエリスを包む。爽やかなベルガモットの残り香と温かく柔らかなノアの香りに扇情的な男性の匂いが僅かに混じる。
遠くでフクロウの声が聞こえる。
幾度も唇が重なり合い、真新しいベッドが激しく軋んだ。
エリスとノアが再会し、互いを慈しみ、深く繋がり愛し合い、再び生涯を誓い合う中。
ローエ邸近くでは数年ぶりに男の断末魔が轟いた。
「エリス……」
どうしたら良いかわからず目を瞑るエリスの額に、瞼に、こめかみに、左耳朶に、左頬に。次々と柔らかな感触が降る。
「可愛い……エリス、大好き」
首筋を熱い吐息に撫でられ、背中に懐かしく甘い痺れが走った。
「っ、ん……」
ノアはエリスを抱き締めたまま、まるで壊れ物を扱うようにゆっくり丁寧にベッドへと誘う。
「ノア……」
「エリス……」
再び目を閉じれば、温かく滑らかな唇がエリスのそれと重なった。軽く啄むように触れて、離れて。次第に口付けは長く執拗になっていく。
「んっ……」
もっと、とばかりにノアの舌がエリスの下唇を舐める。
どちらから決めた訳でもない恋人時代の約束事。不可侵の場所に触れて欲しいと唇を開けば、歓喜の息が上がる音とほぼ同時に熱い舌が差し入れられ、エリスの舌に絡められた。
久しい逢瀬を渇望していたとばかりに執拗に吸われ、触れあいを慈しむように撫でられ、優しくなぶられる。
ちゅぷ、と淫猥な音を立てて徐に離れたかと思えば、角度を変え、引き寄せられるように合わさり。甘く淫らな緩急に全身の肌が粟立った。
「っは、っ……あ……」
お腹の奥の疼きにエリスは自然と太腿を擦り合わせてしまう。当然、腰を抱くノアに隠し通せるはずもなく。結果、エリスの反応にノアは頬を赤らめ濡れた口許を緩ませると、下腹へと手を伸ばした。
「あっ……」
肌触りの良いネグリジェがたくし上げられ、滑らかな指が太ももをなぞる。そのままやわやわと内股を撫でられ、エリスの息は更に上がった。潤うそこには届かず、熱く疼く奥には程遠い。意図してか偶然なのか、柔くもどかしい刺激はひどく焦らされる。
たまらずエリスは甘やかな指を太股で挟むと純白のシャツを掴んだ。
「ノアっ」
「……もっと? 良い?」
強請るなどはしたないとの羞恥心や理性、常識を上回る欲望にエリスはこくこくと肯く。
離れている間もノアを恋しく想う心を抑え、彼の幸せを願ったことは星の数ほどあれど、彼を思い出し火照る体を持て余して眠れなかった事など数えるほどしか無い。
無論、欲望から誰かとまた体を繋げたいなど思ったことなども一切なく、自分にはそのような欲は不必要な存在なのだと信じて疑わなかったのに。
官能はただ眠っていただけなのだと、呼び起こされた事でエリスは気付いてしまった。
またあの頃のように、ノアに触れて欲しくて堪らない。出来ればまた一番奥深くまで入って欲しい。
(私、こんなんじゃ……)
官能と多幸感との狭間に存在する羞恥心にエリスの眦に熱い雫が浮かぶと、ノアの眉が僅かに下がった。
「大丈夫。すごく良い」
「でも……」
多くの矛盾を自覚しつつ、こんな時まで頑固に反論する自分の横暴さに嫌気がさしたが、ノアはエリスの思考順路さえも予測済みだったようだ。
「僕は可愛いと思ってる。それじゃ駄目かな?」
眦から熱い雫が零れ落ちる。涙を押し出したのが羞恥心でもなく、不安や弱音でもない事が堪らなく嬉しかった。
返事の代わりに微笑めば、照れたように瞳を細めノアも同じものを返してくれる。
温かな感情と本能的な熱が混ざる心地好い感覚をノアも感じていると良い。そう願いながら、エリスは精一杯の気持ちを込めてノアの頬に口付けた。
ほんの軽い触れ合いなのに、自分から行ったというだけで頬が熱くなる。
唇を離せば、真っ赤になったノアの顔が映った。
「エリス、……君さ……っ」
ノアの眉間が寄せられ、切羽詰まった声が耳朶を擽る。
幼馴染みだからこそとでも言うべきか。眉間のしわが不機嫌からのものでは無く、寧ろ余りある欲に翻弄されての証だとわかってしまった頃には、首筋に噛み付くように口付けられていた。
「んっ……もう、そんな可愛い事されたら……っん、僕は余裕ないって……」
言葉に倣うようにノアの左手が既に腰まで捲られたネグリジェを潜り、ささやかな膨らみを持ち上げる。未熟な果実を見つけた指先が歓喜したようにそこを撫で、時には強く欲するように押し潰した。
「あっ……っ……ん、」
呼び寄せられた官能にあられもない声がエリスの唇から漏れ、再びお腹の奥が疼く。首筋を這う舌は熱く、思い詰めたような悩ましげな吐息にエリスの息は更に乱れていく。疼く下腹に固いものが触れ、請うように押し上げた。
「我慢っ……出来ない。ごめん、エリス」
「え……っ」
不意に温もりが離れると、ノアは自身のシャツのボタンを外し始めた。その姿にエリスは息を飲む。
以前と変わらぬ細身だがエリスとは全く異なる男性的な体躯に驚いたのでは無い。
エリスが傷付けてしまった左肩以外の、覚えのない無数の傷跡が美しい体についていたからだ。
シャツを脱ぎ、下穿きへと手をかけていたノアは手を止め、気恥しさと気まずさをない混ぜにした表情でエリスを見上げる。薄い唇が嘲笑うかのように歪み、情欲を孕むも寂しげな青の瞳がエリスの胸を締め付けた。
「……びっくりした?」
「うん。でも……」
近付いた温もりが自ら離れぬよう、エリスはぎゅうと抱き締める。白磁機のような滑らかな肌を伝って、速い鼓動が伝わってきた。
「ノアの事知れて良かった……もっと、もっと……今のノアの事も知りたい」
これからも共に居るからこそ、今のノアの良い所も悪い所も沢山知って支えになりたいと思う。
「エリス……ありがとう……」
青の瞳に湖面のような穏やかさを取り戻し、ノアの表情が和らぐ。
やはりこの笑顔がノアには似合うと安堵したのも束の間。再び熱を灯した瞳が近付き、口付けと共に優しくエリスをベッドへと押し倒した。
「嬉しい。僕も知りたい。これからも、ずっと……んっ、エリスの事、……は、全部教えて……夫の僕に」
深く口付けられながら、急くような手にネグリジェを捲られて脱がされ。あっという間にエリスはショーツ一枚にされてしまう。
「ノ、ノアっ……あ、」
「……っ……はぁ……すごく美味しそう……」
ごくりと喉を鳴らすと、ノアはエリスの左胸の先端を口に含んだ。ねっとりとした舌が膨らんだ果実を撫で悪戯に転がしたかと思うと、右側の果実にも再び指の腹が添えられ、間もなくこちらも甘い刺激を与えられてしまう。
「あ、ノアっ……」
緩まぬノアの愛撫にエリスの唇から愉悦が漏れる。更には最後の砦の下着にまで手を差し入れられ、エリスは身を震わせた。
「っ、……可愛い。こっちも……」
とろけるような笑みは昼間の彼の笑みと大きな差などないのだろう。エリスも、サラも、ドニやシンハを始めとした村の皆も。きっとある程度近しい間柄の人ならば知っている。
しかし弧を描く濡れた唇と赤らむ頬はおそらく違う。荒い呼吸も情欲の揺らめく眼差しも。きっとエリスにだけ見せてくれる特別なものなのだと思うと、胸が高鳴りお腹の奥のもどかしさにたまらなくなってしまうのだ。
「あ、あっ……」
淡い茂みを掻き分け、秘められた果実にノアの指が触れる。
瞬間、全身をぞくぞくとした甘い痺れが走り、信じられないような甘ったるい声が漏れた。慌てて敷布を握り必死に耐えるものの、抵抗など大海に浮かぶ笹舟より弱く儚い。
期待に膨らむ花弁を撫でられ、蜜を纏わせた指で存在を確かめさせるように何度も捏ねられれば、抵抗は唇から漏れ出る嬌声にかき消されてしまった。
「あっ、……あ、っやぁっ……」
「良かった。ここもちゃんと濡れてる……」
「っ、ノア、そういう事っ……」
「うん。ごめんね、あんまりエリスが可愛いから」
羞恥心を煽られる言葉に涙目で咎めようとしても、ノアは嬉々として頬を染め笑みを深めるばかり。潤う合わせ目を撫でられ、時折悪戯につぷりと指を入れられる。敏感な花芽を執拗に愛でられる度にあられもない声を漏らし、エリスは背を反らせてしまう。会えなかった日々を埋めるような愛撫は絶え間なく続き、強い快楽は何度も何かを掠めそうになる。
「や、ノアっ……や、ぁ……あっ、あぁっ……」
あまりの慣れない愉悦に、とうとうエリスの眦から涙が溢れた。すぐにノアからうろたえたような気配がし、過ぎる快楽を与え続けていた手が止まる。
「ご、ごめん……エリス、ごめんね……」
弱々しい声と共に優しい感触が瞼に振る。温もりに労るように優しく包まれ、安堵にエリスから力が抜けた。
「本当にごめん、僕は……精一杯努力とか……」
苦しげに眉間に皺を寄せつつも、その眉は下がっている。
未だ荒い呼吸に朱に染まる頬、戸惑うように彷徨う手と下着を押し上げる下腹部。彼の持つ全てのアンバランスさに愛しさがこみ上げる。同時にノアの告げる『可愛い』の意味にエリスは気付いてしまった。
「ノア、大好き」
気付けば彼の腕を引いていた。自分でも驚くほど積極的に、虚を突かれたようなノアを強く抱き締める。
暖かく滑らかな肌が合わさって心地良い。ずっとずっとこうしていたい。すぐ近くに、ノアの隣りに居たい。
「ノア……」
「……エリス」
切羽詰まったように名を呼ばれ、「僕も」と耳元で囁かれた。ノアの柔らかな香りと温もりがエリスを包む。爽やかなベルガモットの残り香と温かく柔らかなノアの香りに扇情的な男性の匂いが僅かに混じる。
遠くでフクロウの声が聞こえる。
幾度も唇が重なり合い、真新しいベッドが激しく軋んだ。
エリスとノアが再会し、互いを慈しみ、深く繋がり愛し合い、再び生涯を誓い合う中。
ローエ邸近くでは数年ぶりに男の断末魔が轟いた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。
※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。
※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。
伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。
すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。
我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。
※R18に※
奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました
灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き?
僕はレイチェルのこと大好きだよ。」
没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。
それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。
けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。
なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。
あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。
奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。
【R-18】やさしい手の記憶
臣桜
恋愛
フース王国の王子フリッツは雨の酷い晩に落馬して怪我をし、そこをアメリアという偽名を名乗る女性に命を救われた。しかしアメリアはフリッツが自分の姿を見る事を許さず、フリッツはアメリアの小屋で過ごす間ずっと目隠しをされていた。
アメリアへの想いを残したまま怪我が治って城へ戻ったフリッツの前に現れたのは、クロエという新しい世話係。隣国ロシェの名を持つクロエの秘密と、謎の女性アメリアとの共通点は――。
※表紙はニジジャーニーで生成しました
※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる