括りはスイーツ男子-猫が繋ぐ縁-

清杉悠樹

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13話

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 二階へと彩華を連れていった浩介は店へと戻ってくると、玄関近くで脱がした彩華の靴を片付けたり、濡れた床をさっと掃除した。
 来店していた客も、雨が弱くなってきたのと、閉店時間が迫って来ていたので巧と菜々以外は帰って行った。
 二人の事は気にせずに閉店の準備を浩介は始めながら、菜々に聞いた。
「店を閉めたら後で彩華さんと一緒にアパートまで行って彼女の荷物を取ってくる予定なんですけど、菜々さんも一緒に車に乗って行きませんか?」
 菜々は、即答した。
「行きますっ、是非、車で送ってください」
(傘を借りて電車で行くより、車でアパートに送ってくれるなんてどっちがいいかなんて決まってるよねー。わーい、お姉ちゃんも一緒なら、景山さんの事を浩介兄さんに色々聞いても大丈夫かなー?)
 などと、思っていたりする菜々だった。
「了解。じゃあ、ちょっと着替えてから車のキーを取ってきますから、もう少し待ってて下さい」
「はーい」
 二階へと戻って行った浩介の背中を見ながら、巧は自分が菜々を送ろうと思っていたのに、先を越されたと残念に思ったが、まあ、そのうちまた機会があるだろうと諦めた。

 次の日の朝。
 昨夜の雨は夜中まで降り続く事はなく、菜々が帰った頃には止み始めていた。けれど、朝から照りつける太陽と、湿度が高い為にいつもより蒸し暑くて外に居ると不快になる。
 菜々がバイトに来るはずの時間より、巧は早めにクレマチスへ来て、クーラーが効いた店の中で毎朝の日課のホットコーヒーを飲みながら新聞に目を通していた。
 掃除を終えた浩介はキッチンで今日のフレンチトーストの下準備をしながら、巧に聞いた。
「この間言っていた菜々さんのアルバイトの事なんだけど、半分は俺の為で、残りの半分は自分の為って言っていただろう?それって、もしかして巧は菜々さんの事が好きだから?」
 浩介からもの凄くストレートな質問がきた。
「良く分かったな」
 新聞を広げたまま視線だけを浩介に移して、少しだけ口角を上げて笑った。
「最初は俺と彩華さんの仲を取り持つ為に、巧が愛想を振りまいてるんだと思ったけど、素で笑って話しているのを何度も見たから、その線は無いなと思って。いつもなら、軽く変装をした上に一切笑顔なんて見せずに、淡々と仕事をこなしていくだろう?それが、自分から積極的に話しかけるし、勉強まで面倒みるし、年齢差も気にしていないみたいだし。そうなのかなって、思って」
 まあ、確かに。いつもの俺なら前髪をさっと下ろして目元が分からないぐらいにさせて、残りの髪を適当にぐしゃっとさせて、背中を丸くさせ猫背を装うとそれだけで冴えない俺が完成する。スイーツ好きな俺が色んなカフェに食べに行く時はそういった変装をしている事は浩介も知っている。
 自分で言うのもなんだが、こんな捻くれた性格をしているのにも関わらず、自分の容姿は女性の目を集めやすいと理解しているからだ。だから自己防衛の為に変装をしているのだ。
 俺は女性もだが、基本的に他人も家族ですら信用はしない。いや、出来なくなったと言うのが正しいか。
「うん、実はそうなんだ。菜々さんに俺が会ったのは、一昨日が初めてじゃないんだ。10日程前かな?一人でカフェに行った時に、その店で菜々さんとお兄さんが居て会ったのが最初なんだ。その時は変装していったから、菜々さんは気が付いていないみたいだけど。その時に、彼女が落し物したんだけど、それを拾って渡した時に少し視えたものが有ってさ。そう、未来では恋人、みたいな。それも有ってね。まあ、高校生だからな、彼女は。だからまずは信用してもらう所から始めようと思って。この力の事も含めてさ」
 他人からは、なかなか理解してもらえないこの力。軽蔑、嫌悪、嫌み、そんな負の感情をぶつけられる事が多いこんな力。俺だって、欲しくて持っているんじゃない。
 浩介と遼一は、この力の事を知られているが、二人は特に気にしていない。これがどれだけ救いになったか。
「そっか、上手くいくといいな」
「お互いにな」
 そう言って笑いあう。
 これこそ、巧がずっと小さな頃から願っていた大切な日常だ。
 その中に、親友という枠以外にも、恋人という新たな枠に『菜々』という大切な人も入れたいと願い始めたのだった。
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