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栞~猫が繋ぐ縁~ 四話
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四話
(ええーっと、これは完全に中崎さんには私が秋庭さんのことを好きだと言うのがバレていると考えた方がよさそうかな・・・)
七海の事をマスターは応援してくれているみたいで、気恥かしいというか、面映ゆいというか・・・。そんな気は無かったのに、マスターが応援してくれるなら、少しだけこの気持ちを育ててみようかなと言う気になってしまうのは何故だろう。
秋庭さんと親友だからかな。それもあるけど、彩華さんの婚約者というのも大きいかもしれない。
今、七海が髪に付けているのは、ついこの間彩華さんに付きっきりで教えてもらいながら作ったシュシュだ。10歳も年下の彼女だけれど、七海はとても仲良くしてもらっている。
シュシュを作り終えてから次回いつ教えてもらう事が出来るのか調べようと、仕事用の手帳を開くと間に挟んでいた栞が落ちてしまい、それを拾ってくれた彩華さんは、手描きのそれを不思議に思ったらしく、色々説明している私の顔が真っ赤にしているのを見て、彩華さんは私が秋庭さんに好意を抱いている事が分かったらしい。
その事を黙っていて欲しくて、彩華さんにお願いすると、まさか私の後ろに本人が居て聞いていたとは思っても居なかったから、あの後は本当に大変だった。
自分の担当している先生のイラストだし、直筆で手描きだし、わざわざ作った貰ったから宝物になったんですなんて、今思い返すと、同じような事を何回も繰り返して秋庭さんに目一杯言い訳をして誤魔化した。
私としては、誤魔化したつもりなんだけど・・・。そうじゃなかったら困ってしまう。だって、自分の好きな気持ちを伝えて、振られてしまったらきっとこれからの景山先生との仕事にも支障が出てしまうから。ううん、絶対そうなる。
だから、好きと言う気持ちが伝わらない様に、必死になって釈明した。
秋庭さんは、たかが栞を大事にしてくれて、こっちこそ有り難うって言ってくれて、必死な私にも特になんとも思わなかったらしく、その後もいつも通りに話しかけてくれたから、多分大丈夫。バレてない。
自分が描いた栞を大事にしてくれてるんだなぁとただそれだけを理解したんだろうと思う。私の事は最初から好みのタイプじゃなかったのだろうし、気にも留めていないんだろう。
だから、これからも今まで通りに仕事上の付き合いだけで、私は満足してるの。そう思っていたのに。
マスターから背中を押されたようで、自分の気持ちが揺れているのが分かった。でも、どうしていいかそんなの直ぐには決められなくて、現実逃避として取りあえず目の前のシフォンケーキを味わう事にした。
ケーキの端の方にフォークを入れると、ふんわりとした弾力があって、一口サイズの大きさを生クリームとともに口に入れると、それは予想していた以上の柔らかさと滑らかさを持っていた。
「・・・美味しい」
ほんのりとかぼちゃの味がする優しい味のシフォンケーキだった。生クリームが甘さ控えめな所がとてもよく合っていた。
美味しくて、食事をしたばかりだと言うのにあっという間に食べてしまった。
七海がケーキの美味しさの余韻に浸って、幸せを感じながらコーヒーを飲んでいると、隣の席に誰か座ろうとしている姿が眼の端に映った。
「こんにちは、桜野さん。今日は仕事休み?」
頭上から声を掛けてきたのは、七海が来て欲しいと願っていた秋庭さん本人だった。
「えっ!?は、はい、休みですっ」
心構えが全く出来て居ない時に急に顔を覗きこむようにして、爽やかに頬笑みながら挨拶されてしまい、動揺して声が裏返ってしまった。
その笑顔、反則ーっっっと心の中で突っ込みを入れながら、表向きは何でもないかのようにこちらも挨拶を返した。
今日の彼のスタイルは、秋らしく全体的に黒っぽい。モード系の七分フェイクシャツに、チェックのパンツ姿だ。好きという気持ちを自覚してからと言うもの、彼がキラキラとして眩しすぎる。
「桜野さんの髪に付いてるそれって、もしかして自分で作った物?」
家を出る前に髪に付けてきたのは、彩華さんに教えてもらって作ったシュシュだ。
「そうです。あんまり上手じゃないですけど」
「そんなことないと思うよ、よく似合ってる。あ、浩介、俺はいつもヤツね」
「了解」
あっという間にオーダーもした秋庭さんは、誰にでも言っているのかもしれないけど、さらっと女性を褒める事が上手い。笑顔付きで言われると、すぐその気になってしまいそう・・・。
「本当にそれ大事に使ってくれてるんだ。嬉しいな」
にこにことしながら見ている視線を辿ると、その先には単行本の間に挟まれている栞の上部が見えている。例え僅かしか見えて居なくても、自分が描いたものだから直ぐに分かったのだろう。
「えっ、ええ、まぁ・・・お気に入りですから・・・」
ごにょごにょと話す私に、秋庭さんは更に嬉しそうに笑う。
「それは絵描き冥利に尽きるね」
ああ、もう、だからその笑顔に私は弱いんですってば!
と、何故か逆切れして言い返したくなるほどに胸をキュンとさせられた凄まじい一瞬だった。
(ええーっと、これは完全に中崎さんには私が秋庭さんのことを好きだと言うのがバレていると考えた方がよさそうかな・・・)
七海の事をマスターは応援してくれているみたいで、気恥かしいというか、面映ゆいというか・・・。そんな気は無かったのに、マスターが応援してくれるなら、少しだけこの気持ちを育ててみようかなと言う気になってしまうのは何故だろう。
秋庭さんと親友だからかな。それもあるけど、彩華さんの婚約者というのも大きいかもしれない。
今、七海が髪に付けているのは、ついこの間彩華さんに付きっきりで教えてもらいながら作ったシュシュだ。10歳も年下の彼女だけれど、七海はとても仲良くしてもらっている。
シュシュを作り終えてから次回いつ教えてもらう事が出来るのか調べようと、仕事用の手帳を開くと間に挟んでいた栞が落ちてしまい、それを拾ってくれた彩華さんは、手描きのそれを不思議に思ったらしく、色々説明している私の顔が真っ赤にしているのを見て、彩華さんは私が秋庭さんに好意を抱いている事が分かったらしい。
その事を黙っていて欲しくて、彩華さんにお願いすると、まさか私の後ろに本人が居て聞いていたとは思っても居なかったから、あの後は本当に大変だった。
自分の担当している先生のイラストだし、直筆で手描きだし、わざわざ作った貰ったから宝物になったんですなんて、今思い返すと、同じような事を何回も繰り返して秋庭さんに目一杯言い訳をして誤魔化した。
私としては、誤魔化したつもりなんだけど・・・。そうじゃなかったら困ってしまう。だって、自分の好きな気持ちを伝えて、振られてしまったらきっとこれからの景山先生との仕事にも支障が出てしまうから。ううん、絶対そうなる。
だから、好きと言う気持ちが伝わらない様に、必死になって釈明した。
秋庭さんは、たかが栞を大事にしてくれて、こっちこそ有り難うって言ってくれて、必死な私にも特になんとも思わなかったらしく、その後もいつも通りに話しかけてくれたから、多分大丈夫。バレてない。
自分が描いた栞を大事にしてくれてるんだなぁとただそれだけを理解したんだろうと思う。私の事は最初から好みのタイプじゃなかったのだろうし、気にも留めていないんだろう。
だから、これからも今まで通りに仕事上の付き合いだけで、私は満足してるの。そう思っていたのに。
マスターから背中を押されたようで、自分の気持ちが揺れているのが分かった。でも、どうしていいかそんなの直ぐには決められなくて、現実逃避として取りあえず目の前のシフォンケーキを味わう事にした。
ケーキの端の方にフォークを入れると、ふんわりとした弾力があって、一口サイズの大きさを生クリームとともに口に入れると、それは予想していた以上の柔らかさと滑らかさを持っていた。
「・・・美味しい」
ほんのりとかぼちゃの味がする優しい味のシフォンケーキだった。生クリームが甘さ控えめな所がとてもよく合っていた。
美味しくて、食事をしたばかりだと言うのにあっという間に食べてしまった。
七海がケーキの美味しさの余韻に浸って、幸せを感じながらコーヒーを飲んでいると、隣の席に誰か座ろうとしている姿が眼の端に映った。
「こんにちは、桜野さん。今日は仕事休み?」
頭上から声を掛けてきたのは、七海が来て欲しいと願っていた秋庭さん本人だった。
「えっ!?は、はい、休みですっ」
心構えが全く出来て居ない時に急に顔を覗きこむようにして、爽やかに頬笑みながら挨拶されてしまい、動揺して声が裏返ってしまった。
その笑顔、反則ーっっっと心の中で突っ込みを入れながら、表向きは何でもないかのようにこちらも挨拶を返した。
今日の彼のスタイルは、秋らしく全体的に黒っぽい。モード系の七分フェイクシャツに、チェックのパンツ姿だ。好きという気持ちを自覚してからと言うもの、彼がキラキラとして眩しすぎる。
「桜野さんの髪に付いてるそれって、もしかして自分で作った物?」
家を出る前に髪に付けてきたのは、彩華さんに教えてもらって作ったシュシュだ。
「そうです。あんまり上手じゃないですけど」
「そんなことないと思うよ、よく似合ってる。あ、浩介、俺はいつもヤツね」
「了解」
あっという間にオーダーもした秋庭さんは、誰にでも言っているのかもしれないけど、さらっと女性を褒める事が上手い。笑顔付きで言われると、すぐその気になってしまいそう・・・。
「本当にそれ大事に使ってくれてるんだ。嬉しいな」
にこにことしながら見ている視線を辿ると、その先には単行本の間に挟まれている栞の上部が見えている。例え僅かしか見えて居なくても、自分が描いたものだから直ぐに分かったのだろう。
「えっ、ええ、まぁ・・・お気に入りですから・・・」
ごにょごにょと話す私に、秋庭さんは更に嬉しそうに笑う。
「それは絵描き冥利に尽きるね」
ああ、もう、だからその笑顔に私は弱いんですってば!
と、何故か逆切れして言い返したくなるほどに胸をキュンとさせられた凄まじい一瞬だった。
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