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栞~猫が繋ぐ縁~ 一話
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栞 ~猫が繋ぐ縁~
一話
「だから、今は仕事が優先だって言ってるでしょ!?―――そう、結婚なんて、まだまだ考えられないから。じゃ」
こちらから言いたい事だけを言って、相手がまだ話しているのをお構いなしで通話を強引に終わらせた。
深い、長いため息を吐く。
折角、久々の休日だと言うのに、朝っぱらから気が滅入る。
七海―――桜野七海は、母親から掛かって来た、最近の話す内容と云えば結婚の催促電話にうんざりした。
20代を過ぎ、31にもなった娘に対して懇々と催促するのは、まぁ分からないでもないが、仕事が楽しくてそれどころではない。
「彼氏も居ないのに、結婚出来るかって言うの」
ならば実家へと帰り、見合いでもどうだと散々言われているが、そんな気にもなれなくて数年実家へと足を運んでいないのが現状だ。
壁にかかった時計で時間を確認すると、いつもはとっくに出勤している時間をとうに過ぎていた。カーテン越しに部屋を明るくしている色合いは、十一月になって秋らしい澄んだいい天気だと知らしめるような明るい色をしている。
まだ手にしていた携帯をヘッドボードへと置くと、身を起してパジャマを脱ぎながら今日の予定を立て始める。
むしゃくしゃしている気分を立て直すために、お気に入りの店へと行く事にする。
素早くラフなジーンズとカットソーにカーディガンを重ね着し着替えてから、昨夜半分程読んだ文庫本と財布や携帯の貴重品をいつものバッグへと入れ、最近面白いと思った小説の数冊を別な小さな紙袋に入れてから、シュシュで髪を1つに纏めてメイクを終えると、1人暮らしをしている部屋を出たのだった。
最寄駅から一度電車を乗り換えて、よく仕事で利用するコーヒーショップへと辿り着いた。ちりんと音を響かせながら、ドアを開ける。
「いらっしゃいませ、―――桜野さん。今日はプライベートですか?」
もう何度来たか分からない程に来ている馴染みの店。
七海が店内へと入るなり話しかけてくれたのは、ここのマスターだ。背は高く、すらりとしていて物静かに話す彼は自分より数才若くて、いわゆるイケメンだ。
(ああ、やっぱり良い目の保養だわ)
今朝母親から掛かってきた電話の所為で、ささくれていた気分が上向きになった現金な七海は、プライベートで来た時にはいつも座っているカウンター席へと腰を下ろした。
「ええ、今日は休みなんです。ですから、朝ごはんも兼ねてゆったりしようかと。良いですか?」
「もちろんです、ごゆっくりしていってください」
マスターから穏やかな笑みと共にメニュー表を貰った。
メニューを見ると、お勧めには新メニューがあったので、それと一緒にブレンドに決めた。
「新メニューのアボカドサラダとクロワッサンのセットとブレンドをお願いします。後、これを彩華さんに渡して置いてもらえますか?」
マスターにメニューを返してから、続けて渡したのは小さな紙袋。中には七海が面白いと思った小説が3冊入っている。
「有り難うございます、アボカドサラダとクロワッサンのセットですね。こっちは小説ですか?後で責任を持って彩華さんに渡しておきます」
マスターは紙袋を手に取ると、奥の事務所へと荷物を置きに行くと直ぐに戻ってきて、オーダーの作業へと入った。
彩華さんと言うのは、マスターの彼女・・・ううん、婚約者の名前だ。
来年二人は結婚を予定していて、今年の夏にマスターが彼女に告白している場面に出くわしたのが最初だ。
それからというもの時々店で彩華さんと会えば話が合い、七海の仕事は小説の編集でかなりの活字中毒であり、彩華さんも本好きがわかってからはお互いお勧めの本の貸し借りをしたり、手芸店で働いている彩華さんには、私が苦手な手芸をこの店で手取り足とり教えてもらっている程の仲になったのだ。
七海は注文を終えると、ここの店の看板猫を探す。
周りを見渡していると、自分の足元から可愛い鳴き声が聞こえたので下を見た。構って?とでも言われているかの様に、首を傾げるのは耳と前足の先が白い小柄な黒猫だ。
椅子から一度降りて七海はその猫を抱き上げた。
「お早う、くろちゃん。今日も可愛いね」
椅子に座りなおし、膝の上に乗せた後、顎の下を優しく撫でた。くろという名前の猫はのどをゴロゴロ言わせて気持ちよさそうにしている。
七海もいつかは動物を飼ってみたいと思っているのだが、今のアパートでは飼育禁止な為、こうしてここへやってくるのは、仕事で利用する為もあるし、コーヒーも自分好みで好きだからというのもあるが、猫に癒しも求めているからだ。
「お待たせしました」
暫く猫と戯れていると、注文したアボカドが使われたサラダと、クロワッサン、コーヒーが届いた。運んでくれたのは、マスターではなく、土曜日限定のアルバイトをしている高校生3年生で名前は菜々さん。実は彩華さんの妹さんだったりする。
「有り難う、菜々さん」
「いーえ、ごゆっくり」
この店は、平日はマスターと最近入ったもう一人の女性店員の二人でコーヒー豆をメインに販売しているが、品数は決して多いとは言えないがランチもしているからお昼時にはサラリーマンやOLも来て、サンドイッチやフレンチトーストと云った軽食をよく食べているのを見かける。
そして土曜日はアルバイトが1人増える。オフィスビルが立ち並ぶこの界隈では土曜日が休みの所も多くて客足は少なくなりそうなものだが、最近土曜日限定で販売されるようになったクッキーは人気が出てきている。
なんでもそのクッキーは恋が叶うアイテムとして女子の間に噂が広まっているらしい。だから、土曜日ともなれば普段は来ない女子高生なんかの姿も良く見かけるようになった。
そのクッキーを作っているのが高校生のアルバイトの菜々さんだ。
元々は何処にでもある普通の丸い形のクッキーだったのを、ここで働き出した時に看板猫のくろをモチーフにして販売したところ人気が出たらしい。
七海も食べた事はある。
最近彩華さんにシュシュの作り方をこの店で教えてもらっている時に食べたのだが、残念ながら七海には恋のアイテムとしては全く効果が無かったが、クッキーは甘みが控えめでサクッとしていてとても美味しかった。
七海の料理が届くと膝に居たくろは他のお客さんの所へと行ってしまったので、しかなく1人で料理を食べ始めた。
美味しくてあっという間に食べてしまい、後はコーヒーだけとなった所で読みかけの文庫を取り出すと、挟んで有った栞を外して続きを読もうとして、ふっと外した栞を見た。
その栞は、数ヶ月前にここで同じ様に本を読んでいて、うっかり栞を落した時にある人が間違って踏んでしまって汚れてしまい、お詫びにと手作りしてくれた世界に1つだけの栞だ。
白い紙に描かれているのは可愛い動物でフェレットがモチーフになっている。
七海が担当の拓海先生(本名は景山巧)の作品のイラストを描いている、了というP・Nで活躍している秋庭遼一さんの直筆だ。
いつもは仕事用の手帳に挟んで使っているが、昨夜そろそろ寝ようと読んでいた新刊の本に有るはずの栞を探せど見つからず、どうやらうっかりと無くしてしまったらしくて、枕元ににたまたま置いていた手帳に挟んでいた栞をここに挟んだのだった。
「そうだった、忘れてた」
その栞は、七海にとって今では大切な宝物となっている。
―――そう、母親には何も言っていないけとれど、七海の心の中にはまだ淡いものだが、秋庭さんが住み着いている。
一話
「だから、今は仕事が優先だって言ってるでしょ!?―――そう、結婚なんて、まだまだ考えられないから。じゃ」
こちらから言いたい事だけを言って、相手がまだ話しているのをお構いなしで通話を強引に終わらせた。
深い、長いため息を吐く。
折角、久々の休日だと言うのに、朝っぱらから気が滅入る。
七海―――桜野七海は、母親から掛かって来た、最近の話す内容と云えば結婚の催促電話にうんざりした。
20代を過ぎ、31にもなった娘に対して懇々と催促するのは、まぁ分からないでもないが、仕事が楽しくてそれどころではない。
「彼氏も居ないのに、結婚出来るかって言うの」
ならば実家へと帰り、見合いでもどうだと散々言われているが、そんな気にもなれなくて数年実家へと足を運んでいないのが現状だ。
壁にかかった時計で時間を確認すると、いつもはとっくに出勤している時間をとうに過ぎていた。カーテン越しに部屋を明るくしている色合いは、十一月になって秋らしい澄んだいい天気だと知らしめるような明るい色をしている。
まだ手にしていた携帯をヘッドボードへと置くと、身を起してパジャマを脱ぎながら今日の予定を立て始める。
むしゃくしゃしている気分を立て直すために、お気に入りの店へと行く事にする。
素早くラフなジーンズとカットソーにカーディガンを重ね着し着替えてから、昨夜半分程読んだ文庫本と財布や携帯の貴重品をいつものバッグへと入れ、最近面白いと思った小説の数冊を別な小さな紙袋に入れてから、シュシュで髪を1つに纏めてメイクを終えると、1人暮らしをしている部屋を出たのだった。
最寄駅から一度電車を乗り換えて、よく仕事で利用するコーヒーショップへと辿り着いた。ちりんと音を響かせながら、ドアを開ける。
「いらっしゃいませ、―――桜野さん。今日はプライベートですか?」
もう何度来たか分からない程に来ている馴染みの店。
七海が店内へと入るなり話しかけてくれたのは、ここのマスターだ。背は高く、すらりとしていて物静かに話す彼は自分より数才若くて、いわゆるイケメンだ。
(ああ、やっぱり良い目の保養だわ)
今朝母親から掛かってきた電話の所為で、ささくれていた気分が上向きになった現金な七海は、プライベートで来た時にはいつも座っているカウンター席へと腰を下ろした。
「ええ、今日は休みなんです。ですから、朝ごはんも兼ねてゆったりしようかと。良いですか?」
「もちろんです、ごゆっくりしていってください」
マスターから穏やかな笑みと共にメニュー表を貰った。
メニューを見ると、お勧めには新メニューがあったので、それと一緒にブレンドに決めた。
「新メニューのアボカドサラダとクロワッサンのセットとブレンドをお願いします。後、これを彩華さんに渡して置いてもらえますか?」
マスターにメニューを返してから、続けて渡したのは小さな紙袋。中には七海が面白いと思った小説が3冊入っている。
「有り難うございます、アボカドサラダとクロワッサンのセットですね。こっちは小説ですか?後で責任を持って彩華さんに渡しておきます」
マスターは紙袋を手に取ると、奥の事務所へと荷物を置きに行くと直ぐに戻ってきて、オーダーの作業へと入った。
彩華さんと言うのは、マスターの彼女・・・ううん、婚約者の名前だ。
来年二人は結婚を予定していて、今年の夏にマスターが彼女に告白している場面に出くわしたのが最初だ。
それからというもの時々店で彩華さんと会えば話が合い、七海の仕事は小説の編集でかなりの活字中毒であり、彩華さんも本好きがわかってからはお互いお勧めの本の貸し借りをしたり、手芸店で働いている彩華さんには、私が苦手な手芸をこの店で手取り足とり教えてもらっている程の仲になったのだ。
七海は注文を終えると、ここの店の看板猫を探す。
周りを見渡していると、自分の足元から可愛い鳴き声が聞こえたので下を見た。構って?とでも言われているかの様に、首を傾げるのは耳と前足の先が白い小柄な黒猫だ。
椅子から一度降りて七海はその猫を抱き上げた。
「お早う、くろちゃん。今日も可愛いね」
椅子に座りなおし、膝の上に乗せた後、顎の下を優しく撫でた。くろという名前の猫はのどをゴロゴロ言わせて気持ちよさそうにしている。
七海もいつかは動物を飼ってみたいと思っているのだが、今のアパートでは飼育禁止な為、こうしてここへやってくるのは、仕事で利用する為もあるし、コーヒーも自分好みで好きだからというのもあるが、猫に癒しも求めているからだ。
「お待たせしました」
暫く猫と戯れていると、注文したアボカドが使われたサラダと、クロワッサン、コーヒーが届いた。運んでくれたのは、マスターではなく、土曜日限定のアルバイトをしている高校生3年生で名前は菜々さん。実は彩華さんの妹さんだったりする。
「有り難う、菜々さん」
「いーえ、ごゆっくり」
この店は、平日はマスターと最近入ったもう一人の女性店員の二人でコーヒー豆をメインに販売しているが、品数は決して多いとは言えないがランチもしているからお昼時にはサラリーマンやOLも来て、サンドイッチやフレンチトーストと云った軽食をよく食べているのを見かける。
そして土曜日はアルバイトが1人増える。オフィスビルが立ち並ぶこの界隈では土曜日が休みの所も多くて客足は少なくなりそうなものだが、最近土曜日限定で販売されるようになったクッキーは人気が出てきている。
なんでもそのクッキーは恋が叶うアイテムとして女子の間に噂が広まっているらしい。だから、土曜日ともなれば普段は来ない女子高生なんかの姿も良く見かけるようになった。
そのクッキーを作っているのが高校生のアルバイトの菜々さんだ。
元々は何処にでもある普通の丸い形のクッキーだったのを、ここで働き出した時に看板猫のくろをモチーフにして販売したところ人気が出たらしい。
七海も食べた事はある。
最近彩華さんにシュシュの作り方をこの店で教えてもらっている時に食べたのだが、残念ながら七海には恋のアイテムとしては全く効果が無かったが、クッキーは甘みが控えめでサクッとしていてとても美味しかった。
七海の料理が届くと膝に居たくろは他のお客さんの所へと行ってしまったので、しかなく1人で料理を食べ始めた。
美味しくてあっという間に食べてしまい、後はコーヒーだけとなった所で読みかけの文庫を取り出すと、挟んで有った栞を外して続きを読もうとして、ふっと外した栞を見た。
その栞は、数ヶ月前にここで同じ様に本を読んでいて、うっかり栞を落した時にある人が間違って踏んでしまって汚れてしまい、お詫びにと手作りしてくれた世界に1つだけの栞だ。
白い紙に描かれているのは可愛い動物でフェレットがモチーフになっている。
七海が担当の拓海先生(本名は景山巧)の作品のイラストを描いている、了というP・Nで活躍している秋庭遼一さんの直筆だ。
いつもは仕事用の手帳に挟んで使っているが、昨夜そろそろ寝ようと読んでいた新刊の本に有るはずの栞を探せど見つからず、どうやらうっかりと無くしてしまったらしくて、枕元ににたまたま置いていた手帳に挟んでいた栞をここに挟んだのだった。
「そうだった、忘れてた」
その栞は、七海にとって今では大切な宝物となっている。
―――そう、母親には何も言っていないけとれど、七海の心の中にはまだ淡いものだが、秋庭さんが住み着いている。
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