CLOVER-Genuine

清杉悠樹

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番外編

家電

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◆自室でごろごろがしたいのーっ、のお話。

***

「今日からこの部屋を自由に使ってくれ。自分の好みもあるだろうからと家具類は余り用意していないらしい。後で欲しいものを言ってくれればこちらで用意すると母が言っていた」
 レナートさんに私とセオドールは二階の部屋へと案内された。
 シシリアームで使っていた部屋と遜色ない大きな部屋で、今日から新たな生活を始める場所。

 室内は穂叶の好みを重視されたらしい女性が好みそうな内装になっていた。
 まず最初に入ったのはリビング。白が基調の壁紙にはごく薄い小花が控えめに描かれており、カーテンは白と若葉色が使われている落ち着いた植物柄。家具はまだ少なく、ナチュラルブラウン色で統一されている。花も所々に飾られていて全体的に明るい部屋となっている。
「すごーい、素敵」
 私は一目で気に入った。セオドールも頷いている。

「穂叶、他の部屋も見てみますか?」
「うん、見る見るっ」
 セオドールと仲良く手を繋いで、隣の部屋のドアを開けた。隣は寝室(衣装部屋つき)だった。こちらは薄萌葱色の壁紙に白の植物が描かれていた。他にはお風呂とトイレ、ベランダもあった。
 一回りして元の部屋へと戻ってきた。
 部屋数は多くない。二つしかないのだから。が、一つ一つが広かった。寝室は多分15畳近くはあるみたいだし、リビングに至っては20畳以上に見えた。2人で使うには余裕の広さだけれど、リビングには応接セットと、暖炉がある他はなにも無くがらんとした印象を受ける。
 外に面した大きな窓からは、そろそろ冬が近いと思わせる葉が残り少なくなった木々が見えている。そのせいか、広いとさらに寂しく感じるのかもしれない。

「穂叶、必要なものはありそうか?遠慮せずに言ってくれ」
 レナートさんの問いにちょっと考えた。
「うーん。そうだねぇ。家具で欲しいもの。冬の家具と言えばやっぱり『こたつ』が欲しいかも」
 冬の風物詩と言えば、こたつ、だよねー。でも、ここは日本じゃない。西洋文化を思わせる文化圏だから、部屋の中でも靴を履いたままだし。畳も無い。
 でも遠慮せずにと言われたら、こたつが欲しいなと思った。
「こたつ?」
 初めて聞いた言葉にセオドールとレナートさんは不思議そうな顔をした。

「私のいた世界で冬になると使っていた暖房の一種でね、畳の上に敷物があって、あ、畳って言うのは、床材の種類の事なんだけど、その畳の上にマットみたいなものを引いて、低めのテーブルを置いてその上に布団が掛けてあるの。上にはテーブルを置いてあって、中はすごく温かいの。そこに足を入れて暖をとるみたいな感じ。こたつに入ってみかんを食べるのが定番で、そのままごろんって横になるのが、また至福なの」
 何故みかんなのか。旬だからなのか、食べやすいからなのか。どちらにせよ目の前にあるとついつい食べちゃうんだよね、みかんって。で、お腹がいっぱいになって、体もぽかぽかとして、ついうとうとと夢の中ということも少なくない。
 あのごろんと横に慣れるのが、堪らない。癖になる。冬太りの原因だと分かっていても止められない。

「至福ですか。それは一度試してみたいですね。きっと不思議な暖房なのでしょうね。こちらで暖房と言えば暖炉だけですから」
 セオドールも、こたつに興味を持ってくれたみたいだ。
「そっか。こっちではやっぱり暖炉だけかー。向こうには他にも幾つかあるんだけど、こたつ同様に電気が主だからねー」
 電気がないこの世界では例えあったとしても役立たず。家の中では暖炉しか見かけないからそうだろうとは思っていた。こたつだってそうだけど、エアコンや、ヒーターも電気が無いと動かない。
「残念。ソファで我慢だね」
 最初から横になるというのが前提なのかという突っ込みは入れないで。
 無いものはしょうがない。暖炉があるから部屋は暖かいのだし、応接セットのソファは随分大きいから、私が横になっても大丈夫そうだし。多少行儀が悪いだろうが、自室で2人きりなら多めに見て貰えそう?かも。
 
「ベッドで横になるという選択肢は無いんですか?」
 セオドールからの指摘が入った。
「それはまた別物というか」
 ベッドでは完全に寝る前提。ちょっとだけリラックスがしたい時には、やはりこたつが一番。冬限定だけど。こっちの世界じゃ、床は靴を履いていて当たり前。畳なんてないから、床にごろりと横になることも無い。

「別に全く同じものでなくてもいいのなら、作ってしまえばいいだろう?」
「こたつをつくるの!?」
 まさかの自作!をレナートさんに勧められた。
「そんな難しい作りではなさそうだし。要は足を温めるというものがあればいいのなら作れると思うぞ」
「欲しいです!」
 即答した私だった。

 レナートさんが職人に頼んで作ってくれると言ってくれたので、大体の大きさを紙に書いてお願いをした。
 楽しみだー。

 次の後には畳の代わりに3cm程一段高くした床を作って貰った。早いな。
 更に次の日、見た目は完全洋風なこたつが出来上がった。早すぎる。流石シルヴィオ家。
 座布団も用意してくれた。(和柄のカバーも只今制作中。刺繍が間に合わなかったから)
 中の暖房はどうしたかというと、湯たんぽを入れただけ。大き目の湯たんぽにカバーを付けて中に入れるだけというシンプルさ。お風呂の残り湯も活用出来るという節約も提案してみた。

「有難う、レナートさん」
「どういたしまして。じゃあ、何か不都合があったら言ってくれ」
 こたつの設置をしてくれると、レナートさんは部屋を出ていき、セオドールと2人きりなった。

 私は早速靴を脱いでこたつに入った。
「温かいー。嬉しいー」
 じんわりと暖めてくれるこの癒し。テーブルに顔を乗せほのぼの。序にテーブルの上を手で撫でてみる。湯たんぽでも暖かさの効果は十分。
 目の前にはみかんは無いけど、柑橘系の果物が置かれている。本物のこたつに大満足。
「靴を脱いで使用するのですか」
 向かい合わせでセオドールもこたつに入ってきた。
「確かに暖かいです。でも、向かい合わせでは不満です」
 というと、私の後ろからこたつへと入ってきた。
「ちょっ、ちょっとセオドール!?」
 なんでわざわざ後ろに来るの?狭いのに。
「この方が暖かい」
「もうっ」
 どうも囲い込まれるようにするのが好きみたい。恥ずかしいけど、嬉しくもある。私はそのまま身を預けた。
 暫くするとセオドールは果物の皮をむいて、私の口にひと房入れて食べさせてくれた。
「穂叶、口開けて。美味しいですか?」
「・・・美味しいです」
 果物の甘酸っぱさよりも、セオドールのくれる甘さが勝った瞬間だった。
 勿論この後は、もっと甘い時間へと突入した。

***

 この部屋に出入りするレナートさん、アンナさん、バディアにもこたつに入って貰い、試してもらった。靴を脱ぐという事にしり込みしていたが最初だけ。あっという間にリラックス。
 アンナさんの希望でシルヴィオ家でもう一つ追加して同じものを作ったらしい。寝室に置いたらしいがボードワンさんまで気に入ったとのこと。
 ボードワンさんがぬくぬくしている所を想像すると、ちょっと微笑ましくなった。

 シルヴィオ家発の新しい暖房器具として、こたつが発売された。靴を脱いで使用するという斬新な使い方に戸惑う人も多かったようだが、そこそこ売れたらしい。
 お陰で、こたつから一歩も動かない人が増え、ダメ人間が増えたとか。

 同様に保温機能を持たせた小豆を使ったカイロも同時に発売。
 セオドールの騎士としての外の仕事が大変そうだった事から、思いついたのだ。
 火で初歩とされる加熱の魔法を使えば繰り返し使用できる優れものとあって、冷え対策として女性にも受け入れられ、寒い冬でも外で仕事をすることもある騎士さんや、農家の方々に爆発的に売れたとか。

 こうして穂叶のちょっとした思い付きや願い事は、人気商品として発売されていくことが続き、パリス州を賑わせ、シルヴィオ家は益々栄えた。
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