CLOVER-Genuine

清杉悠樹

文字の大きさ
上 下
7 / 68

7 告白

しおりを挟む
 夕食の煮込みを終えるとセオドールは切り分けたパンをバスケットに入れた。次に2人分の皿にスープを入れていると、隣の部屋いた筈の白い犬―――マートルは飼い主の足にすり寄って来てご飯をせがんだ。
「クゥーン」
「ああ、マートル。お前のご飯を忘れてた。・・・ほら、これを食べたらホノカさんの所へ行って傍にいてあげてくれないか?」
 食器棚の横に獲り貯めてあったマレサの実を床の上のマートル専用の器に入れた。
 マートルは十粒程の実をあっという間に全部食べ終えると、言われた通りに隣の部屋へと歩いていった。

 セオドールは2人分の食事をトレーに乗せてテーブルに持って行くと、彼女はさっき見たときと変わらずテーブルに突っ伏したままだった。
「ホノカさん、食事出来ましたよ?起きて一緒に食べませんか?」
 食事を取って少しは元気を出してもらいたい。
 セオドールはテーブルの空いている所へ一旦トレーを置くと、段ボールとトートバッグを部屋の隅にある棚の上へと異動させた。
 次にスープ皿を配ろうとしたが、声を掛けたのにまだ動かないままにいるのを不審に思って顔が見える位置に行き横から覗きこんだ。
 すると、落ち込んで塞いでいると思っていたがどうも寝ているようだった。
 起こそうかとも思ったが、予想外の事が立て続けに起きて疲れているはずだと考えたセオドールはそのまま寝かせることにした。
 しかし、こんな所に一晩中寝かせておくわけにもいかない。風邪を引かせてしまう。
 重ね着していた上着を一枚脱ぐと穂叶の背中にそっと掛けた。次に二階へと行き普段使っていない客室へと向かった。
 部屋の明かりを付け、洗濯してあったシーツを掛けた。ベッドの用意を一通り終えると一階から起こさない様に穂叶を抱きあげ二階へと連れてきた。
 ベッドに寝かせる為に横抱きにされても起きない穂叶に安心したが、腕にいる彼女の少しだけ開いた艶やかな唇から目が離せなくなった。
 手に感じる温かい体温と、自分とは違うその体の柔らかさ。
 黒い髪からは花のような香りが漂ってきて、思わずセオドールの喉がこくりと音を立てた。
 折しも目の前にはベッドがあり、レナートが言った先程の台詞が頭をよぎった。
『運命の相手なんだから頑張って早く男になれよ?色男』
 邪な考えに取りつかれぬ様にふるりと頭を振ると、ベッドに穂叶の体を静かに横たえると、見たこともない形をした靴を脱がして床へと置いた。
 部屋に一緒に来ているマートルを小さな声で呼んだ。
「ホノカさんが目を覚ますまで、お前もここに居てくれないか?それとホノカさんは俺の大事な人なんだ。吠えたり、威嚇したりするなよ」
 マートルは了解したらしく、ベッドに眠る穂叶の直ぐ傍の床に丸くなった。
「頼むな」
 そう言って、マートルの頭を撫でた。
 起こさないよう静かに肩まで布団を掛け、まだ眠っているのを確認すると、明りを消してドアから出る前に小さな声で呟いた。
「お休みなさい、ホノカさん。良い夢を」

***

 最近ずっと切なくなる同じ夢ばかり見ていたのに、今日は久しぶりに夢を見ることも無くぐっすりと眠ることが出来た穂叶は、気持ち良く朝を迎えた。
 ゆっくり上半身を起き上がらせ背伸びを思いっきりした。
「んーっっっ、なんか凄いすっきり。ぐっすり眠れたーっ。最近ずっと睡眠不足続いてたからなぁ」
 続いてふわぁと、欠伸も一つ。
 そこで、はたと気付く。
「ここは何処?」
 自分のマンションでは無い、見たことも無い部屋に戸惑った。
 八畳ほどの大きさの木材をふんだんに使ったシンプルな部屋。ベッド以外にはサイドボードが有るのみだ。
 カーテン越しに洩れる明かりはまだ薄く、朝が早い事を指示している。
 床を見ると自分が履いていたスニーカーがきちんと添えて置かれていて、その横には白い大型犬が尻尾をぱたりぱたりと揺らしている。
 その犬に見覚えが有った。それで、ようやく昨日の事を思い出した。
「セオドールさんの家?誰の部屋だろう。もの凄い殺風景な部屋だけど」
 自分で歩いてベッドに入った記憶がない。ということは、セオドールさんが連れて来てくれたのかな?
 思わず自分の体を確かめると、着ている服は昨日のままで、ほっとした。
 その間、横にはお座り状態で犬がずっと座っている。
「もしかして、君はずっと一晩中私と一緒に居てくれたのかな?有り難う。あれ?君の眼の色って紫色なんだねー。綺麗な色ー」
 ベッドの縁に座ってふふっと笑った。一晩中一緒にいてくれたお礼に頭を撫で撫ですると、犬は嬉しいらしく尻尾を振る動きが早まった。
 私はこの紫色をどこかで見たと思った。
 何処で見たんだっけ?あぁ、レナートさんが連れていた鳥と一緒だ。
 そう思いながら靴を履き、犬と一緒に部屋を出た。

 部屋の近くにあった階段を下りて一階へ行くと、部屋の明かりが廊下に洩れて見えたので覗いてみた。そこは昨日穂叶が最初に入った部屋のリビングだった。
 ドアを開けて部屋の中へ入って行くと、隣の部屋からは料理をしている音と共にいい匂いが漂ってきた。
「お早うございます、ホノカさん。良く眠れました?」
 料理をしていたセオドールはドアの開く音に気付き手を止め後ろを振り返った。予想した通り隣の部屋に穂叶の姿が見えたので、リビングへと移動した。
「お早うございます、良く眠れました。あの、昨夜は寝てしまって済みませんでした。しかも、運んでもらったん・・・ですよね?」
 記憶が無いので疑問形だ。
「ええ、客室が空いていたので、そこに。夕べ食べなかったからお腹空いてるでしょう?直ぐに用意しますから、座って待ってて下さい」
「有り難うございます」
 決して軽くは無い平均身長の自分の体重は重かったと思うのでけれど、自分から重かったでしょう?なんて、そんなの怖くて聞けない・・・。こういうことは聞かずにそっとしておくに限る。
 でも、再び料理に戻っていったセオドールさんの後姿を見れば体格も良く背も高くて、細身の割に鍛えられているみたいだ。腕まくりした腕は男の人らしい筋肉がしっかりと付いているのが見て取れた。
(だから、多分私の体重でも大丈夫。うん、そう言う事にしておこう)

 セオドールさんに座って待っててと言われたけど、本当は手伝った方がいいのかも知れないと思いつつも言われた通りに大人しく昨日と同じ場所へと座った。
「昨日作った物を温め直しただけですけど。どうぞ食べて下さい」
 そう言ってセオドールさんは、本当に直ぐに温かな野菜が沢山入ったスープと、パンと飲み物を用意してくれた。
「有り難うございます。頂きます」
 お腹が空いていたので遠慮せずに添えられていた木で作られたスプーンでスープを一口食べた。
 見た目はポトフそっくりで、味も優しい味付けで穂叶好みの味付けだった。
「美味しい」
 温かい食事にほっこりと自然と笑みが浮かんで、もう一度スープをすくって食べ始めた。
 その優しい笑みを見たセオドールは、はっとしたような表情を見せた後、私まで嬉しくなるような優しい笑顔を浮かべていた。
「それは良かった―――ホノカさん、そのまま食事したままでいいですから、聞いててもらえますか?」
「はい、何でしょう?」
 昨夜は何も食べずに寝てしまったらお腹が空いていたけど、話を聞くのに1人食事をするのはマナーが悪いだろうと思い一旦手を止めた。
「昨日初めてお会いして、何を言うんだと思うかも知れません。空からホノカさんが落ちて来て、初めて見たその黒い瞳に恋に落ちました。今すぐ返事が欲しいとかそういうんじゃないんです。俺は貴方の事が好きです。それだけ知っていて下さい」
 気になる人からの突然の告白にただ、ただ驚いて言葉が出なかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...