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45 燻煙
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「ふわぁ」
目が覚めて、起き上がり伸びをすればまだ部屋の中はまだ暗かった。
何時寝たのか覚えてないけれど、随分寝たらしく起きたばかりだと言うのにかなり頭がすっきりとしている。起き上がるのに躊躇なく体が動き、もたもたすることが無かった。
秋も深まりつつあるから、空気はひんやりとしている。カーテン越しの窓を見れば微かに明るさを感じれるから薄明と言われる時刻なのだろう。
つまりとても早起きをしてしまったということ。早起きは三文の得というけれど、ちょっと早すぎた気がした。
もう一度眠ろうかと思ったが、妙にすっきりとした気分だったので無理そうかなと考えたところで、すぐ脇に誰かの動きを感じたと思ったと同時に腰を引かれ、引いた本人の体に向かって私は倒れ込んでしまった。
「きゃっ」
「目覚めが早いですね、穂叶。まあ、夕べは俺も一緒に、随分早くに寝てしまったから目が覚めたんですけどね」
とっさに腕で自分の体重は支えようとしたけれど、全然間に合わなかった。けれど私の重みを受けても辛そうな顔一つせずに反対に嬉しそうだ。下から見上げるような格好でセオドールは私を見てくすりと笑った。
「もっ、もう、危ないよ。いきなり引っ張るなんて」
はうっ、寝起きにキラキラと見える笑顔は眩しすぎ。胸がきゅんとしたけれど、口から出たのはときめきの言葉でなく注意する文句だった。
端整で爽やかなセオドールとの至近距離に、ドキドキして顔を真っ赤にしているから、私がどう思ったのかなんてきっと相手にはバレているだろうけど。
数日前からこうして部屋で一緒に眠るようになって、布団が暖かいのは有難くて心地いいのだけれど、1つの布団に一緒に眠るという行為にはまだ慣れない。っていうか気恥ずかしい。
だからと言って、今度から別々に眠るのは、もう無理だと思う程にとても好きになってしまっているのが困りどころ。
この近すぎる体勢にどうしていいのか分からずにいる私の背中に、セオドールの腕が回されたかと思うとぎゅっと抱き寄せられた。重なり合った体は互いの心臓の音が伝わっているはずだ。速さの違う鼓動が二つある。
「済みません。それより穂叶の体の調子はどうですか?あれだけ昨日は高度な魔法を沢山使ったんですから、まだ疲れが取れてないんじゃないですか?」
昨日?
ああ、そうか。私夕べはセオドールに抱っこされたままここに連れて来てもらったんだった。だから自分で寝た記憶がないんだ。
ゆっくりと思い出せば、昨日はレナートさんに見せて貰った記録を撮る魔法を手始めに、マレサの木を元のように実が沢山なるよう魔法を掛けたり、種から木にしたりと高度な魔法を幾つも使ったから体の疲れはハンパ無かった。
ご飯もいっぱい食べて、ご褒美の聖獣達と戯れて、効果十分な癒しでうっかりそのまま眠くなってもしょうがないというもの。
取り敢えず、どこにも痛みは感じないし、沢山寝て気分はすっきりしてるから調子はかなりいいと思う。
「うん、大丈夫。すっごい元気。私を運んでくれてありがとう」
「どういたしまして。ねぇ、穂叶。ようやく今日が挙式ですね。どうしましょうか、今からもう夜が待ちきれないですよ」
セオドールに自分で解いた覚えのない長い髪をさらりと撫でられ、同時に甘い声が耳をくすぐった。
ああもう、心臓が壊れてしまいそう。
私がセオドールの事を襲っているみたいになっている体勢だから、自分が起き上がれば直ぐに距離を取れるのに体が動かない。
こうして夜が明けたということは、今日はセオドールとの挙式ということ。
それが終われば夜は・・・。しょ、初夜ということ、だよね・・・。
こういて同じベッドに寝ているけれど、まだキス以上のことはしていない。初夜を迎えることに多少の不安もあるけれど、それ以上にキス以外の期待も望んでいる。私はセオドールが囁いた言葉に体が熱くなった。
「セオドール・・・」
目を合わせれば、艶を増したように見えた碧い瞳には情欲が段々と色濃くなり始め、穂叶はその色香にくらりと酔いそうになった。
まだ想像の域を出ないあれやこれを想像してしまい、離れがたいと思っていたことが嘘のようにがばぁっと体を起こしセオドールとの距離を取った。
「ああああ、あのっ、今日は式があるから早くから支度しないといけないって言われてたの思い出したっ。だから私もう起きるねっ。お風呂にも入りたいしっ。そういうことでっ」
そういえば夕べは風呂にも入らず、着替えもせずに寝てしまっていた。
私は慌ててベッドから降りると、手早く着替えをチェストから取り出し、ベッドから思わず逃亡してしまった。
穂叶が去って1人取り残されたセオドールは、上半身を起き上がらせると片手を顔に当て、燻っている体の中の熱を持て余し、シーツの上に長い溜息を零していた。
目が覚めて、起き上がり伸びをすればまだ部屋の中はまだ暗かった。
何時寝たのか覚えてないけれど、随分寝たらしく起きたばかりだと言うのにかなり頭がすっきりとしている。起き上がるのに躊躇なく体が動き、もたもたすることが無かった。
秋も深まりつつあるから、空気はひんやりとしている。カーテン越しの窓を見れば微かに明るさを感じれるから薄明と言われる時刻なのだろう。
つまりとても早起きをしてしまったということ。早起きは三文の得というけれど、ちょっと早すぎた気がした。
もう一度眠ろうかと思ったが、妙にすっきりとした気分だったので無理そうかなと考えたところで、すぐ脇に誰かの動きを感じたと思ったと同時に腰を引かれ、引いた本人の体に向かって私は倒れ込んでしまった。
「きゃっ」
「目覚めが早いですね、穂叶。まあ、夕べは俺も一緒に、随分早くに寝てしまったから目が覚めたんですけどね」
とっさに腕で自分の体重は支えようとしたけれど、全然間に合わなかった。けれど私の重みを受けても辛そうな顔一つせずに反対に嬉しそうだ。下から見上げるような格好でセオドールは私を見てくすりと笑った。
「もっ、もう、危ないよ。いきなり引っ張るなんて」
はうっ、寝起きにキラキラと見える笑顔は眩しすぎ。胸がきゅんとしたけれど、口から出たのはときめきの言葉でなく注意する文句だった。
端整で爽やかなセオドールとの至近距離に、ドキドキして顔を真っ赤にしているから、私がどう思ったのかなんてきっと相手にはバレているだろうけど。
数日前からこうして部屋で一緒に眠るようになって、布団が暖かいのは有難くて心地いいのだけれど、1つの布団に一緒に眠るという行為にはまだ慣れない。っていうか気恥ずかしい。
だからと言って、今度から別々に眠るのは、もう無理だと思う程にとても好きになってしまっているのが困りどころ。
この近すぎる体勢にどうしていいのか分からずにいる私の背中に、セオドールの腕が回されたかと思うとぎゅっと抱き寄せられた。重なり合った体は互いの心臓の音が伝わっているはずだ。速さの違う鼓動が二つある。
「済みません。それより穂叶の体の調子はどうですか?あれだけ昨日は高度な魔法を沢山使ったんですから、まだ疲れが取れてないんじゃないですか?」
昨日?
ああ、そうか。私夕べはセオドールに抱っこされたままここに連れて来てもらったんだった。だから自分で寝た記憶がないんだ。
ゆっくりと思い出せば、昨日はレナートさんに見せて貰った記録を撮る魔法を手始めに、マレサの木を元のように実が沢山なるよう魔法を掛けたり、種から木にしたりと高度な魔法を幾つも使ったから体の疲れはハンパ無かった。
ご飯もいっぱい食べて、ご褒美の聖獣達と戯れて、効果十分な癒しでうっかりそのまま眠くなってもしょうがないというもの。
取り敢えず、どこにも痛みは感じないし、沢山寝て気分はすっきりしてるから調子はかなりいいと思う。
「うん、大丈夫。すっごい元気。私を運んでくれてありがとう」
「どういたしまして。ねぇ、穂叶。ようやく今日が挙式ですね。どうしましょうか、今からもう夜が待ちきれないですよ」
セオドールに自分で解いた覚えのない長い髪をさらりと撫でられ、同時に甘い声が耳をくすぐった。
ああもう、心臓が壊れてしまいそう。
私がセオドールの事を襲っているみたいになっている体勢だから、自分が起き上がれば直ぐに距離を取れるのに体が動かない。
こうして夜が明けたということは、今日はセオドールとの挙式ということ。
それが終われば夜は・・・。しょ、初夜ということ、だよね・・・。
こういて同じベッドに寝ているけれど、まだキス以上のことはしていない。初夜を迎えることに多少の不安もあるけれど、それ以上にキス以外の期待も望んでいる。私はセオドールが囁いた言葉に体が熱くなった。
「セオドール・・・」
目を合わせれば、艶を増したように見えた碧い瞳には情欲が段々と色濃くなり始め、穂叶はその色香にくらりと酔いそうになった。
まだ想像の域を出ないあれやこれを想像してしまい、離れがたいと思っていたことが嘘のようにがばぁっと体を起こしセオドールとの距離を取った。
「ああああ、あのっ、今日は式があるから早くから支度しないといけないって言われてたの思い出したっ。だから私もう起きるねっ。お風呂にも入りたいしっ。そういうことでっ」
そういえば夕べは風呂にも入らず、着替えもせずに寝てしまっていた。
私は慌ててベッドから降りると、手早く着替えをチェストから取り出し、ベッドから思わず逃亡してしまった。
穂叶が去って1人取り残されたセオドールは、上半身を起き上がらせると片手を顔に当て、燻っている体の中の熱を持て余し、シーツの上に長い溜息を零していた。
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