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37 向上
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穂叶は遅めの朝食兼昼食をセオドールと共に食べていると、レナートさんや他の騎士さん達も食事を取る為にダイニングルームへとやってきた。
「お早うございます」
騎士の皆も寝たのは朝からなのでお早うでもいいと判断した。
やってきた人それぞれに挨拶を一通り済ませると、返って来た挨拶と一緒に昨夜渡した夜食用のパンのお礼を言われた。レナートさんには頭まで撫でられるというおまけ付きで。
「穂叶、昨日はパン有難うな。あんな風に具も一緒にパン食べたのは初めてだったけど、美味かった。ほんと料理上手だな、我が妹は」
多少乱暴な手つきでぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
レナートさんは人の頭を撫でるのは癖なのかな?迷惑な癖だなとは思ったが、料理が上手いと褒められたのでまあいいかと諦めた。
「あっそうだ、レナートさんにお願いがあるんですよ」
「お願い?」
自分の朝食をほとんど食べ終えたところで、斜め向かいに座っているレナートさんに言った。プリンを手にしようとしている。騎士の皆の朝食には昨日取り置きしておいたプリンとシュークリームも配られているのだ。
「聖獣のランタナが撮ったっていう映像を見せてもらいたいんです。出来ればその魔法も知りたいです。駄目ですか?」
自分にはまだ魔法の初歩の初歩しか出来ないから使えないだろうが、せめて知っていたい。
「俺の方は今日の予定が特にないから構わないんだが、母上から穂叶のウエディングドレスの試着予定があると聞いたが大丈夫なのか?」
「うっ、そうでした・・・」
夕べの女子会でアンナさんに伝えられていたのをすっかり忘れてた。
「しかも、挙式は明日執り行うって母上が息巻いてたぞ?明後日には王都へ帰還する予定だしな」
「明日!?」
全然聞いてないしっ!
隣にいるセオドールも聞かされていなかったらしく驚いた顔をしていた。
当事者そっちのけですか!そりゃあ、私はお金持ってないですから、文句は言えませんけどね。
「魔法のことは時間があれば教えることにしとくか?」
母上はこういうこイベントは大好きだから恐らく無理だろうけどなぁと呟かれた。
言われてみると確かに思い当たる節があった。
まだ養子となっていなかった私達の為に新婚に似つかわしい模様替えまでしてくれたのはアンナさんだ。見ず知らずの私の為にもとても沢山の事をしてくれた。喜々としてやっているみたいだからきっとこういうことが大好きなのだろうとは思った。
ウエディングトレスの試着の他にも、ヴィルジニアさんと一緒にデザイナーの人とデザインの話をすることになってるし。それを考えれば確かに自由時間はないかもしれない。
「・・・そうします。でも今日が駄目でも帰りの馬車の中で教えてくださいね」
絶対、絶対覚えて見せるんだから。
「了解。ああ、そうだ。穂叶、ドレスはちゃんと自分で気に入ったものを選ぶんだぞ。そうしないと母上好みに仕立てられるぞ。全身を。意見を言わないとこれでもかっていうくらいふりっふりな上にやたらきらきらなドレスを着せられるぞ?」
お義兄さんからのアドバイスを受け、なんだかその様子が目に浮かぶようだった。
うん、自分の好みを伝えても、アンナさんに押し切られちゃうかも。今からかなりの確率でそうなるんだろうなぁと予測出来ちゃうけど。まあ、それもいいかな。
用意されていた普段着のドレスも自分には似合っていたことだし、お任せしてもいいかな。うーん、ふりふりにきらきらなドレスかぁ。どんなのかなぁ。それにしても、明日結婚かぁ。まだ実感が薄いなぁ。
成人して二十歳になっているとはいえ、結婚なんてまだまだだと思っていたのに。自分の周りの友達には彼氏持ちはいっぱいいたけど、結婚までしている子はまだいなかった。
それが数日で彼氏が出来て、家族が出来て、結婚まで進んじゃうんだから世の中不思議だ。不思議といえばこの世界へ来たこと自体が一番の不思議なんだけど。
「えーっっっと、アンナさんにお任せします。ところでこちらの挙式の時って、やっぱり白のウエディングドレスが主流なんですか?」
自分がいた世界では白のウエディングが主流だったけど、ここではどうなのだろう。
「ああ、そうだな。セオドール、お前も礼装しろよ?」
「えっ、俺も、ですか?俺は隊服で、と考えていましたけど」
「お前は良くても、穂叶が可哀想だろうが。略式挙式だとしてもきちっと揃いの礼装を着て挑め。一生に一度の大事なんだから」
「うっ、はい」
うわーっ、セオドールのタキシード姿が見れるんだっ!絶対にかっこいいよね!見たい、見たい、早く見たいっ!っていうか、絶対に記録したいーっっっ!今やらなくていつやるの!
興奮して息まで上がった。
「レナートさん、お願いがありますっ!」
「どうした、穂叶?」
いきなり大きな声を出して前かがみの勢いで必死にお願いする私に驚いたらしい。ちょっと仰け反っていた。
「やっぱり今すぐ教えてください。今なら出来そうな気がするんです。出来なくてもして見せますっ!だから記録の撮り方教えてください~っ」
「分かった、分かったから。教えるから落ち着け」
「やったー、有難うレナートさん。レナートさんがお兄ちゃんで私嬉しいっ」
妹からの賛辞を聞いた兄はデレていた。そんな兄馬鹿をセオドールは胡乱な目でみてやった。
約束を守ってもらう為にレナートの食事を終えるのを今か今かと傍で待ち続けた穂叶。終わるや否やダイニングテーブルの上で実技は行われた。
傍らには食事を終えた他の騎士達も面白そうだと眺めていた。
レナートはまずランタナが口から出した三つの魔力を貰うと、音程の魔法陣の次に、聴覚の魔法陣に変化させた。
「ランタナ、『記録』開始」
続いて連繋の魔法陣へと変化させると、陣の中心にいたランタナの紫色の目は赤へと変化した。
「『停止』」
数秒で止めた記録をその場で見せてもらうと、ダイニングルームの一部が記録されていた。
「うわっ、凄い。空中に映像が見える」
元の世界ならパソコンやプロジェクターを使いスクリーンに映像を流すのだが、この世界では多少不明瞭な映像だが空中に流すものらしい。凄すぎる。
「ほら、頭の中でさっきの魔法陣を思い浮かべてやってみるだけやってみろ」
「よしっ、行きますっ。ランタナちゃん、お願い!」
気合十分、積極果敢に挑んだ結果、一秒ほどしか撮れなかったとはいえ穂叶は一度しか見ていない記録の魔法を使えるようになった。周りにいた騎士達はどよめいた。
「レナートさん、ランタナちゃん有難う。うふふふふふ、これで明日のタキシードはばっちり~」
これもレナートさんとランタナちゃんが協力してくれたから出来たことだよ。
「・・・お前、必死になって教えろって言ったのはセオドールのタキシード姿を記録したいがためかよ」
「そうでーす」
呆れたように言われても全然気にならないもんねー。これで明日の挙式はばっちりねっ。
「しかし、基礎しかまだ出来ないやつがこんな高度な技を一度で覚えるとか普通じゃないな、穂叶は」
「教えてくれた先生が優秀だったからだよ」
にまにまするのはしょうがないのです。嬉しくて仕方ないのです。見逃してください。
「当然」
ふふんと偉そうにしているレナートさんを見て、セオドールはやれやれと言いたげにしていたけれど。いいのです。
穂叶はこの魔法を皮切りに衣装合わせに呼ばれるまで他の魔法をいくつか試してみた。
ダンさんに手伝ってもらって試したのは『攪拌』を軸に生クリームの作成。次は『培養』と『増殖』の重ね技で酵母菌作りだった。これも一発で成功した。
「やったっ!大幅時間短縮に成功!これならケーキも作れるし、パンも作れる」
一緒に手伝ってくれたダンさんも大喜びだ。
しかし、レナートさんは複雑そうな顔つきだった。
「・・・穂叶の魔法センスは末恐ろしいな」
呟いた声は小さく誰の耳にも届かなかった。
「お早うございます」
騎士の皆も寝たのは朝からなのでお早うでもいいと判断した。
やってきた人それぞれに挨拶を一通り済ませると、返って来た挨拶と一緒に昨夜渡した夜食用のパンのお礼を言われた。レナートさんには頭まで撫でられるというおまけ付きで。
「穂叶、昨日はパン有難うな。あんな風に具も一緒にパン食べたのは初めてだったけど、美味かった。ほんと料理上手だな、我が妹は」
多少乱暴な手つきでぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
レナートさんは人の頭を撫でるのは癖なのかな?迷惑な癖だなとは思ったが、料理が上手いと褒められたのでまあいいかと諦めた。
「あっそうだ、レナートさんにお願いがあるんですよ」
「お願い?」
自分の朝食をほとんど食べ終えたところで、斜め向かいに座っているレナートさんに言った。プリンを手にしようとしている。騎士の皆の朝食には昨日取り置きしておいたプリンとシュークリームも配られているのだ。
「聖獣のランタナが撮ったっていう映像を見せてもらいたいんです。出来ればその魔法も知りたいです。駄目ですか?」
自分にはまだ魔法の初歩の初歩しか出来ないから使えないだろうが、せめて知っていたい。
「俺の方は今日の予定が特にないから構わないんだが、母上から穂叶のウエディングドレスの試着予定があると聞いたが大丈夫なのか?」
「うっ、そうでした・・・」
夕べの女子会でアンナさんに伝えられていたのをすっかり忘れてた。
「しかも、挙式は明日執り行うって母上が息巻いてたぞ?明後日には王都へ帰還する予定だしな」
「明日!?」
全然聞いてないしっ!
隣にいるセオドールも聞かされていなかったらしく驚いた顔をしていた。
当事者そっちのけですか!そりゃあ、私はお金持ってないですから、文句は言えませんけどね。
「魔法のことは時間があれば教えることにしとくか?」
母上はこういうこイベントは大好きだから恐らく無理だろうけどなぁと呟かれた。
言われてみると確かに思い当たる節があった。
まだ養子となっていなかった私達の為に新婚に似つかわしい模様替えまでしてくれたのはアンナさんだ。見ず知らずの私の為にもとても沢山の事をしてくれた。喜々としてやっているみたいだからきっとこういうことが大好きなのだろうとは思った。
ウエディングトレスの試着の他にも、ヴィルジニアさんと一緒にデザイナーの人とデザインの話をすることになってるし。それを考えれば確かに自由時間はないかもしれない。
「・・・そうします。でも今日が駄目でも帰りの馬車の中で教えてくださいね」
絶対、絶対覚えて見せるんだから。
「了解。ああ、そうだ。穂叶、ドレスはちゃんと自分で気に入ったものを選ぶんだぞ。そうしないと母上好みに仕立てられるぞ。全身を。意見を言わないとこれでもかっていうくらいふりっふりな上にやたらきらきらなドレスを着せられるぞ?」
お義兄さんからのアドバイスを受け、なんだかその様子が目に浮かぶようだった。
うん、自分の好みを伝えても、アンナさんに押し切られちゃうかも。今からかなりの確率でそうなるんだろうなぁと予測出来ちゃうけど。まあ、それもいいかな。
用意されていた普段着のドレスも自分には似合っていたことだし、お任せしてもいいかな。うーん、ふりふりにきらきらなドレスかぁ。どんなのかなぁ。それにしても、明日結婚かぁ。まだ実感が薄いなぁ。
成人して二十歳になっているとはいえ、結婚なんてまだまだだと思っていたのに。自分の周りの友達には彼氏持ちはいっぱいいたけど、結婚までしている子はまだいなかった。
それが数日で彼氏が出来て、家族が出来て、結婚まで進んじゃうんだから世の中不思議だ。不思議といえばこの世界へ来たこと自体が一番の不思議なんだけど。
「えーっっっと、アンナさんにお任せします。ところでこちらの挙式の時って、やっぱり白のウエディングドレスが主流なんですか?」
自分がいた世界では白のウエディングが主流だったけど、ここではどうなのだろう。
「ああ、そうだな。セオドール、お前も礼装しろよ?」
「えっ、俺も、ですか?俺は隊服で、と考えていましたけど」
「お前は良くても、穂叶が可哀想だろうが。略式挙式だとしてもきちっと揃いの礼装を着て挑め。一生に一度の大事なんだから」
「うっ、はい」
うわーっ、セオドールのタキシード姿が見れるんだっ!絶対にかっこいいよね!見たい、見たい、早く見たいっ!っていうか、絶対に記録したいーっっっ!今やらなくていつやるの!
興奮して息まで上がった。
「レナートさん、お願いがありますっ!」
「どうした、穂叶?」
いきなり大きな声を出して前かがみの勢いで必死にお願いする私に驚いたらしい。ちょっと仰け反っていた。
「やっぱり今すぐ教えてください。今なら出来そうな気がするんです。出来なくてもして見せますっ!だから記録の撮り方教えてください~っ」
「分かった、分かったから。教えるから落ち着け」
「やったー、有難うレナートさん。レナートさんがお兄ちゃんで私嬉しいっ」
妹からの賛辞を聞いた兄はデレていた。そんな兄馬鹿をセオドールは胡乱な目でみてやった。
約束を守ってもらう為にレナートの食事を終えるのを今か今かと傍で待ち続けた穂叶。終わるや否やダイニングテーブルの上で実技は行われた。
傍らには食事を終えた他の騎士達も面白そうだと眺めていた。
レナートはまずランタナが口から出した三つの魔力を貰うと、音程の魔法陣の次に、聴覚の魔法陣に変化させた。
「ランタナ、『記録』開始」
続いて連繋の魔法陣へと変化させると、陣の中心にいたランタナの紫色の目は赤へと変化した。
「『停止』」
数秒で止めた記録をその場で見せてもらうと、ダイニングルームの一部が記録されていた。
「うわっ、凄い。空中に映像が見える」
元の世界ならパソコンやプロジェクターを使いスクリーンに映像を流すのだが、この世界では多少不明瞭な映像だが空中に流すものらしい。凄すぎる。
「ほら、頭の中でさっきの魔法陣を思い浮かべてやってみるだけやってみろ」
「よしっ、行きますっ。ランタナちゃん、お願い!」
気合十分、積極果敢に挑んだ結果、一秒ほどしか撮れなかったとはいえ穂叶は一度しか見ていない記録の魔法を使えるようになった。周りにいた騎士達はどよめいた。
「レナートさん、ランタナちゃん有難う。うふふふふふ、これで明日のタキシードはばっちり~」
これもレナートさんとランタナちゃんが協力してくれたから出来たことだよ。
「・・・お前、必死になって教えろって言ったのはセオドールのタキシード姿を記録したいがためかよ」
「そうでーす」
呆れたように言われても全然気にならないもんねー。これで明日の挙式はばっちりねっ。
「しかし、基礎しかまだ出来ないやつがこんな高度な技を一度で覚えるとか普通じゃないな、穂叶は」
「教えてくれた先生が優秀だったからだよ」
にまにまするのはしょうがないのです。嬉しくて仕方ないのです。見逃してください。
「当然」
ふふんと偉そうにしているレナートさんを見て、セオドールはやれやれと言いたげにしていたけれど。いいのです。
穂叶はこの魔法を皮切りに衣装合わせに呼ばれるまで他の魔法をいくつか試してみた。
ダンさんに手伝ってもらって試したのは『攪拌』を軸に生クリームの作成。次は『培養』と『増殖』の重ね技で酵母菌作りだった。これも一発で成功した。
「やったっ!大幅時間短縮に成功!これならケーキも作れるし、パンも作れる」
一緒に手伝ってくれたダンさんも大喜びだ。
しかし、レナートさんは複雑そうな顔つきだった。
「・・・穂叶の魔法センスは末恐ろしいな」
呟いた声は小さく誰の耳にも届かなかった。
応援ありがとうございます!
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