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高校生編

5 それでも・・・まあ、いっか。

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 両親までもが甲斐との結婚を勧めてくるなんて。普通なら、ここは止める場面だと思うんだけどなぁー。

 むーん。
 遥は目をつむり腕を組んで頭の中をちょっと整理を始めた。色んなことが在り過ぎてごちゃごちゃしてる。

 思わず甲斐の事を彼氏として受け入れちゃったけど、甲斐が彼氏かぁ。
 嘘をつく性格じゃないのはよく知ってるから、結婚して欲しいと言ったことも本当の気持ちなんだろうなぁとは思うけど。
 整った外見は余りにも近くで毎日見ているもんだから、既に見慣れて普通に思っていたけど、よーく考えたら結構好きなタイプなんだよねぇ。実は見た目で言えば巧叔父さんが一番好みのタイプだから、親子である甲斐も好きなタイプではあるんだよね。
 ただ、それイコール直ぐに彼氏にしたい男性に結び付かなかっただけで。弟のように考えていたから。だから従弟であり、実の弟のようにして今まで過ごしてきたわけで。
 それなのに、甲斐は私の事を十年も前から好きでいてくれた?うわー、背中がむず痒いような、くすぐったい様な、不思議な感覚。
 あっ、それに、そうだよ。これって私、初告白じゃん。

 誰にも今まで告白なんてされたことがないから、弟のように思っていた甲斐からの告白が今頃になってじわじわと実感としてこみ上げてきた。

 なんだか、体温が上がってきた気がする。
 ヤバい。ちょっと、ううん、かなり嬉しいかも。

 自分から言ったことも無かったから、受ける側になるとは更に思っても見なかった。
 ちらりと前の席に座っている甲斐を見れば、遥のことをじいっと見つめていた。
視線が合うと、甲斐は微かに頬を染めて恥ずかしそうにしながら笑みを浮かべた。
 ・・・乙女か。
 なんでだろう、今の笑顔をみて、こう、女としても甲斐に負けている気がした遥だった。
 こういう時は、無理やり話を替えるにかぎる。

「睦月ちゃんは?睦月ちゃんはどう思う?」
 妹のように思っている甲斐の妹の睦月ちゃんに聞いてみた。
「遥お姉ちゃんが、本当のお姉ちゃんになってくれるのは大歓迎。だから、甲斐お兄ちゃんと結婚してくれると嬉しいな」
 にこーって笑ってくれた。ああ、もう可愛いな。
 四才年下だけど、とてもしっかりしている睦月ちゃん。小さい頃から睦月ちゃんには「遥お姉ちゃん」と呼ばれている。遥も生意気な弟《さくや》から姉ちゃんと呼ばれるより、睦月ちゃんに可愛く遥お姉ちゃんと呼ばれることの方が断然嬉しい。
「そ、そう?」
 本音で嬉しいと思ってくれているのが分かるから、単純に嬉しいなと感じた。

「叔父さんも遥がお嫁に来てくれるのは大歓迎だよ」
 向かい側に座っている巧叔父さんまで、にこっとしてそんなことを言ってくれる。
「遥には内緒にしていたけど、何時遥がお嫁に来てもいいように最近部屋を改装したからね。今日からでも身一つで来ても大丈夫だから。一番欲しがっているだろう大きな本棚もちゃーんと設置したし。あ、そうそう遥専用のテレビもDVDレコーダーもばっちりだから」
「え?」
 何、その好待遇は。自分専用のテレビにDVDレコーダー?凄すぎる。朔夜とチャンネル争いしなくていいの?DVDも好きなもの見ていいの?どうしよう、物欲に心が負けそうなんですけど。
 甲斐と彼氏から始めようとしているのに、これってどうよ?
 遥は本気で悩み始めた。

「遥の事は、今までも娘のように思っていたけど、娘として迎えられたらこんなに嬉しい事は無いよ」
 くらり。
 叔父さん、その微笑みはマジヤバいです。
 お父さんと同じ年なのに、素敵すぎ。もう50になろうと言うのに、姪相手に大人の魅力振りまきすぎですってば。
「勿論、一匹でも二匹でも、好きな動物も飼っても大丈夫だから」
 きゃーっっっ、嘘―っっっ。
 声には出さなかったが、内心大喜びをした。動物好きなのだ。

 ウチには二代目看板猫の丹波《たんば》がいる。遥は丹波が今何処にいるのかと探すと、窓際のソファの上でうとうとしているのが見えた。
 一代目の猫の「くろちゃん」の子で、全身真っ黒な女の子。実はもうすぐ子猫を産みそうなんだよね。生まれた時からずっと猫がいる生活をしているから、猫は大好きだ。甲斐は、動物は特に好きでも嫌いでもない。たまに寄ってきたくろちゃんを構うぐらいしか遊んだところは見ていない。
 甲斐ともし結婚したとしても、猫がいる生活をしてもいいってこと?
 ヤバい、本気で物欲と猫に負けそうなんですけど・・・。
 広い部屋に、好きな物で沢山囲まれながら、猫と過ごす家・・・。うっとり。

「橘遥になるのもいいかもしれない・・・」
 この時の遥の描いた未来の想像の中に甲斐がいないことに気づいていない。(後で散々朔夜が馬鹿にされてのも仕方がないとも言える)
「遥、それほんと!?言質取ったからねっ。やっぱり間違いでしたなんて、絶対に聞かないから」
 思わずぽつっと呟いてしまった遥の声を拾い上げた甲斐は当然喜んだ。割り込んだ甲斐の声に反応して、遥の想い描いている最中の想像の景色に甲斐も加わった。
 ―――あれ?

「そうと決まれば、あの話も進めないと」
「ですね」
 固まった遥を余所に、巧叔父さんと、お父さんは嬉しそうに話し合いが始まった。
 あれー?
 なんか変な汗が背中を流れているような・・・・・・。

 言ってはいけない一言を呟いてしまったと、遥はようやく気付いた。
 
 うわーっっっっ、巧叔父さんの話術に乗せられ、彼氏どころか、結婚を承諾しちゃったよーっっっっっ!
 遥は一気に血の気が引いた。
 その時、席を立った甲斐が傍までやってきて、正面から抱きしめられた。
「!!」
「有難う、遥。凄く嬉しい」
 一瞬で体を離されたかと思うと、至近距離で滅多に見せることがない甲斐の心からの笑顔を見てしまった。
 その笑顔に胸がきゅゅゅーんと音を立てた。
 あれ?
 あれれ?
 顔が熱いと感じ始める前に、遥はまた抱きしめられた。

 やっ、心臓がっ、心臓が壊れそう~っっっ!
 言い間違いしたと言おうと思ったのに、言いたくなくなっている自分に気づいた。
 あれ?
 あれー?
 甲斐の匂いに包まれて、幸福感を感じてる自分は一体。

「よっしゃー。これで広い部屋と初海外旅行ゲットーっ」
 戸惑う遥の横で、朔夜はぐっと握りこぶしを高く振り上げ、歓喜の叫びをあげた。
 !?
 何、今の。聞き間違い?じゃないよね。
 ―――まさか。

 べりっと無理やり甲斐を引き離した遥は、体の向きを変え朔夜と向き直った。
「ちょっと、朔夜っ!あんたもしかして自分の欲望の為に、お姉ちゃんを売ったわねーっっっ。それに海外旅行ってどういうことよっ!」
「へへーん、今頃になって気づいても遅いってーの」
 姉の部屋を奪う気で、甲斐との結婚をそそのかしていたのかっ。しかも海外旅行だとーっ!?なんなのよっ、それっ!
「あ、海外の話?遥が甲斐と結婚するって決まったら、来年の春休みに海外挙式しましょうかって話が出てるのよね。でも、遥は海外より国内の方がいい?好きな方でいいわよ?」
 お母さんが何でもない口調でけろりとして説明をしてくれた。
「でも折角だから、南の国で海外挙式が見たいなぁ、お母さん。海が見える教会で、白いウエディングドレス来た遥が見たいなぁ」
 うっとりと夢を語るお母さんに、遥は開いた口が塞がらなかった。

 なんで結婚する本人に確認も取らないで、部屋を改装したり、海外挙式を予定立てる親が存在するのか。
 しかも、娘の18の誕生日に合わせて。
「嘘でしょう?」
「ん?嘘じゃないよ?俺も遥のウエディングドレス見たいな。楽しみだね」
がーん。
 何で誰も甲斐の結婚の申し込みを私が断る可能性が無いものとしているばかりか、もはや決定とさえいえるレベルになっているのか。
 私の人権ってどこ行った?
 遥は途方に暮れた。

 遥が呆然としている間に、親族会議が開かれ、三月の甲斐の誕生日に入籍をすることが多数決で決まり、春休み期間中に海外挙式することまで決められてしまった。

***

 大学受験も終わり、遥は希望していた私立大学への入学が決まった。甲斐の教えが良かったから、同じ大学へ行けることになった。ただし学科は違う。甲斐は法学部へ、遥は文学部に。

 高校の卒業式を終え、数日後には甲斐の誕生日を待って入籍を済ませ、中学、高校が春休みに突入すると同時にハワイへと向かって挙式を挙げている。お母さんが望んだように、海辺が近い教会で。
 お父さんの先導の元、式場に入るとそこで待っていたのは新郎だ。
 晴れて外からの光に照らされている白のタキシード姿の甲斐は、文句なくカッコいい。思わず見惚れてぽうっとなってしまった。
「遥、綺麗だね。改めて惚れ直した。遥と結婚出来て心から嬉しいよ」
 うっとりとするぐらい幸せな笑顔を見せてくれた。
(~~っ。ばか)
 遥はというと、照れてしまい、持っていたブーケで顔を隠した。
 最近よく言われるようになった甲斐からの褒め言葉に、未だ慣れない。
 こそばゆく感じながら、家族に見守られ、誓いの言葉、指輪の交換を終えた。

「それでは、誓いのキスを」
 神父の言葉を受け、甲斐は遥のベールを持ち上げた。神父に聞こえないぐらいの小さな声で甲斐は呟いた。
「ようやく、キスが出来る。・・・長かった・・・」
 ―――だね。
 緊張している甲斐に遥も同じく緊張をしている。
 結婚が決まってからというもの、話だけは受けたけど、遥は甲斐に幾つか約束させたことがある。

 一緒に暮らすのは結婚式が終わってから!
 勿論、キスもそれ以上もお預け!

 遥が絶対に譲れないと高々に宣言を言った時、これでもかという情けない表情をしていた甲斐を思い出すと今でも笑える。
 甲斐は今日まで約束を守ってくれた。
 だから、三月に入籍を済ませたというのに、遥たちはまだ手を繋ぐ以上のことは何もない間柄だった。正真正銘、結婚式での誓いのキスがファーストキスだ。

 遥は触れるだけの、けどやたら緊張する初キスを受けた。
 ~っっっ!はう~っっっっ、柔らかい~っっ!
 唇って、こんなに柔らかいんだと身悶えしそうになってしまった。

「遥との約束は守ったよ。今日から我慢はしないから。遥、覚悟しておいて?十年分の気持ち、受けてくれるよね?」
 離れていく前に耳元で甲斐にそう囁かれた。
「あ、あははは・・・」
 まだ式の途中だと言うのに、甲斐の目には明らかな欲望がチラついて見えた。
 我慢させ過ぎちゃったー?
 遥は青くなってしまった。

 宣言通り、その日の夜からは、甲斐からの熱い気持ちをこれでもか!と受け取る羽目になった。
 お願いだから、男女の体力の差も考えて欲しかったと思い、まだ入学式前で良かったとも思った。
 遥は新しく購入した広いベッド中、動けない体を恨めしく思いながら枕に顔を埋めた。

 新たな大学生活と、新たな家庭を始めた遥は、甲斐に甘く(?)翻弄されながらも、幸せに過ごすことになったのでした。
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