5 / 6
5 部下の不始末
しおりを挟む
勝手に異世界へと呼びつれるような魔法を作っておいてアフターケアは知りませんだとぉ!?意欲が湧かないなんて理由で、はい、そうですか、わかりました。なーんてとでもいうと思ったのか、こンの馬鹿(やろう)は!
図体はデカくても、小心者でも、仕事はとことん熱心な奴ならどうにかしそうな奴だろうと思ったのに。っていうかしてもらわないとマジ困る。
未知なる研究心を核に突き進んだ研究結果で迷惑を被ったのだとしても、直ぐに帰してもらえるならば今感じている怒りも多少は抑えられると思ったけれど。
無理。絶対に無理。
あっちは加害者、こっちは被害者。この怒りを爆発させたとしても文句なんて言わせない。
馬鹿(ジェラルド)の言葉を聞き、怒りを露わにした萌音に、身近にある資料の山で八つ当たりしそうな雰囲気を感じ取ったバラディール室長は、慌てて立ち上がると人としても使えない部下のジェラルドの後ろへ周り、容赦なくスパーンと実に小気味いい音で頭を叩いた。続いて叩かれた勢いで机に顔面をぶつけた。
「っっ。痛った!」
(ざまあ)
萌音の怒りメーターレベルは最高値から二つ減った。
後ろから急に叩かれ痛みを堪える為に机に突っ伏したジェラルドのことは完全無視し、バラディール室長はその場で立ったまま、目には部下に対する怒りを込めたまま優美な笑みを浮かべ萌音に対して礼を取った。
「モエさん、申し訳ありません。お怒りはごもっともです。これ(・・)には直ぐに元の世界へ戻れる魔法構築を作らせます。勿論、私も全力を注ぎます。それまではこちらでゆっくりとお茶などをお飲みになってお待ちください。―――デヴィッド、暖かいお茶をモエさんに用意して」
「はい」
上司命令を受けたデヴィッド次長は、その大きな体から想像できない程音も立てずに椅子から立ち上がると、スルリと部屋を出て行くために移動した。
「モエさん、申し訳ありません」
デヴィッド次長の後姿を見送ることなく、今度は真面目顔になったバラディール室長に萌音は謝罪をされた。
「魔導士ジェラルド・ブルグスミューラーの独断で使用した魔法に気が付かなった私にも責任の一端があります。
謝って済む問題ではないのは重々承知していますが、もう一度謝罪をさせてください。本当に、申し訳ありませんでした」
言い終わると深々と頭を下げたままバラディール室長は動かなくなってしまった。
えええーっ!?ちょっ、ちょっと~!?
怒りが完全には収まってはいない萌音だったが、自分より年上な美人さんに頭を下げさせたままというのは性に合わない。
あわあわと声は出さずに萌音は慌てた。
上司が部下の管理に不行き届きがあったのは事実だろう。潔く上司として責任を取ろうとしているその姿を目の当たりにして、萌音の高ぶっていた気持ちはゆっくりと凪いでいた。
「あ、あの・・・取り合えず、分かりましたから、頭を上げてください」
萌音の言葉に、ゆっくりとした動きでバラディール室長は下げていた頭をもとの位置へと戻した。
「では、許して頂けると?」
「・・・いえ、流石に全部を今すぐ許せると言う訳じゃないですけど。―――まあ、今日中に元の世界へ帰してもらえるなら貴重な体験が出来たなぁっていう感想にはなるかなぁなんて・・・思わないこともないですケド」
真っすぐ萌音を見つめる色香漂うバラディール室長を前に、同性にドキドキするわ~なんて感情を感じつつ、現状を打ち明ける。
「そう言っていただけるだけでも有難いです。では、直ぐにジェラルドに元の世界へ戻るための魔法構築に取り掛からせますので。―――こら、ジェラルド。いつまで机に伏せたままでいるつもりですか。さっさと魔法構築に取り掛かりなさい」
前半はゆっくりと丁寧にしゃべっていたバラディール室長だったが、後半は痛む頭を抱えたまま机にうつぶせになったまま動かない不出来な部下に対して苛立っているらしくやや早口になっていた。
「ぐう」
ぐう?なんか変な音が聞こえてきたけど・・・。
萌音にはお腹が鳴った音にしては違うように聞こえた。
「―――まさか、寝てるんじゃないだろうな」
バラディール室長は静かな部屋に実に低いトーンで呟いた。
「ええ!?」
まさかこんな場面で!?ありえないでしょうと萌音は目を瞬いた。
ガタリと椅子から立ち上がったバラディール室長は、むんずと濃紺の髪を引っ張りあげた。
「んあ?」
・・・そのまさかに、空いた口が塞がらない萌音だった。
図体はデカくても、小心者でも、仕事はとことん熱心な奴ならどうにかしそうな奴だろうと思ったのに。っていうかしてもらわないとマジ困る。
未知なる研究心を核に突き進んだ研究結果で迷惑を被ったのだとしても、直ぐに帰してもらえるならば今感じている怒りも多少は抑えられると思ったけれど。
無理。絶対に無理。
あっちは加害者、こっちは被害者。この怒りを爆発させたとしても文句なんて言わせない。
馬鹿(ジェラルド)の言葉を聞き、怒りを露わにした萌音に、身近にある資料の山で八つ当たりしそうな雰囲気を感じ取ったバラディール室長は、慌てて立ち上がると人としても使えない部下のジェラルドの後ろへ周り、容赦なくスパーンと実に小気味いい音で頭を叩いた。続いて叩かれた勢いで机に顔面をぶつけた。
「っっ。痛った!」
(ざまあ)
萌音の怒りメーターレベルは最高値から二つ減った。
後ろから急に叩かれ痛みを堪える為に机に突っ伏したジェラルドのことは完全無視し、バラディール室長はその場で立ったまま、目には部下に対する怒りを込めたまま優美な笑みを浮かべ萌音に対して礼を取った。
「モエさん、申し訳ありません。お怒りはごもっともです。これ(・・)には直ぐに元の世界へ戻れる魔法構築を作らせます。勿論、私も全力を注ぎます。それまではこちらでゆっくりとお茶などをお飲みになってお待ちください。―――デヴィッド、暖かいお茶をモエさんに用意して」
「はい」
上司命令を受けたデヴィッド次長は、その大きな体から想像できない程音も立てずに椅子から立ち上がると、スルリと部屋を出て行くために移動した。
「モエさん、申し訳ありません」
デヴィッド次長の後姿を見送ることなく、今度は真面目顔になったバラディール室長に萌音は謝罪をされた。
「魔導士ジェラルド・ブルグスミューラーの独断で使用した魔法に気が付かなった私にも責任の一端があります。
謝って済む問題ではないのは重々承知していますが、もう一度謝罪をさせてください。本当に、申し訳ありませんでした」
言い終わると深々と頭を下げたままバラディール室長は動かなくなってしまった。
えええーっ!?ちょっ、ちょっと~!?
怒りが完全には収まってはいない萌音だったが、自分より年上な美人さんに頭を下げさせたままというのは性に合わない。
あわあわと声は出さずに萌音は慌てた。
上司が部下の管理に不行き届きがあったのは事実だろう。潔く上司として責任を取ろうとしているその姿を目の当たりにして、萌音の高ぶっていた気持ちはゆっくりと凪いでいた。
「あ、あの・・・取り合えず、分かりましたから、頭を上げてください」
萌音の言葉に、ゆっくりとした動きでバラディール室長は下げていた頭をもとの位置へと戻した。
「では、許して頂けると?」
「・・・いえ、流石に全部を今すぐ許せると言う訳じゃないですけど。―――まあ、今日中に元の世界へ帰してもらえるなら貴重な体験が出来たなぁっていう感想にはなるかなぁなんて・・・思わないこともないですケド」
真っすぐ萌音を見つめる色香漂うバラディール室長を前に、同性にドキドキするわ~なんて感情を感じつつ、現状を打ち明ける。
「そう言っていただけるだけでも有難いです。では、直ぐにジェラルドに元の世界へ戻るための魔法構築に取り掛からせますので。―――こら、ジェラルド。いつまで机に伏せたままでいるつもりですか。さっさと魔法構築に取り掛かりなさい」
前半はゆっくりと丁寧にしゃべっていたバラディール室長だったが、後半は痛む頭を抱えたまま机にうつぶせになったまま動かない不出来な部下に対して苛立っているらしくやや早口になっていた。
「ぐう」
ぐう?なんか変な音が聞こえてきたけど・・・。
萌音にはお腹が鳴った音にしては違うように聞こえた。
「―――まさか、寝てるんじゃないだろうな」
バラディール室長は静かな部屋に実に低いトーンで呟いた。
「ええ!?」
まさかこんな場面で!?ありえないでしょうと萌音は目を瞬いた。
ガタリと椅子から立ち上がったバラディール室長は、むんずと濃紺の髪を引っ張りあげた。
「んあ?」
・・・そのまさかに、空いた口が塞がらない萌音だった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
例えばこんな出会い方
清杉悠樹
恋愛
相田凛は地方から都会へと就職し、先輩である鹿島省吾さんに片思い中。
ある時凛は会社近くの食器の展示コーナーでお皿に一目惚れをした。その展示コーナーを担当した金井さんと出会った。
金井さんから展示コーナーを見ていかれませんかと誘いを受けたものの、鹿島さんとお昼ご飯を買いにコンビニに行く事を優先させた。更にたまたま一緒にお昼を食べることが出来て、ラッキーと思ったのも束の間。こんな考え方をする人だったなんて・・・。片思いなんてあっという間に消え失せた。
その後、ある場所で偶然意外な出会い方をした金井さんと遭遇し、失恋の気持ちが消えていくお話です。
他に小説家になろう、pixivにも公開しています。
関連作品として、
だって、コンプレックスなんです!
があります。
宜しければこちらもどうぞ。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる