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1 油断大敵?
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「うあ―――・・・・・・、煌びやかなイルミネーションの光が憎い―――・・・。目がチカチカするぅー・・・」
重い足をどうにか進めながら、長沼萌音(ながぬまもね)は一歩一歩確実に前進していた。
例え腰が曲がり実年齢以上に見えるおまぬけな姿勢だろうと(若いけどねっ)、二日間も風呂に入っていないために多少体臭に不安があろうとも(乙女だけどねっ)、薄化粧すらも崩れ目の下の隈が目立とうとも(ほぼすっぴんでもねっ)、そんなことは二の次だった。
向かっているのはアパート。外観は少し古いけれど、内装は改築工事がされていて小綺麗だ。小さいけれど自分のお城。職場から歩いて帰れる距離というのもお気に入りだったりする。
「やっと休みっ。待ちに待った休み!ようやく寝れる。ああ、愛しのお布団が私を待っている~」
仕事が忙しすぎて数日まともに帰えることさえ出来ていない。店の簡易休憩室で同僚と数時間の睡眠を取る日々が続いていたから。
すれ違う人たちから、大きな独り言を呟いて歩いている為に胡乱な目で見られようと全然気にせず、萌音はマイペースに歩き続けた。
人通りが多い賑やかな繁華街。日はとうに暮れ、時刻は夕食を取る人達で飲食店が繁盛している時間帯。歩道には明るい表情をした人々の楽し気な会話と、飲食店から来店を誘ういい匂いが今日という日が特別なものとして意識させるひとつの事柄だと認識されられる。
今日はクリスマス。聖なる夜。今日は12月25日、イエスキリストの誕生を祝う祭りの日である。が、日本ではキリスト教徒でなくとも友達や家族、恋人と一緒にチキンを食べ、最後にクリスマスケーキを食べることが一般的とされ、当日の25日よりは前日であるイブの方がイベントとしては盛り上がっているといえるだろう。最近では祝日であることからイブイブで楽しむ人も多いと聞く。
クリスマス商戦、商魂凄まじいな!
目に染みる光に目をぱちぱちさせながら、そう他人事のようにクリスマスを誰かと共に楽しめる立場ならどれだけ心は平穏だろうかと思わないでもない。
長時間勤務に加え、徹夜。まだ若い筈なのに、年々辛く感じられるようになってきたのは気のせいではないと思いたいっ!
萌音がケーキ店で働くようになってそろそろ四年近く。まだ24才だ。もう、ではない。断じて「まだ」だ。自分で言う分には構わないけれど誰にも言わせないっ。
例え同級生から結婚報告ハガキが何通か届いても、中には子供が生まれましたの出産報告ハガキまであって、それを知った両親から彼氏ぐらい作りなさいとネチネチと嫌味を言われようと、今はまだ仕事一筋に居たいのだ。
―――まあ、建前だけど。
同僚には彼氏彼女持ちはいっぱいいる。
自分を客観的に見ると、化粧も碌にしない、髪型はひっつめ髪が定番、服装はラフでカジュアル安ければ尚良し。という具合。努力が圧倒的に不足しているのは確かだ。
女子としてどうよ?と思わないでもないけどさぁ。
休日になれば部屋の掃除したり、絶品スイーツが一冊にまとめられている本を片手に同性の友達と一緒に巡るのが趣味なんだけど、実益も兼ねているからなかなか楽しくて止められない。
例え彼氏いない歴が年齢と同じだろうと、ずっとなりたかったパティシエールになれたのだからと自分に暗示をかけてみても、周りを見れば恋人と仲良く歩いていく姿が多数を占めているのを見れば強がってはいるものの、内心は羨ましくしょうがない。
はあ。早よ帰ろ・・・。
仲睦まじいカップルを横目に一人疲れた体を引きずって自宅へ帰るこんな日は、連日の疲れも手伝いなんだか惨めに思えちゃったりする。
手にしているずっしりとした存在のケーキボックスの存在のせいだろうか。ボックスの中には自分の含め職人が一丸となって懸命に作った苺ケーキが入っている。
サイズは7号。直径21cm。毎年店からのご厚意で貰うケーキは嬉しいのだが、彼氏もいない一人暮らしの自分にどうしろと。せめてサイズをどうにかして欲しい。
いや、美味しいんですよ?自信を以てお勧めですから!と宣言出来るイチ押し商品ですよ?ただね、試作品も含め、結構味見もしてるんですなー、これが。
自宅の冷蔵庫の中に何が入っていたのか思い出してみたが、飲み物と調味料ぐらいしか無かったのを思い出すと、さらにお腹が減ってきた。
お腹は空きまくってるけど、美味しいのは分かってるけど出来ることならお米が食べたい。クリスマスだからお手軽なコンビニのチキンでもいい。もっと歯ごたえのあるものを口にしたい。働きずくめで相当お腹は減ってるが、出来ることなら甘いものでなく、ちゃんとした料理が食べたいと思うのは贅沢かな?
しかーし、皆と共に不眠不休で作ったケーキ。傾けて潰してしまうなんて論外というもの。例え食べきれなかろうと綺麗に飾られた形は死守すべし。
あー、食べ物のこと考えてたら余計にお腹が減ってきちゃった。冷蔵庫に買い置きも何もなかったような・・・。最近忙しくてスーパーにも行けなかったからなぁ。
ケーキ店で一番の書き入れ時であるのはクリスマス。有難いことに萌音の働く店も忙しかった。夜中に帰れればまだいい方で、二、三日まともにアパートにも帰れなかった。当然スーパーの営業時間に間に合わない。疲れてコンビニに寄るのもやっとという有様だった。
帰りにコンビニに寄って買い出ししなきゃ。明日のご飯も確保しないと。あ、しまった。手にこんな大きなケーキボックス持ったままコンビニ寄るのもなぁー。目立つよねー。・・・ちょっと嫌かも。あ、でも確かカップ麺がまだ残っていたはず。今日はそれで凌いで明日にしよう。早く帰って眠りたい。
萌音は早々に諦めた。
手にしている重いケーキボックスを落とさないようヨタヨタとしながらなんとかアパートが見えてきた所で、偶に利用することが自販機の明るい光が目に入った。季節柄、一部商品の変更となって温かな飲み物が増えているのが見えた。萌音はその商品にふらふらとつられて歩み寄った。
「あー、コーンポタージュ~。粒入りっていうところがまたいいんだよね~。温かそう~」
最近飲んでいなかったことと、お腹に溜まりそうだったから購入を決めた。一旦ケーキボックスを下に置き、背中のリュックから財布を取り出した。
ここの自販機、安いんだよね。ワンコインで買えるのが嬉しいよねー。
目当てのボタンを押した。ガコンと音がして取り出し口から、かじかんだ手に熱すぎる缶をあちちと言いながら取り出した。ケーキボックスを持ち上げて帰ろうとして一歩踏み出した。が、ここで急に自販機から静かな空間に似つかわしくない軽快な音楽が流れ始め、萌音は驚いた。
「なっ、何!?」
商品ボタンが色を変化させながら光っていた。短い音楽が終わると同時に取り出し口にガコンという音がまた響いて聞こえた。
「えっ、まさかの当たり!?うっそー、初めて当たったーっっ」
今日はいい日かもっ!と温かい缶をとりあえずポケットに入れ、喜びながら当たった缶を取り出してみると、ポタージュとは違い冷たかった。何の飲み物が当たったんだろう缶を自販機の明かりにかざすと、今まで見たことが無い商品名だった。
「えっ?『異世界へのご招待』―――なんじゃこりゃ?」
炭酸系なのか、はたまたコーヒーなのか。シンプルな白い缶表面に書かれていたのは商品名なのか悩む文字だった。これでは中身が何なのかさっぱり分からない。原材料を見ようと缶を回したが原材料が書かれていない。代わりに違うことが書かれていた。
「キーワード。『行きたい』その一言で認可されます。―――って、だから、中身はなんなのよ?」
意味が分かんないんだけど。と思った瞬間、手にしていた缶から眩しい光があふれ出た。
「―――!!」
萌音は眩しさに目をとっさに閉じた。暗くなった視界と同時に体はエレベーターが急下降した時と同じような感覚に陥った。
道路の上にいたはずなのに下降の感覚に驚き一瞬で、まさかの道路陥没か!?と痛みを覚悟した。が、時間にして数秒経っても痛みはなく、落ちていく感覚も感じなくなっていた。
あれ?もしかして、ただの眩暈だった?
連日の疲れからくる体調不良だったのかなと思いながら目を開けた。すると、そこには在るべき筈の自販機も無ければ、アパートの姿も無かった。というか、外ですら無かった。
広い室内に幾つもの机が並び、数人の姿があった。
「―――どういうこと?」
萌音の驚きの声が零れ落ちた。
重い足をどうにか進めながら、長沼萌音(ながぬまもね)は一歩一歩確実に前進していた。
例え腰が曲がり実年齢以上に見えるおまぬけな姿勢だろうと(若いけどねっ)、二日間も風呂に入っていないために多少体臭に不安があろうとも(乙女だけどねっ)、薄化粧すらも崩れ目の下の隈が目立とうとも(ほぼすっぴんでもねっ)、そんなことは二の次だった。
向かっているのはアパート。外観は少し古いけれど、内装は改築工事がされていて小綺麗だ。小さいけれど自分のお城。職場から歩いて帰れる距離というのもお気に入りだったりする。
「やっと休みっ。待ちに待った休み!ようやく寝れる。ああ、愛しのお布団が私を待っている~」
仕事が忙しすぎて数日まともに帰えることさえ出来ていない。店の簡易休憩室で同僚と数時間の睡眠を取る日々が続いていたから。
すれ違う人たちから、大きな独り言を呟いて歩いている為に胡乱な目で見られようと全然気にせず、萌音はマイペースに歩き続けた。
人通りが多い賑やかな繁華街。日はとうに暮れ、時刻は夕食を取る人達で飲食店が繁盛している時間帯。歩道には明るい表情をした人々の楽し気な会話と、飲食店から来店を誘ういい匂いが今日という日が特別なものとして意識させるひとつの事柄だと認識されられる。
今日はクリスマス。聖なる夜。今日は12月25日、イエスキリストの誕生を祝う祭りの日である。が、日本ではキリスト教徒でなくとも友達や家族、恋人と一緒にチキンを食べ、最後にクリスマスケーキを食べることが一般的とされ、当日の25日よりは前日であるイブの方がイベントとしては盛り上がっているといえるだろう。最近では祝日であることからイブイブで楽しむ人も多いと聞く。
クリスマス商戦、商魂凄まじいな!
目に染みる光に目をぱちぱちさせながら、そう他人事のようにクリスマスを誰かと共に楽しめる立場ならどれだけ心は平穏だろうかと思わないでもない。
長時間勤務に加え、徹夜。まだ若い筈なのに、年々辛く感じられるようになってきたのは気のせいではないと思いたいっ!
萌音がケーキ店で働くようになってそろそろ四年近く。まだ24才だ。もう、ではない。断じて「まだ」だ。自分で言う分には構わないけれど誰にも言わせないっ。
例え同級生から結婚報告ハガキが何通か届いても、中には子供が生まれましたの出産報告ハガキまであって、それを知った両親から彼氏ぐらい作りなさいとネチネチと嫌味を言われようと、今はまだ仕事一筋に居たいのだ。
―――まあ、建前だけど。
同僚には彼氏彼女持ちはいっぱいいる。
自分を客観的に見ると、化粧も碌にしない、髪型はひっつめ髪が定番、服装はラフでカジュアル安ければ尚良し。という具合。努力が圧倒的に不足しているのは確かだ。
女子としてどうよ?と思わないでもないけどさぁ。
休日になれば部屋の掃除したり、絶品スイーツが一冊にまとめられている本を片手に同性の友達と一緒に巡るのが趣味なんだけど、実益も兼ねているからなかなか楽しくて止められない。
例え彼氏いない歴が年齢と同じだろうと、ずっとなりたかったパティシエールになれたのだからと自分に暗示をかけてみても、周りを見れば恋人と仲良く歩いていく姿が多数を占めているのを見れば強がってはいるものの、内心は羨ましくしょうがない。
はあ。早よ帰ろ・・・。
仲睦まじいカップルを横目に一人疲れた体を引きずって自宅へ帰るこんな日は、連日の疲れも手伝いなんだか惨めに思えちゃったりする。
手にしているずっしりとした存在のケーキボックスの存在のせいだろうか。ボックスの中には自分の含め職人が一丸となって懸命に作った苺ケーキが入っている。
サイズは7号。直径21cm。毎年店からのご厚意で貰うケーキは嬉しいのだが、彼氏もいない一人暮らしの自分にどうしろと。せめてサイズをどうにかして欲しい。
いや、美味しいんですよ?自信を以てお勧めですから!と宣言出来るイチ押し商品ですよ?ただね、試作品も含め、結構味見もしてるんですなー、これが。
自宅の冷蔵庫の中に何が入っていたのか思い出してみたが、飲み物と調味料ぐらいしか無かったのを思い出すと、さらにお腹が減ってきた。
お腹は空きまくってるけど、美味しいのは分かってるけど出来ることならお米が食べたい。クリスマスだからお手軽なコンビニのチキンでもいい。もっと歯ごたえのあるものを口にしたい。働きずくめで相当お腹は減ってるが、出来ることなら甘いものでなく、ちゃんとした料理が食べたいと思うのは贅沢かな?
しかーし、皆と共に不眠不休で作ったケーキ。傾けて潰してしまうなんて論外というもの。例え食べきれなかろうと綺麗に飾られた形は死守すべし。
あー、食べ物のこと考えてたら余計にお腹が減ってきちゃった。冷蔵庫に買い置きも何もなかったような・・・。最近忙しくてスーパーにも行けなかったからなぁ。
ケーキ店で一番の書き入れ時であるのはクリスマス。有難いことに萌音の働く店も忙しかった。夜中に帰れればまだいい方で、二、三日まともにアパートにも帰れなかった。当然スーパーの営業時間に間に合わない。疲れてコンビニに寄るのもやっとという有様だった。
帰りにコンビニに寄って買い出ししなきゃ。明日のご飯も確保しないと。あ、しまった。手にこんな大きなケーキボックス持ったままコンビニ寄るのもなぁー。目立つよねー。・・・ちょっと嫌かも。あ、でも確かカップ麺がまだ残っていたはず。今日はそれで凌いで明日にしよう。早く帰って眠りたい。
萌音は早々に諦めた。
手にしている重いケーキボックスを落とさないようヨタヨタとしながらなんとかアパートが見えてきた所で、偶に利用することが自販機の明るい光が目に入った。季節柄、一部商品の変更となって温かな飲み物が増えているのが見えた。萌音はその商品にふらふらとつられて歩み寄った。
「あー、コーンポタージュ~。粒入りっていうところがまたいいんだよね~。温かそう~」
最近飲んでいなかったことと、お腹に溜まりそうだったから購入を決めた。一旦ケーキボックスを下に置き、背中のリュックから財布を取り出した。
ここの自販機、安いんだよね。ワンコインで買えるのが嬉しいよねー。
目当てのボタンを押した。ガコンと音がして取り出し口から、かじかんだ手に熱すぎる缶をあちちと言いながら取り出した。ケーキボックスを持ち上げて帰ろうとして一歩踏み出した。が、ここで急に自販機から静かな空間に似つかわしくない軽快な音楽が流れ始め、萌音は驚いた。
「なっ、何!?」
商品ボタンが色を変化させながら光っていた。短い音楽が終わると同時に取り出し口にガコンという音がまた響いて聞こえた。
「えっ、まさかの当たり!?うっそー、初めて当たったーっっ」
今日はいい日かもっ!と温かい缶をとりあえずポケットに入れ、喜びながら当たった缶を取り出してみると、ポタージュとは違い冷たかった。何の飲み物が当たったんだろう缶を自販機の明かりにかざすと、今まで見たことが無い商品名だった。
「えっ?『異世界へのご招待』―――なんじゃこりゃ?」
炭酸系なのか、はたまたコーヒーなのか。シンプルな白い缶表面に書かれていたのは商品名なのか悩む文字だった。これでは中身が何なのかさっぱり分からない。原材料を見ようと缶を回したが原材料が書かれていない。代わりに違うことが書かれていた。
「キーワード。『行きたい』その一言で認可されます。―――って、だから、中身はなんなのよ?」
意味が分かんないんだけど。と思った瞬間、手にしていた缶から眩しい光があふれ出た。
「―――!!」
萌音は眩しさに目をとっさに閉じた。暗くなった視界と同時に体はエレベーターが急下降した時と同じような感覚に陥った。
道路の上にいたはずなのに下降の感覚に驚き一瞬で、まさかの道路陥没か!?と痛みを覚悟した。が、時間にして数秒経っても痛みはなく、落ちていく感覚も感じなくなっていた。
あれ?もしかして、ただの眩暈だった?
連日の疲れからくる体調不良だったのかなと思いながら目を開けた。すると、そこには在るべき筈の自販機も無ければ、アパートの姿も無かった。というか、外ですら無かった。
広い室内に幾つもの机が並び、数人の姿があった。
「―――どういうこと?」
萌音の驚きの声が零れ落ちた。
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