だって、コンプレックスなんですっ!

清杉悠樹

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本編

18 初めて指輪を貰っちゃいました

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 自分1人では絶対に入ることの無かったであろう宝飾店を目の前にし、デートに行くのはドライブかなと思っていたのに、いざ連れてこられたのは宝飾店。
 ここへ入れられてきたことに戸惑っている私の腰に手を回され中へ連れていかれたかと思うと、きらきらと笑顔が眩しい女性店員さんにすかさず宗司さんは「お揃いのものが欲しいのですが」と告げていた。
「こちらへどうぞ」
 私達はきらきら笑顔で迎えられた。店内は店員さんや装飾だけでなく、照明や壁といったものまで含めてどこもかしこも輝いていて見えてしまいクラクラしそうな程だった。
「ちょっ、宗司さん!?」
 恋人の証を身に付けて欲しいとは聞いたけど!
 まだ返事もしていないのになんでお揃いのという言葉が勝手に追加されてるんでしょうか!
 慌てて逃げ出そうと心みるも宗司さんにはさり気なくもがっしりと囲まれて逃げられなかった。
 文句を言ってやると思って宗司さんを見れば、これ以上ない笑顔で私の事を見てるじゃないですか!

 ・・・笑顔一つで納得させられた私ってどうなの。

 店員さんに案内され私が反論することすら出来ずに大人しく移動させられたのは、案内している店員さんの笑顔よりさらに眩しく光るリングが並べられているショーケースの前だった。
 ここまで来てしまったのなら仕方ないと環菜はやむを得ずケース内のリングに目を遣ると、ダイアモンド等の宝石をあしらったシルバーやゴールドの指輪が飾られていた。
「わ、綺麗・・・」
 続いて控えめに表示されている指輪横の本体価格を見て目を剥いた。
「高っ!っていうか、これってもろにブライダルリングじゃないですか!」
 持っていなくてもそれぐらいは分かる。これでもかという位に宝石が輝きを主張している指輪を目の前に環菜は強く言った。宗司がお揃いの物をと言ったので、店員はブライダルリングを進めたのだろう。
「駄目か?」
「駄目ですよっ、何言ってるんですか。まだ付き合ったばっかりじゃないですか!それなのにこんな高価なものなんて頂けません!私にはファッションリングでも十分すぎますからっ」
 子犬みたいな縋るような目でこっちを見ても譲りませんからねっ、駄目なものは駄目なんですっ!
 そう思ってきっ、と睨んだのに。宗司さんは見事にスルー。
「じゃあ仕事などでも付けられそうな普段使い出来るものを見せてもらえないだろうか」
 店員さんに新たな指示をお願してるし。
 ちっがーう!そうじゃなーい!
 声には出さずに態度で抗って見たものの。
「それでしたらこちらではいかがでしょう」
 ちょーっっっ、指輪の購入自体無くそうとしてるのにぃぃぃぃぃ。
 すかさず店員さんのお勧めで見せられたのはさっきのとは明らかに違い、デザインがとてもシンプルな指輪ばかりだった。細身のシルバーに控えめな石が付いているものもあれば、無いものも。それに価格が格段に違っていた。一桁違う。

 あ、ちょっといいかも。

 とても高価な指輪を見た後なので、今見ている指輪が環菜の中で許容範囲に思えた瞬間だった。

「これが好きかな?」
 数種類の中から環菜が選んだのは、女性用はシルバーに小さなダイヤモンドと青くて透き通ったサファイヤがはめ込まれたもので、男性用には石は付いてないペアリングだった。
 見た目的にも、お値段的にも心惹かれた指輪。
「では、これをお願いします」
 環菜が選んだ指輪を宗司さんも気に入ったようだった。
「有難うございます。それでは指輪のサイズを測らせていただけますか?」
 サイズを測ると、たまたま店にはそのサイズの指輪が有ったので宗司は直ぐに購入を決定した。

 店を出て、2人が繋いで歩く手にお揃いの指輪がそれぞれ眩い光を放っていた。

***

 宝飾店から宗司の車の助手席に座り、改めて自分の左薬指に輝いている送られたばかりの指輪を眺めると、自然に頬は緩んだ。
 私だって女だ。宝飾が嫌いなわけじゃない。指輪を送られることにそれなりの夢も憧れも持っていた。
「宗司さん、有難う」
「気に入ってもらえたのなら俺も嬉しいよ。ところで環菜、指輪を貰ったことは?」
「無いですよ、初めてですよ指輪貰ったの」
 元彼には旅行土産やちょっとした雑貨などは貰ったことはあるが、アクセサリーは無い。
「そうか、初めてか」
 と、車を走らせ運転しながらもちょっと嬉しそうにした。
「夕食はどうする?環菜の食べたいもの食べに行こう」
「あ、出来ればうちで食べないですか?指輪のお礼も兼ねて」
 と提案してみた。
「いいのか、昨日に引き続き、今日までご馳走になって」
「実は昨日買った魚をまだ下処理してなくてですね。今日使わないと・・・味が・・・落ち・・ちゃう・・・」
 話している途中から何故昨日買ったアジ(頭付き)の下処理が出来なかったのかということに思い至った。環菜の頭の中は今思い出してはしてはいけないあれこれに占拠され、顔を真っ赤にした。
 宗司もそれに気づいて空咳をして、漂い始めた甘い空気を打ち消した。
 暫くの間、車内は控えめな音楽だけが流れていた。

 環菜のアパート近くまで来たところで、ようやく宗司は口を開いた。
「環菜、出来れば指輪をずっと付けて欲しいって言ったら駄目か?」
「ずっと?ずっとって仕事中もってことですか?」
 ぴったりと指に収まっている送られたばかりの指輪を見つめた。
「そうだ。勿論俺も付ける。言っただろ?俺のつまらない嫉妬の回避の為にも恋人としての証の指輪を付けて欲しいって」
 確かに聞いたけど。
「でも嫉妬って。指輪は貰って嬉しいですけど、私に嫉妬なんて相手もいないのに必要ないと思いますよ?」
 モテない私に対して嫉妬なんていつするんだ、心配なんていらないと思う。
「・・・予想はしてたがやっぱり分かってなかったな。永井さんの報告聞いて俺がどれだけ嫉妬した事か。昼に企画部所属の男2人に食事に誘われただろう。あんなベタな下心満載な誘いに今後一切乗らないように」
 ?
「確かに食事には誘われましたけど、それって打ち合わせも兼ねた仕事の話でしたよ?」
 夏商品のPRも兼ねたブログのお仕事のことなのに。
「だからそれが下心ありなんだって。春の時はどうだったか思い出せ。打ち合わせは他の企画部の人間と俺も含めて会議室でやっただろう。それが上司に話すら通っていない状態でいきなり打ち合わせで外に連れ出すとか有り得ないだろう」
「えっ、それってそんな意味が本当に含まれてるんですか?私が大食いだからただ誘ったとかじゃなくて?」

 はぁぁぁぁ、宗司の長くて深いため息が信号待ちで止まった車に響いていた。

 昨日付き合い始めた10も年下の彼女を横目に、宗司は昨日食堂で見た環菜に興味を示していた奴らの中に、金井と神田が居たことを分かっている。
 金井環菜、神田環菜になる可能性があるぞとは絶対に口に出したくもない。
 どう説明するか真剣に悩まされる羽目になったのだった。

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