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本編
17 一応、これって初デートですよね!?
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帰宅してゆく他の社員に紛れて、背中に突き刺すような視線を感じることなく2人はエントランスを潜った。
環菜は歩きと電車で移動だと思って駅へ向かおうとしたら、宗司さんに車で行くと言われ、会社の裏手にある駐車場へ寄り添われるようにして歩いて行った。
昨日に続き今日も黒のセダン車の助手席へごく自然にエスコートされて座った。
こういう時、大切にされているなぁ感じてしまう。環菜は赤面とまではいかないが気恥ずかしさを感じてしまった。
いつかはこんなことも慣れることがあるのだろうか。そんな他愛もない心配事が頭を掠めた。
シートベルトを付けながら、今自分が着ている服装に目をやった。
デートに行くことになるだなんて思ってもいなかったから、定番の普段の白いブラウスに濃灰色のパンツスーツ姿で茶色のベルトと全くデート仕様でない。せめてブラウスが飾り気のないものよりフリル付きとか、スカートなら良かったのにと思った。
せっかく誘ってもらったのにこんな格好でいいのかな?とシートの上で環菜は居心地の悪さを感じた。
運転席に収まった宗司は助手席でもぞもぞとしている環菜に気が付いた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
昨日から無理をさせた覚えはあるので、今日の仕事の疲れと相まって具合が悪いのを我慢させているのかと不安に思った。
「いえ、全然ないです」
体調は全然問題ない。ただもうちょっと可愛い服だったら良かったなと思っただけだ。環菜は目の前で手を振って問題ないことをアピールした。
「なら、どうした?やっぱり強引にデートに誘ったが何か用事でもあったか?」
問題ないと言っているのに、理由を聞くまで納得してくれないらしい。車のエンジンもまだかけるつもりはない様だ。
えーと、言わなきゃ駄目なの?
右手はステアリングに掛けたまま、左手は私の左頬に伸ばされ、いつの間にか顔を覗き込む程の至近距離。私の事をありありと心配してるのが分かる程の心許ない表情を浮かべている。
宗司さん、仕事の時とプライベートでの落差が激しすぎるっ。
心配されているというのに、仕事では無表情が常な上司のその仕草と頬の温かみに胸はきゅーんと高鳴ると同時に、直接触れられている大きな手に、昨日抱かれたのだと思うと顔はみるみる紅潮したが、宗司さんはじっと私からの返事を待っていた。
あう。どうしよう。黙ったままなのは駄目だよね・・・。
もう1か月もすれば夏至になる今の時期。まだまだ日の入りには余裕がある。ビルの陰となっている会社の駐車場にいるので多少車内は見られにくいかも知れないが、誰かが近くまで来ればばっちり見える。キス直前のようなこの体勢に熱は更に上がった。
この現状から返事を聞くまでは待つつもりなのは分かった。他の人に見つかる前にと、ようやく服装の事を口にした。
「あの、ですね。全然大した事ないんです。せっかくデートに誘ってもらったのにこんな服装で悪いなー、なんて思ったりしてですね。ヒールも履いてますし・・・」
宗司が着ているスーツは環菜が着ているスーツよりやや明るい色の灰色で、よく見れば生地には細いストライプ柄だ。白いシャツにネクタイはストライプの滅紫(灰味のある暗い紫色)と背が高く、落ち着いた雰囲気を持つ宗司さんにはとても似合っていて素敵だなと思う。
それなのにそんなに高くないとはいえヒールを履いた私と並ぶと背の高さまでもが余り差がなくなってしまうのだ。
ひょろりとしたパンツスーツ姿の私が隣に立つ姿を嫌だとは思わないんだろうか。
「ん?」
聞きだした理由を聞いた宗司はぱちぱちと目を瞬かせると、添えられていただけの左手親指をゆっくりと頬をなぞる様に動かし、目には柔らかな笑みが浮かばせた。
「俺は環菜の颯爽と歩くスーツ姿が好きだけど?スーツにはそのヒールも似合ってると思うし。もちろん昨日のワンピース姿も好みだけれどね。清楚で鮮やかな青が環菜に良く似合ってた」
あ、甘いっ。宗司さんが甘いっ。おまけに蕩けそうな程の笑顔で褒めないでーっっ
車内は宗司さんが付けている香水だろうか、柑橘系で上品な爽やかな香りがする。環菜は慣れない褒め言葉と共にくらりとめまいを感じ身動ぎすると、そんな微かな衣擦れの音さえ聞こえてしまう狭い空間に二人きり。
早くどこかへ移動しよう!そうすればこんな気恥ずかしさから逃れることが出来る筈っ!
「宗司さんっ、早くデートに行きましょうっ!楽しみですっ」
右頬の大きな手を自分の両手で掴み、わざとらしい棒読みなセリフで無理やり話題を逸らした。
そんな照れている環菜に宗司はまた笑みを浮かべると、手を引っ込め運転する為に体を座席へと戻すとようやくエンジンをかけた。
車はゆっくりと進み始め、駐車場の徐行スピードから車道を速度規定で走り始めたところでようやく環菜はほっとすることが出来た。ここまで来れば次に知りたいのは行き先だ。
「どこに連れて行ってくれるんですか?」
「ん?まだ内緒」
そういって15分程車を走らせ連れてこられたのは、名前だけは知っていた宝飾店だった。入り口からして威圧感が半端ない。何故こんなところに連れてこられたのか理解できない。
「!?なんで!?」
入店する直前のドアの前で連れて来た本人に問い詰めた。
「説明もなしにいきなりこんなところに連れてきて済まん。俺のつまらない嫉妬の回避の為にも、どうしても環菜には身に付けて欲しいんだ。恋人としての証を」
恋人としての証------!?
約一時間後。
お互いの左手の薬指にはシンプルでさりげないデザインのリングが輝いていた。
環菜は歩きと電車で移動だと思って駅へ向かおうとしたら、宗司さんに車で行くと言われ、会社の裏手にある駐車場へ寄り添われるようにして歩いて行った。
昨日に続き今日も黒のセダン車の助手席へごく自然にエスコートされて座った。
こういう時、大切にされているなぁ感じてしまう。環菜は赤面とまではいかないが気恥ずかしさを感じてしまった。
いつかはこんなことも慣れることがあるのだろうか。そんな他愛もない心配事が頭を掠めた。
シートベルトを付けながら、今自分が着ている服装に目をやった。
デートに行くことになるだなんて思ってもいなかったから、定番の普段の白いブラウスに濃灰色のパンツスーツ姿で茶色のベルトと全くデート仕様でない。せめてブラウスが飾り気のないものよりフリル付きとか、スカートなら良かったのにと思った。
せっかく誘ってもらったのにこんな格好でいいのかな?とシートの上で環菜は居心地の悪さを感じた。
運転席に収まった宗司は助手席でもぞもぞとしている環菜に気が付いた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
昨日から無理をさせた覚えはあるので、今日の仕事の疲れと相まって具合が悪いのを我慢させているのかと不安に思った。
「いえ、全然ないです」
体調は全然問題ない。ただもうちょっと可愛い服だったら良かったなと思っただけだ。環菜は目の前で手を振って問題ないことをアピールした。
「なら、どうした?やっぱり強引にデートに誘ったが何か用事でもあったか?」
問題ないと言っているのに、理由を聞くまで納得してくれないらしい。車のエンジンもまだかけるつもりはない様だ。
えーと、言わなきゃ駄目なの?
右手はステアリングに掛けたまま、左手は私の左頬に伸ばされ、いつの間にか顔を覗き込む程の至近距離。私の事をありありと心配してるのが分かる程の心許ない表情を浮かべている。
宗司さん、仕事の時とプライベートでの落差が激しすぎるっ。
心配されているというのに、仕事では無表情が常な上司のその仕草と頬の温かみに胸はきゅーんと高鳴ると同時に、直接触れられている大きな手に、昨日抱かれたのだと思うと顔はみるみる紅潮したが、宗司さんはじっと私からの返事を待っていた。
あう。どうしよう。黙ったままなのは駄目だよね・・・。
もう1か月もすれば夏至になる今の時期。まだまだ日の入りには余裕がある。ビルの陰となっている会社の駐車場にいるので多少車内は見られにくいかも知れないが、誰かが近くまで来ればばっちり見える。キス直前のようなこの体勢に熱は更に上がった。
この現状から返事を聞くまでは待つつもりなのは分かった。他の人に見つかる前にと、ようやく服装の事を口にした。
「あの、ですね。全然大した事ないんです。せっかくデートに誘ってもらったのにこんな服装で悪いなー、なんて思ったりしてですね。ヒールも履いてますし・・・」
宗司が着ているスーツは環菜が着ているスーツよりやや明るい色の灰色で、よく見れば生地には細いストライプ柄だ。白いシャツにネクタイはストライプの滅紫(灰味のある暗い紫色)と背が高く、落ち着いた雰囲気を持つ宗司さんにはとても似合っていて素敵だなと思う。
それなのにそんなに高くないとはいえヒールを履いた私と並ぶと背の高さまでもが余り差がなくなってしまうのだ。
ひょろりとしたパンツスーツ姿の私が隣に立つ姿を嫌だとは思わないんだろうか。
「ん?」
聞きだした理由を聞いた宗司はぱちぱちと目を瞬かせると、添えられていただけの左手親指をゆっくりと頬をなぞる様に動かし、目には柔らかな笑みが浮かばせた。
「俺は環菜の颯爽と歩くスーツ姿が好きだけど?スーツにはそのヒールも似合ってると思うし。もちろん昨日のワンピース姿も好みだけれどね。清楚で鮮やかな青が環菜に良く似合ってた」
あ、甘いっ。宗司さんが甘いっ。おまけに蕩けそうな程の笑顔で褒めないでーっっ
車内は宗司さんが付けている香水だろうか、柑橘系で上品な爽やかな香りがする。環菜は慣れない褒め言葉と共にくらりとめまいを感じ身動ぎすると、そんな微かな衣擦れの音さえ聞こえてしまう狭い空間に二人きり。
早くどこかへ移動しよう!そうすればこんな気恥ずかしさから逃れることが出来る筈っ!
「宗司さんっ、早くデートに行きましょうっ!楽しみですっ」
右頬の大きな手を自分の両手で掴み、わざとらしい棒読みなセリフで無理やり話題を逸らした。
そんな照れている環菜に宗司はまた笑みを浮かべると、手を引っ込め運転する為に体を座席へと戻すとようやくエンジンをかけた。
車はゆっくりと進み始め、駐車場の徐行スピードから車道を速度規定で走り始めたところでようやく環菜はほっとすることが出来た。ここまで来れば次に知りたいのは行き先だ。
「どこに連れて行ってくれるんですか?」
「ん?まだ内緒」
そういって15分程車を走らせ連れてこられたのは、名前だけは知っていた宝飾店だった。入り口からして威圧感が半端ない。何故こんなところに連れてこられたのか理解できない。
「!?なんで!?」
入店する直前のドアの前で連れて来た本人に問い詰めた。
「説明もなしにいきなりこんなところに連れてきて済まん。俺のつまらない嫉妬の回避の為にも、どうしても環菜には身に付けて欲しいんだ。恋人としての証を」
恋人としての証------!?
約一時間後。
お互いの左手の薬指にはシンプルでさりげないデザインのリングが輝いていた。
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