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本編
14 そんな用心要りませんから
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更衣室には運よく環菜達の他には誰もいなかった。メイク直しは各自のデスクに化粧ポーチを置いている人が多いみたいだから、きっとトイレで済ます人が殆どなのだろう。キスマークを化粧で誤魔化しているところを見られなくて良かったーと胸を撫で下ろした。
椿のロッカーに常備していた化粧品を借りて彼女に消して貰っている。
少し膝を曲げた状態でそのまま維持をするのは少し疲れる姿勢だったけど、贅沢は言えない。背の低い椿にばっちり見られてしまうのは既にみられているのだからしょうがないと諦めるとして、他人に見られては困る跡を消して貰う為だと我慢した。
時間にして2分程だろうか。夕べの何度もしたあれこれのせいもあって体力が低下しているらしい。短い時間だというのに膝がぷるぷるし始めた。
辛い。辛いよ、この姿勢は。これじゃあ空気椅子もどきだよっ。ひーっ、足攣りそうだよ。
運動不足気味な環菜にはちょっと辛い体勢だった。
「はい、第1ミッションは無事終了~」
ぽんと背中を椿に叩かれて、環菜は曲げていた膝をようやく真っすぐに伸ばすことが出来た。
ふう。疲れた。
終了したと言われたがやっぱり自分の目でどうなっているのか確認も取りたくて、念のために合わせ鏡で首の後ろを確認してみたけれど余程近づかない限りバレる心配はなさそうだった。綺麗に塗られている。凄い早業に拍手を送りたい程だ。
「有難う、椿~」
せめてものお礼にハグをして感謝を伝えた。
椿が言ってくれなかったらずっと午後からも気づかないまま晒してたよ、きっと。誰も気づかなかったかも知れないけれど、気づく人もいたかも知れない。
誰かにキスマークを気づかれる、そんな姿を想像してしまい身震いしてしまった。怖い。マジ怖い。
午前中は誰にも気づかれてませんよーに!
環菜は心の中で割と真剣に神様に祈った。
もーっっっ、付き合い始めたことは暫く隠したかったのに宗司さんはそんな気はないみたいだし、おまけにこんな印まで勝手に付けてるし!
腹が立ってしょうがない。さっき本人に直接文句を言いたかったのに、帰りにいきなりデートだなんて言われて怒りの矛先がそれてしまい言えなかったから怒りがまだ未消化だ。
後で絶対に文句言わなきゃと心に決めた。
「どういたしまして。それより休憩時間もそろそろ終わることだし、明日のランチの為に気合入れて第2ミッション行きますかー!」
椿は使っていた化粧品をポーチへ入れ、ロッカーへ戻しながらかなり上機嫌そう。明日のランチの為というのが多少引っかかりながらも、環菜達は更衣室を後にした。
「ねぇ、だからそのミッションっていったい何なの?」
そろそろ私にも分かるように説明して欲しい。食堂で宗司さんと椿の間では特に細かい説明もないまま会話が成立していたが、どういうことなのか。今もさっぱり分からない。
「ん?職場に戻るまで環菜の護衛?」
護衛って。そんな説明じゃよけい意味が分からない。
「なんで職場に戻るだけなのに護衛が必要なワケ?危険な所なんて何1つないよ?もう少し分かりやすく説明して欲しいんだけど」
同じビルの中を移動するだけなのに、何の危険があるというのか。私にはやっぱり理解不能。
「私達が居るのは更衣室前。今からもう一度食堂の前を通って、休憩コーナー、喫煙室を通ってエレベーターに乗って2階から3階に行くじゃない?」
「うん」
それが一体何だというのだろう。わざわざ説明することなんて必要がない分かり切った順路だ。
丁度環菜達が食堂前を通過しようとした時に中からそれぞれの職場へと戻る社員が何人も廊下へと出てきた。
急に賑やかになった人波に紛れながらも椿は私と離れないように気を付けながら周りよりペースを少し上げるようにして歩いた。
「今日はエレベータを使わないで、階段を使うから、こっちこっち」
エレベーター待ちしている人の列に並ぼうとして椿に腕を引っ張られ、すぐ横にある階段へと向かった。
「さっき私が食堂で彼氏に振られたことを大声で言ってしまったじゃない?だから、フリーになった環菜に男達からの告白を阻止することが課長から貰った私の仕事。理解出来た?」
いや、出来てない。っていうか出来ないよ。
「何、その理由。それじゃあ私がまるでモテ女みたいじゃない。有り得ないからそんなこと」
なんなの、その仕事って。他人に聞かれたらどんな痛い奴なのって笑われちゃうから。っていうか、私の方が椿の妄想話に可笑しくなってあははと笑ってしまった。
宗司さんはそんなこと頼まないって。絶対椿の勘違いだと思うよ。キスマークの事だけで護衛なんて椿が見当違いに深読みしすぎなだけだって。その読み外れてるから。
「分かってないなー、環菜は。自分がどれだけ独身の男たちに人気あるのか。男の中には自分より背の大きな女を苦手とする人も確かにいるけど、そうじゃない人が結構多いんだから。彼氏が居なくて、モデルみたいにすらっとして綺麗で、愛想も良いなんて男が放って置く訳ないじゃん。おまけに料理上手だもん。私が男なら絶対に捕まえるね!というか、男じゃなくても環菜のことはお嫁さんに欲しい位に大好きだけどね」
そう言って最後は椿には笑ってお道化られたけど。
「ええーっ、ないない。絶対にないからそんなこと」
たまたま奇跡的に元カレと付き合えたことが有ったくらいで、今まで生きて来た中そんなモテた事なんて全くこれっぽっちもないのだから。胸を張って言えちゃうぐらいだよ。
「椿の気のせい。勘違い。護衛が必要になることなんてほんと無いから」
きっぱりと言い切った。
「じゃあ木槌課長の事はどう説明するつもり?」
あ。・・・確かに。
「たまたま、だよ。たまたま。課長だけだってそんな奇特な人は。3階に行くまでの短い距離で私にそんなことを言うもの好きなんて誰も居ないって。でも、課長の事を好きな女の人からのやっかみは怖いから椿が傍にいてくれるのはかなり心強いよ。有難う」
宗司さんがモテる人だというのはずっと前から知ってるから。職場でのちくちく視線には慣れることはないと思うけど、気心が知れる椿が傍に居てくれると乗り切れる気がするから。
「もー、本当に環菜は自分の評価が低すぎたよ」
私の感謝の言葉に少し照れているようだった。
椿のロッカーに常備していた化粧品を借りて彼女に消して貰っている。
少し膝を曲げた状態でそのまま維持をするのは少し疲れる姿勢だったけど、贅沢は言えない。背の低い椿にばっちり見られてしまうのは既にみられているのだからしょうがないと諦めるとして、他人に見られては困る跡を消して貰う為だと我慢した。
時間にして2分程だろうか。夕べの何度もしたあれこれのせいもあって体力が低下しているらしい。短い時間だというのに膝がぷるぷるし始めた。
辛い。辛いよ、この姿勢は。これじゃあ空気椅子もどきだよっ。ひーっ、足攣りそうだよ。
運動不足気味な環菜にはちょっと辛い体勢だった。
「はい、第1ミッションは無事終了~」
ぽんと背中を椿に叩かれて、環菜は曲げていた膝をようやく真っすぐに伸ばすことが出来た。
ふう。疲れた。
終了したと言われたがやっぱり自分の目でどうなっているのか確認も取りたくて、念のために合わせ鏡で首の後ろを確認してみたけれど余程近づかない限りバレる心配はなさそうだった。綺麗に塗られている。凄い早業に拍手を送りたい程だ。
「有難う、椿~」
せめてものお礼にハグをして感謝を伝えた。
椿が言ってくれなかったらずっと午後からも気づかないまま晒してたよ、きっと。誰も気づかなかったかも知れないけれど、気づく人もいたかも知れない。
誰かにキスマークを気づかれる、そんな姿を想像してしまい身震いしてしまった。怖い。マジ怖い。
午前中は誰にも気づかれてませんよーに!
環菜は心の中で割と真剣に神様に祈った。
もーっっっ、付き合い始めたことは暫く隠したかったのに宗司さんはそんな気はないみたいだし、おまけにこんな印まで勝手に付けてるし!
腹が立ってしょうがない。さっき本人に直接文句を言いたかったのに、帰りにいきなりデートだなんて言われて怒りの矛先がそれてしまい言えなかったから怒りがまだ未消化だ。
後で絶対に文句言わなきゃと心に決めた。
「どういたしまして。それより休憩時間もそろそろ終わることだし、明日のランチの為に気合入れて第2ミッション行きますかー!」
椿は使っていた化粧品をポーチへ入れ、ロッカーへ戻しながらかなり上機嫌そう。明日のランチの為というのが多少引っかかりながらも、環菜達は更衣室を後にした。
「ねぇ、だからそのミッションっていったい何なの?」
そろそろ私にも分かるように説明して欲しい。食堂で宗司さんと椿の間では特に細かい説明もないまま会話が成立していたが、どういうことなのか。今もさっぱり分からない。
「ん?職場に戻るまで環菜の護衛?」
護衛って。そんな説明じゃよけい意味が分からない。
「なんで職場に戻るだけなのに護衛が必要なワケ?危険な所なんて何1つないよ?もう少し分かりやすく説明して欲しいんだけど」
同じビルの中を移動するだけなのに、何の危険があるというのか。私にはやっぱり理解不能。
「私達が居るのは更衣室前。今からもう一度食堂の前を通って、休憩コーナー、喫煙室を通ってエレベーターに乗って2階から3階に行くじゃない?」
「うん」
それが一体何だというのだろう。わざわざ説明することなんて必要がない分かり切った順路だ。
丁度環菜達が食堂前を通過しようとした時に中からそれぞれの職場へと戻る社員が何人も廊下へと出てきた。
急に賑やかになった人波に紛れながらも椿は私と離れないように気を付けながら周りよりペースを少し上げるようにして歩いた。
「今日はエレベータを使わないで、階段を使うから、こっちこっち」
エレベーター待ちしている人の列に並ぼうとして椿に腕を引っ張られ、すぐ横にある階段へと向かった。
「さっき私が食堂で彼氏に振られたことを大声で言ってしまったじゃない?だから、フリーになった環菜に男達からの告白を阻止することが課長から貰った私の仕事。理解出来た?」
いや、出来てない。っていうか出来ないよ。
「何、その理由。それじゃあ私がまるでモテ女みたいじゃない。有り得ないからそんなこと」
なんなの、その仕事って。他人に聞かれたらどんな痛い奴なのって笑われちゃうから。っていうか、私の方が椿の妄想話に可笑しくなってあははと笑ってしまった。
宗司さんはそんなこと頼まないって。絶対椿の勘違いだと思うよ。キスマークの事だけで護衛なんて椿が見当違いに深読みしすぎなだけだって。その読み外れてるから。
「分かってないなー、環菜は。自分がどれだけ独身の男たちに人気あるのか。男の中には自分より背の大きな女を苦手とする人も確かにいるけど、そうじゃない人が結構多いんだから。彼氏が居なくて、モデルみたいにすらっとして綺麗で、愛想も良いなんて男が放って置く訳ないじゃん。おまけに料理上手だもん。私が男なら絶対に捕まえるね!というか、男じゃなくても環菜のことはお嫁さんに欲しい位に大好きだけどね」
そう言って最後は椿には笑ってお道化られたけど。
「ええーっ、ないない。絶対にないからそんなこと」
たまたま奇跡的に元カレと付き合えたことが有ったくらいで、今まで生きて来た中そんなモテた事なんて全くこれっぽっちもないのだから。胸を張って言えちゃうぐらいだよ。
「椿の気のせい。勘違い。護衛が必要になることなんてほんと無いから」
きっぱりと言い切った。
「じゃあ木槌課長の事はどう説明するつもり?」
あ。・・・確かに。
「たまたま、だよ。たまたま。課長だけだってそんな奇特な人は。3階に行くまでの短い距離で私にそんなことを言うもの好きなんて誰も居ないって。でも、課長の事を好きな女の人からのやっかみは怖いから椿が傍にいてくれるのはかなり心強いよ。有難う」
宗司さんがモテる人だというのはずっと前から知ってるから。職場でのちくちく視線には慣れることはないと思うけど、気心が知れる椿が傍に居てくれると乗り切れる気がするから。
「もー、本当に環菜は自分の評価が低すぎたよ」
私の感謝の言葉に少し照れているようだった。
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