だって、コンプレックスなんですっ!

清杉悠樹

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本編

10 それを今言いますかっ!

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「やあんっ、もう駄目っ、もお無理ー、あっあっ、あんっ」
 再開され時間をかけて木槌から愛撫され、喘がされ続け、狭いベッドの上で息も絶え絶えになっている。

 こんな愛され方なんて知らないっ
 不感症だとすら思っていた筈なのに、違っていたの?

 何度もイカされ、体もシーツも汗とその他の液でぐしゅぐしゅだ。
「乱れる姿もイイね。環菜・・・イって?」
 耳元では魅力的すぎる低音の熱い囁きを受け、いくつも赤い跡を残された胸は指先でねっとりと捏ねられ、埋められている秘所は更に早い抽挿を繰り返され、環菜はあっという間に登り詰めた。



 ベッドに張り付いたまま動けずにいる私の体は、後ろからやんわりと抱きしめた状態でふたりは裸のまま。背中に感じる熱く感じる鼓動はどちらのものか分からないほどにぴったりと合わさっている。何度もイって疲労困憊。現実に自分の身の上にこんなこと起きるなんて想定外もいいところだ。
 だからと言って、嫌じゃなかったというか、良すぎた所が困ったような、そうでないような。自分のお尻に当たっている何かが気になるんだけど、自分の首を絞めることになりそうなので気が付いてないふりをした。
 心頭を滅却すれば火もまた涼し、だ!。(←使いどころが違ってる)

 木槌は抱きしめている環菜の髪に唇を寄せたあと顔を埋めた。
「環菜が考えていたような名前がコンプレックスに感じることがない苗字ではないだろうけど、俺の気持ちが真剣だというのは分かったくれた?足りないなら分かってくれるまでまだまだ抱くけど」
「えっ、結構ですっ。十分わかりましたからっ」
 抱かれたことは気持ちは良かったけど。良すぎたけどっ。こんなことをまだ続けられたら私の体が持たないと血の気が引く思いだった。

 ん?
 何だろう、今の会話の中に一瞬もやっと感じた部分があったような。何だっけ?
 体の疲れで頭の回転が鈍くなってるのかな。何か重要なキーワードを言ってた気がするんだけど。

「そう?それはそれで残念だな。まだまだ抱き足りないんだけど。仕方ない、次回は覚悟しておいて」
「えええぇ!?」
 これ以上!?まだ抱き足りないってどういうこと?
 環菜はもう一度今から抱かれたらどうしようと引き攣り固まった。その間に小さな疑問は消えてしまった。
 木槌は沈黙を了承と受け取ったのか、そのまま話を続けた。
「でも、・・・心配なことがあるんだ」
「心配って?」
 課長にしては告げていいものかどうか迷っているようだ。言い辛そうにしているなんて普段決断が早くて的確な仕事をしている課長には珍しい事だった。
「付き合ったばかりで気が早いと言われるかも知れないけど、もし俺たちが結婚するとなれば三田環菜から木槌環菜になる。それでも構わない?新しい名前が新たなコンプレックスになったりしない?どうしても嫌なら俺が三田家へ婿養子に入って三田宗司になっても全然構わないんだが、それじゃあ環菜の元々のコンプレックスの解消に成らないよな」
 最後に少しばかりの溜め息が聞こえた。
「ちょっと待って」
 今課長はなんて言った?聞き捨てならないことを言った、よね?

 私が課長と結婚すれば三田環菜(さんたかんな)から木槌環菜(きづちかんな)に?
 新たなコンプレックスに感じるかもしれないのは、きづちかんな?それに、三田宗司(さんたそうじ)ってどういうこと?

 きづち、かんな。さんたそうじ。

 ------大工道具に、サンタの煙突掃除―――!?

 環菜の頭の中は、実家の二階建ての屋根の上に何故か自分と課長がいて、環菜は大工道具の木槌とカンナを持って煙突を作っていて、木槌サンタが煙突を掃除している姿が渦巻いた。
 クリスマスなのか、環菜も木槌もサンタの服を着て、雪が降る夜中に二人楽しそうに作業している姿が頭から消えてくれない。

 両手をベッドに着いたまま環菜は項垂れた。木槌課長が言いにくそうにしていた理由が分かったところで、環菜は気が遠くなった気がした。いや、気がしたどころじゃない。

 なんという迂闊さだ!振られて凹んでいたとはいえ、こんなことに気が付かないなんて!
 体力も限界を超えたところに、精神までガリガリ削られた。
「気絶しそう・・・」
 さっきイク直前に感じた白いちかちかする景色とは正反対に、今度は音が遠のいていくと同時に黒い世界へと引き込まれていく。
「えっ?何か言った?」
 真っ青な顔をして呟いた私の声は聞こえづらかったらしい。聞き返した課長は私の顔を後ろから覗き込み真っ白な顔色を見てぎょっと目を見開いた。

 ふらー、ぱたり。

「ちょっ、ちょっと環菜―――!?」

 宣言通りに倒れた私を見て、その後課長はものすごく焦っていた、らしい。
 倒れたと言っても、私はすぐに目を覚ましたから何度ももう大丈夫と言ったけれど、聞いてもらえなかった。こんなに誰かを心配している課長の顔は初めて見た。

 課長は俺が無理をさせたからと頑として聞かず、起き上がろうとする私をベッドに寝かしつけ、あれこれと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、それはもう甘やかされまくってしまった。
 体を温めたタオルで拭いてくれたり、髪を梳いてくれたり、冷たい水を持ってきてくれたり、はてはパジャマを着せてくれたりと色々だ。拒絶したくても、何度も抱かれた体は力が入らなくてされるがままだった。
「私はこんなにもへとへとなのに、どうして課長は」
「宗司」
「・・・宗司さんはそんなに元気そうなんですか。理不尽です」
 すかさず呼び名の訂正が入った。
 私の体が言うことを聞いてくれないので着がえをされているところだ。

 パジャマの袖に腕を通すだけの動きなのに、腕が重いなんてどういうことだ。悔しいからせめてもの反撃で腕が重くて使えない代わりに、自分の頭を宗司さんの胸にぐりぐりと捩じり込んでやった。
なのに何故かその仕草が押してはいけないスイッチを押したらしく、危うくもう一度抱かれそうになった。
「もししたら、名前もう呼びませんからねっ」
「まだ足りないのに・・・。誘ったのは環菜の方なのに」
「そんなことしてません!」
 宗司さんはぶちぶち言いながらも留まってくれたようだ。そんなに課長呼びが嫌なのか。
 全くどんだけ体力が有り余ってるんだ!私よりずっと年上なくせして!くやしーっっ。

 結局、宗司さんはしぶしぶもう一戦は諦めると、私の狭いベッドに朝が明けるまで添い寝した。
 私も数時間の深い眠りが出来たことで体力がいくらか戻った。なのでいつもより早い朝ごはんを用意して二人一緒に食べてから宗司さんは自宅へと帰っていった。
 本当は私が仕事に行ける準備を終えるのを待ってから、宗司さんの住むマンションまで車で一緒に行って会社へ行きたいと言っていたけれど、付き合ってしょっぱなから噂されるのは嫌なので、もちろんそれは全力で遠慮した。
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