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10/31は何の日?
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「私、浩介さんが描いたくろちゃんのマグカップが欲しいなぁ。駄目?」
環菜が勤めている西島ではとんとん拍子に話は進んで、ハロウィンイベントをクレマチスですることが正式に決定した。
最終的に巧が提案したように店では普段使わないような無いタイプの食器を使わせてもらえることが決まり(後日、値引きしてもらい購入することになった)、白色の耐熱性食器に陶磁器用ペンで絵を描くことでオリジナル食器を体験してもらうことになったのだ。
イベントはいよいよ来週へと迫った中、彩華は無事女の子を出産したので里帰りをしている。週末に車で妻と娘に会いに来てくれた。
まだ生まれて3週間しか経っていない我が娘をぎこちなく抱き上げている浩介に向かって彩華はおねだりをしてみた。
「俺が描いたものですか・・・」
「駄目?」
もう一度お願いをすると、うっと声を詰まらせる夫の姿に無理を言ったかと彩華はしゅんとした。そんな気落ちした姿を見た浩介は慌てて弁解した。
「実は絵を描くことがどちらかと言えば苦手なんですよ」
彩華がお願いをしたこと自体が嫌なのではなかったらしい。浩介は苦笑いを浮かべていた。
「えっ?そうなの?知らなかった」
そう言えば描いた絵は見たことがないかもしれない。店のドアにある猫は遼一さんが描いたって聞いたのを彩華は思い出した。
「だからあまり期待されると困るんですけど、それでもいいのなら」
「いいの?」
「かなり下手ですけどね」
そう言って浩介は念を押した。
「ううん、有難う。我儘聞いてくれて」
「どういたしまして。育児で疲れている彩華さんが少しでも喜んでくれるのなら」
娘が腕の中で居心地が悪いのか、声を出してむずかり始めたので浩介は妻へと手渡した。するとあっという間に娘の機嫌が回復したのを見て、がくりと項垂れた新米の父だった。
***
イベント終了して数日経った週末に浩介は彩華と娘に会いに車を走らせた。
家に着くと丁度娘は母乳を飲んで丁度お昼寝を始めたところだった。浩介は彩華に頼まれていたマグカップを差し出したが恥ずかしいのか頬が少し赤く染まっていた。
「微妙な感じのくろになっちゃいましたけど・・・」
「えっ、可愛いっ!有難う、浩介さん。毎日使わせてもらうね」
これから段々寒くなっていくから、大きなマグカップはとても重宝することだろう。使う前からすでに彩華のお気に入りとなった。
「ああ、そうだ。俺の他にも作った人の写真撮ったのがあるんですけど、見ますか?」
「わ、見る、見る」
彩華が嬉しそうにカップをいろんな角度から熱心に見ているのを照れくさく思いながら浩介は携帯を操作した。
「これは遼一のですね」
まず初めに見せたのは遼一が描いたくろのマグカップだ。
「遼一さんもくろちゃん描いたんだ。クローバーまで描いてある。かっわいいー」
浩介は自分の物を見せた時よりも、今彩華が見せた笑顔の度合いの方が大きかったのは仕方がないと即座に諦めた。
カップに描かれているのは流石にプロだけあって文句なしにバランスが良く、デザイン的にも可愛いものだった。確かに遼一のものは素晴らしい出来で、自分には無理だと悟ったからだ。
「ええ、俺がくろを描いたのを見て、何故か皆くろばかり描いてしまったんですよ」
「あれ?反対側にサインがしてある」
絵の反対に遼一と巧のペンネームのサインがしてあった。
「実は遼一がこれを作っている時に椿さんがどうしても欲しいとおっしゃって。サインも入れて欲しいとお願いをされて。普段そんなことを言う人ではないのは遼一も巧も知っていますから、不思議に思って聞いたんです。理由は長年片思いしている人にこれをあげることで恋にケリをつけたいから、とそうおっしゃって」
その理由を聞いた二人は「頑張って」と了承して名前を書いてくれたのだ。
勿論椿があげる予定の彼には作者本人から貰ったカップの事はネットワークなどで流用など絶対にしない、他言無用も約束して。
「椿さん、恋にケリをつけたいからってお願いしたんだ。って、それって振られること前提にしてない?」
普通なら恋を叶えるためにお願いしそうなものなのに。ケリをつけるというからには振られることが望みなのだろう。彩華は浩介に確認した。
「みたいですね。なんでも相手は社内でも相当モテる人なのだとか」
「そっかー・・・。難しいね」
恋は色々と複雑だ。
プロの作品の次に見せてもらったのは雪之丞さんの絵。こちらはめちゃくちゃリアルなくろちゃんだった。
「うわっ、くろちゃんに対する想いが溢れてるって感じ」
「ですよね」
続いて環菜のを見せて貰った。
「きゃー、環菜ちゃんのくろちゃん可愛い」
遼一のと同じくらいに喜んでいた。
「彩華さん。喜んでいるところ申し訳ないのですが、次の宗司さんの作品で最後なのですが、驚かないでくださいね」
「えっ、驚くような絵なの?」
最後の写真を見せられた彩華は説明されていたが驚愕に相応しいだった。
「・・・うわっ、---凄いね---」
「でしょう。俺も吃驚しました。さらに吃驚したのはその絵は環菜さんが描いたくろの絵を手本として描いたものらしいんですよ」
「えっ、環菜ちゃんのくろを手本にしてこれなの!?」
全然別物だと彩華は驚愕しているようだ。無理もない。その場にいた全員も同じことを思ったのだから。
「で、その時に宗司さんが言ったセリフがですね、『だから俺が描いたのもその猫だって。どこをどう見ても一緒だろう』だったんですけど、誰も反応出来なくて本気で困りました」
「・・・それはー・・・、そうだよねぇ。誰が見ても環菜ちゃんの絵を見て描いたものって分からないと思うよ、これ。ハロウィンだからお化けとか魔物を描いたって言われた方がよっぽど納得出来るんだけど」
「・・・それは俺も思いました。でも、本人はきっぱりと否定してましたからね」
浩介から貰ったカップを手にしたまま、うーんと彩華は唸っている。
「で、これの行方が物凄く気になるんだけど、どうなったの?」
「一応木槌家で使うことになったそうですよ。でも、この写真を後で遼一にも見せたんですけど、妙に気に入ったらしくて。今度宗司さんに会ったらこのイラストを幾つか描いてオリジナル食器欲しいなって言ってましたよ」
「えええええーっ、幾つも!?」
1つでも怖いのに、と引き攣っている。
「ええ、カップの他にも皿やスープ皿、グラタン皿に描いて欲しいって。俺には時々遼一が分かりません」
「でも、怖いけど、見て見たい気はする。好奇心がなおさら煽られるっていうか、正に怖いもの見たさって感じだけど」
「まあ、なんとなく俺もそう思いますけどね。万が一、その写真が手に入ったら彩華さんにも見せますね」
「うん、お願い」
そして、年内には遼一の元へ沢山の宗司オリジナルシリーズが届き、それを見た奥さんの七海さんから物凄く不評を買ったのだとか。
その勢ぞろいした写真を見た彩華は、声に出して感想を言うことなく携帯を浩介へと戻すのだった。
環菜が勤めている西島ではとんとん拍子に話は進んで、ハロウィンイベントをクレマチスですることが正式に決定した。
最終的に巧が提案したように店では普段使わないような無いタイプの食器を使わせてもらえることが決まり(後日、値引きしてもらい購入することになった)、白色の耐熱性食器に陶磁器用ペンで絵を描くことでオリジナル食器を体験してもらうことになったのだ。
イベントはいよいよ来週へと迫った中、彩華は無事女の子を出産したので里帰りをしている。週末に車で妻と娘に会いに来てくれた。
まだ生まれて3週間しか経っていない我が娘をぎこちなく抱き上げている浩介に向かって彩華はおねだりをしてみた。
「俺が描いたものですか・・・」
「駄目?」
もう一度お願いをすると、うっと声を詰まらせる夫の姿に無理を言ったかと彩華はしゅんとした。そんな気落ちした姿を見た浩介は慌てて弁解した。
「実は絵を描くことがどちらかと言えば苦手なんですよ」
彩華がお願いをしたこと自体が嫌なのではなかったらしい。浩介は苦笑いを浮かべていた。
「えっ?そうなの?知らなかった」
そう言えば描いた絵は見たことがないかもしれない。店のドアにある猫は遼一さんが描いたって聞いたのを彩華は思い出した。
「だからあまり期待されると困るんですけど、それでもいいのなら」
「いいの?」
「かなり下手ですけどね」
そう言って浩介は念を押した。
「ううん、有難う。我儘聞いてくれて」
「どういたしまして。育児で疲れている彩華さんが少しでも喜んでくれるのなら」
娘が腕の中で居心地が悪いのか、声を出してむずかり始めたので浩介は妻へと手渡した。するとあっという間に娘の機嫌が回復したのを見て、がくりと項垂れた新米の父だった。
***
イベント終了して数日経った週末に浩介は彩華と娘に会いに車を走らせた。
家に着くと丁度娘は母乳を飲んで丁度お昼寝を始めたところだった。浩介は彩華に頼まれていたマグカップを差し出したが恥ずかしいのか頬が少し赤く染まっていた。
「微妙な感じのくろになっちゃいましたけど・・・」
「えっ、可愛いっ!有難う、浩介さん。毎日使わせてもらうね」
これから段々寒くなっていくから、大きなマグカップはとても重宝することだろう。使う前からすでに彩華のお気に入りとなった。
「ああ、そうだ。俺の他にも作った人の写真撮ったのがあるんですけど、見ますか?」
「わ、見る、見る」
彩華が嬉しそうにカップをいろんな角度から熱心に見ているのを照れくさく思いながら浩介は携帯を操作した。
「これは遼一のですね」
まず初めに見せたのは遼一が描いたくろのマグカップだ。
「遼一さんもくろちゃん描いたんだ。クローバーまで描いてある。かっわいいー」
浩介は自分の物を見せた時よりも、今彩華が見せた笑顔の度合いの方が大きかったのは仕方がないと即座に諦めた。
カップに描かれているのは流石にプロだけあって文句なしにバランスが良く、デザイン的にも可愛いものだった。確かに遼一のものは素晴らしい出来で、自分には無理だと悟ったからだ。
「ええ、俺がくろを描いたのを見て、何故か皆くろばかり描いてしまったんですよ」
「あれ?反対側にサインがしてある」
絵の反対に遼一と巧のペンネームのサインがしてあった。
「実は遼一がこれを作っている時に椿さんがどうしても欲しいとおっしゃって。サインも入れて欲しいとお願いをされて。普段そんなことを言う人ではないのは遼一も巧も知っていますから、不思議に思って聞いたんです。理由は長年片思いしている人にこれをあげることで恋にケリをつけたいから、とそうおっしゃって」
その理由を聞いた二人は「頑張って」と了承して名前を書いてくれたのだ。
勿論椿があげる予定の彼には作者本人から貰ったカップの事はネットワークなどで流用など絶対にしない、他言無用も約束して。
「椿さん、恋にケリをつけたいからってお願いしたんだ。って、それって振られること前提にしてない?」
普通なら恋を叶えるためにお願いしそうなものなのに。ケリをつけるというからには振られることが望みなのだろう。彩華は浩介に確認した。
「みたいですね。なんでも相手は社内でも相当モテる人なのだとか」
「そっかー・・・。難しいね」
恋は色々と複雑だ。
プロの作品の次に見せてもらったのは雪之丞さんの絵。こちらはめちゃくちゃリアルなくろちゃんだった。
「うわっ、くろちゃんに対する想いが溢れてるって感じ」
「ですよね」
続いて環菜のを見せて貰った。
「きゃー、環菜ちゃんのくろちゃん可愛い」
遼一のと同じくらいに喜んでいた。
「彩華さん。喜んでいるところ申し訳ないのですが、次の宗司さんの作品で最後なのですが、驚かないでくださいね」
「えっ、驚くような絵なの?」
最後の写真を見せられた彩華は説明されていたが驚愕に相応しいだった。
「・・・うわっ、---凄いね---」
「でしょう。俺も吃驚しました。さらに吃驚したのはその絵は環菜さんが描いたくろの絵を手本として描いたものらしいんですよ」
「えっ、環菜ちゃんのくろを手本にしてこれなの!?」
全然別物だと彩華は驚愕しているようだ。無理もない。その場にいた全員も同じことを思ったのだから。
「で、その時に宗司さんが言ったセリフがですね、『だから俺が描いたのもその猫だって。どこをどう見ても一緒だろう』だったんですけど、誰も反応出来なくて本気で困りました」
「・・・それはー・・・、そうだよねぇ。誰が見ても環菜ちゃんの絵を見て描いたものって分からないと思うよ、これ。ハロウィンだからお化けとか魔物を描いたって言われた方がよっぽど納得出来るんだけど」
「・・・それは俺も思いました。でも、本人はきっぱりと否定してましたからね」
浩介から貰ったカップを手にしたまま、うーんと彩華は唸っている。
「で、これの行方が物凄く気になるんだけど、どうなったの?」
「一応木槌家で使うことになったそうですよ。でも、この写真を後で遼一にも見せたんですけど、妙に気に入ったらしくて。今度宗司さんに会ったらこのイラストを幾つか描いてオリジナル食器欲しいなって言ってましたよ」
「えええええーっ、幾つも!?」
1つでも怖いのに、と引き攣っている。
「ええ、カップの他にも皿やスープ皿、グラタン皿に描いて欲しいって。俺には時々遼一が分かりません」
「でも、怖いけど、見て見たい気はする。好奇心がなおさら煽られるっていうか、正に怖いもの見たさって感じだけど」
「まあ、なんとなく俺もそう思いますけどね。万が一、その写真が手に入ったら彩華さんにも見せますね」
「うん、お願い」
そして、年内には遼一の元へ沢山の宗司オリジナルシリーズが届き、それを見た奥さんの七海さんから物凄く不評を買ったのだとか。
その勢ぞろいした写真を見た彩華は、声に出して感想を言うことなく携帯を浩介へと戻すのだった。
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